セックス体験談|セフレと恋人の境目<最終夜>

隔たりセックスコラム「セフレと恋人の境目<最終夜>」

隔たり…「メンズサイゾーエロ体験談」の人気投稿者。マッチングアプリ等を利用した本気の恋愛体験を通して、男と女の性と愛について深くえぐりながら自らも傷ついていく姿をさらけ出す。現在、メンズサイゾーにセックスコラムを寄稿中。ペンネーム「隔たり」は敬愛するMr.Childrenのナンバーより。


【女と男の隔たり】セフレと恋人の境目 ~最終夜~の画像1
※イメージ画像:Getty Imagesより

『セフレと恋人の境目 〜第1夜〜』
『セフレと恋人の境目 〜第2夜〜』
『セフレと恋人の境目 〜第3夜〜』
『セフレと恋人の境目 ~第4夜~』
『セフレと恋人の境目 ~第5夜~』

 別れ。それはいつだって唐突に訪れる。

 人は出会った人としか別れることはできない。つまり、僕らは出会った瞬間に別れの可能性を抱えながら関係性を築いているということだ。

 七海と出会ったのは約1カ月前。今の僕らは「セフレ」という関係を選択し、一緒にいる。


「おはよう」


 セックスをして、そのまま裸で朝を迎える。僕らは出会ったときから、何度も裸で朝を迎えた。初めて見た時に興奮した七海の体。今となっては、裸であることを当たり前に受け入れてしまっている。


「今日は仕事?」


 七海はタンスの引き出しを開けながらそう尋ねた。中から几帳面に畳まれたブラとパンティーが取り出される。シャワーを浴びてからは、もうセックスすることが暗黙の了解で決まっているので、いつも裸でベッドに入っていた。だから、朝起きたらタンスの中から洋服を取り出すのもいつもの光景だ。


「うん、今日は仕事」


 僕もベッドから降りて、ベランダに干されていた下着を手に取る。この1カ月、ほとんどの時間を七海の部屋で過ごしているから、洗濯もこの部屋でするようになった。

 

「だから、七海と同じ時間に出るよ」

「そっか。ご飯いる?」

「んー大丈夫かな」

「わかった。私は食べるから、のんびりして」


 七海は冷蔵庫から作り置きの料理を取り出し、机に並べて食べ始めた。料理が趣味の七海は、基本的に自炊で食事を済ましている。僕も何度も七海の料理を食べさせてもらった。


「七海は本当に料理上手だよね」

「え、ありがとう。嬉しい」

「うん。でもやっぱ、七海の料理の中だと親子丼が一番好きかな」


 初めて出会った日、僕は七海の作った親子丼を食べた。そして、そのままの流れで泊まり、セックスをした。最初の頃、「親子丼を食べる」という言葉は、僕らにとって「セックスしよう」と等しい意味を持っていた。


「そろそろ七海の親子丼が食べたいな」

「いいよ。そしたら、今日作ろっか?」


 七海は僕の方に振り向いてそう微笑む。可愛い。七海の微笑みを見ると、いつも僕らが「セフレ」だということを忘れそうになる。


「そしたら、お願いしよっかな」

「了解! 楽しみにしてて」


 七海は再びご飯を食べ始めた。僕はベッドに腰掛ける。ちょうど、七海の後ろに座っている格好になった。僕は食事中の七海を後ろから抱きしめる。

 

「ちょっと、ご飯たべれないよ」


 七海は嬉しそうに笑う。


「いいじゃん」


 僕は七海の顎に手を添えて、後ろを振り向かせた。そしてご飯を食べている最中の七海の唇に、自分の唇を重ねる。


「ご飯たべてる最中だよ?」

「いいの。最初の頃、親子丼食べた時もしたじゃん」

「そうだけど…」

「これが俺の朝ごはんね」


 舌を七海の中へと侵入させる。七海は慣れたようにそれを受け入れた。舌が絡まり合う。歯磨きをしてうがいをした後の綺麗なキスもいいが、生きるために食べ物を咀嚼したばかりの口で行うキスは、動物的な本能を呼び起こすようでものすごく興奮する。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


 喘ぎ声が溢れ出す。服の上から胸を揉むと、七海は体をくねらせた。円を描くように大きく揉むと、七海の舌も円を描き始める。七海の裸は見慣れてしまったが、セックスに関しては全く飽きる気配が漂っていない。


「…遅刻しちゃうよ」

「ごめん」

「今日の夜は?」

「来ていいの?」

「…うん。いいよ」

「じゃあ、続きはその時にしようか」


 七海は残りのご飯を食べ終え、食器を片付ける。僕は少し膨らんだ股間を撫でながらベッドに横たわり、七海の準備が終わるのを待った。


「ごめん。お待たせ」

「おっけ。じゃあ行こうか」


 一緒に七海の部屋を出る。いつもは違う階に止まっているエレベーターが、珍しく七海の部屋の階に止まっていた。


「お、珍しいね」

「そうだね」

「じゃあ、一緒に乗ろうか」


 このマンションのエレベーターはスピードが遅い。そして七海の住む階は女子寮なので、僕は周りの住人にバレないようにと、普段は階段を使って1人で降りていた。

 一度、同じ階に住む七海の友達に見られてしまったことがあった。それは七海が僕のことを「いとこ」と伝えたことにより、なんとかことなきを得た。


「そういえば、あれから友達には何か俺のこと聞かれた?」

「うーん、聞かれてないわけではないけど…」


 七海は友達に言われたことを言っていいか悩んでいるようだった。そんな顔をされてしまったら、悪い話かもしれないという可能性があっても、気になって聞きたくなってしまう。


「なんて聞かれたの?」

「その…いとこは仕事をしているのかって」


 何と答えたらいいのか、僕は戸惑った。なぜなら僕は仕事をしていないから。仕事に関して、僕は七海にずっと嘘をつき続けている。

 胸にどんよりとした黒い感情が広がっていく。

 

「何って、最初の頃話したじゃん」


 初めて朝を迎えた日、七海に仕事のことを聞かれて僕はとっさに前の会社の仕事を答えた。その時は「今はプロジェクトが終わって休みをもらっている」と誤魔化した。

 しかし、僕はこの時、急に質問をされて自分が何と言ったのか忘れていた。なんて答えようかと頭を必死に回しているが、答えが出てこない。


「そうだよね。最初の頃話してくれたよね」


 僕はニートであることなんて素直に言えない。もし打ち明けた時に変な目で見られてしまったり、軽蔑されてしまうのが怖いのだ。七海は優しいからそんなことをしないとわかっていても、自分がニートであると打ち明ける勇気は僕にはなかった。

 七海は何かを察したのか、それ以上その話を広げることをやめた。エレベーターの中には不穏な空気が流れている。このエレベーターは上がってくるときも遅いが、降りるスピードも遅かった。それが余計に息苦しくさせる。

 逃げ出したい、という衝動がふつふつと沸いてくる。

 今日の朝の楽しい雰囲気が嘘のようだった。仕事の話ひとつだけで重い空気になってしまう。僕のせいとはわかっている。だからと言って、打ち明ける勇気はない。

 ふたりとも無言のまま、エレベーターはゆっくりと1階にたどり着いた。


「じゃあ、また」

「うん。仕事行ってくるね」


 家の前で僕らは解散した。七海の歩く後ろ姿を少し眺めてから振り返り、僕は駅へと向かう。

 楽しい日々が続いたとしても、今日も楽しい日々を過ごせるかはわからない。昨日まで毎日ようにセックスできてたとしても、今日もセックスできるとはわからない。

 過ごしてきた日々がそのまま、今日に続いていくとは限らない。

 電車に乗って携帯を開くと、七海からラインが来ていた。


「さっきはごめんなさい。夜、親子丼を作って待ってるね」


 重たい空気にしたのは、僕が仕事のことで嘘をついているせいなのに。七海のラインはいつも優しい。


「こっちこそごめんね。夜も行くよ」


 今の気分では正直、七海の家に行きたくなかった。またあの重たい空気になるのが怖かった。

 けれども、セックスができる。それだけで家に行く理由になる。会う理由になる。重たい空気になったとしても、セックスすればいい雰囲気になるだろう。

 僕はそう何度も自分に言い聞かせた。

 

 玄関の扉を開けて僕を迎え入れた七海は、とても嬉しそうな表情をしていた。なぜだかわからないが、テンションが高いようだ。


「隔たりに会ってから、私は毎日楽しいんだよ」


 親子丼を食べてるときも、七海のテンションの高さは変わらなかった。あまりにも高いので、今日何がいいことあったの、と聞いてみた。


「職場の人からね、『七海ちゃん最近みるみる可愛くなったね』って言われたの」


 嬉しい、と七海は頬を緩ませた。こんなにテンションの高い七海は初めて見た。と同時に、僕は七海に対してあまり「可愛い」と言ってないことに気づいた。


「やっぱり可愛いって言われると嬉しいの?」

「そりゃ嬉しいよ。だって可愛くなりたいっと思って、髪だったり化粧だったり服だったり、色々と工夫しているんだから」


 部屋の隅にかけられた色とりどりのベレー帽が目に留まる。初めて会ったときに被っていたベレー帽。最近、七海はベレー帽を被らなくなった。


「隔たりのおかげで毎日が楽しい。ありがとう。多分、楽しいから表情が良くなったのかな」


 七海はそう悪戯っぽく笑った。

 確かに、出会った時の七海は自信のなさそうな顔をしていた。僕と過ごしていることで、七海の中で何か自信になったのだろうか。毎日のように男と過ごしていることか、毎日のようにセックスをしていることか。

 それとも、恋をしてるからなのか。


「じゃあ片付けるね。私がお皿洗うよ。先にシャワー浴びてね」


 食事が終わると、七海はテキパキと皿洗いを始めた。これも可愛いと言われた効果なのだろうか。僕は七海に従ってシャワーを浴び、そしていつものようにベッドの上に全裸で寝転がり、七海を待った。

 七海がシャワーから出てくるのを持っている間、僕は部屋の鏡で自分の顔を確認した。僕の顔は七海と出会った時から全く変わっていないように思える。カッコよくもなっていない。自信のあるような顔なんてしていない。何かを隠しているような、元気のない顔に見えた。

 恋人とかセフレとか、関係性なんてどうでもいいと思って約1カ月間、七海と過ごしてきた。関係性を気にしなくなってから過ごした日々は、僕にとってとても心地いいものだった。

 ニートであることを隠しているから、朝のような重たい空気になってしまう。けれど、ニートを打ち明けてしまったらこの心地のいい日々が崩れてしまいそうで怖い。

 七海が元カレのことを打ち明けて僕らの関係は、見るからによくなった。そう考えれば、僕もニートであること打ち明けたほうが、関係性がよくなっていくのかもしれない。

 そう考えていても、ニートであることを打ち明けるのは苦しい。七海の話は「元カレに傷つけられた」という話だ。七海自身は悪くない。僕がニートであるという話は「僕が怠惰である」という話に聞こえてしまう恐れがある。今はちゃんと働いている設定でいるからこそ、その振り幅で「情けない男」として見られるのが怖い。

 そう、僕はそんな怠惰な自分を七海とセックスをすることによって肯定していたのだ。もし打ち明けてセックスができなくなってしまったら、僕は自分を肯定できなくなってしまう。

 何度考えても、やはり七海にニートであることを打ち明ける気にはなれなかった。

 洗面所の方からドライヤーの音がしたので、僕は電気を薄暗くしてベッドに潜り込む。今日もまた、これから七海とセックスをする。そのおかげで、何もしなかった僕の今日1日に意味が加わる。


「お待たせ」


 七海はバスタオルをほどき、裸で僕のいる布団の中に潜り込んできた。そしていつものように抱きしめ、キスを始める。ゆっくりと、ねっとりと。そして徐々に早く、舌が絡まり合う。

 七海とキスをしていることが僕に自信をくれる。自分は毎日のように女性とキスができるほどの価値がある人間なのだと。

 キスをしながら七海の体に触れていく。何度も触ったはずなのに、胸の膨らみに触れると脳が弾け飛びそうになるほど興奮してしまうから不思議だ。


「あんっ」


 何度も触っているから、七海の弱いところも知っている。七海は右胸の乳首が感じやすい。そこを人差し指で優しく触れながら、激しく舌を絡ませていく。


「んっ、あっ、んん」


 乳首に触れていると、七海は感じてしまうせいか口をすぐに離してしまう。僕はいつも、すぐにかぶせるようにキスをする。誰かと密着しているということは安心感を与えてくれるから、僕は七海から離れたくなかった。

 キスをしながら、手を下半身へとゆっくり下ろしていく。そこは当たり前のように大洪水だった。何度触っていても、アソコが濡れていると知った時の興奮はたまらない。


「濡れてるよ」

「恥ずかしい…」


 キスを続けながら、愛液で湿らした人差し指をクリトリスに当てた。触れるか触れないか程度の強さで優しくなぞると、七海は本格的な喘ぎ声を漏らし始める。


「あっ、あっ、うぅう…気持ちいぃい」


 いつもクリトリスを触る前とあとで、女性の体の反応が見るからに変わっていくから面白い。七海もそこを触るだけ、ひとつエロいスイッチが入ったような反応になる。ここからセックスに没頭していく瞬間。これから快楽に向かっていくという合図。たまらなく興奮する。


「七海、舐めていい?」


 ふと、唐突に七海のアソコを舐めたくなった。七海に対して何度かクンニをしたことはあったが、毎回してはいなかった。最近は生理の周期だったこともあり、なおさらできていなかった。


「え、恥ずかしいよぉ」

「でも、舐めたことあるじゃん」

「そうだけど、恥ずかしいのっ」


 先ほどまで喘いでいた七海は、急にただをこねる子供のように体を縮こませた。

 手がアソコから離れる。


「え、どうしたの?」

「恥ずかしいのっ」


 体を縮こませた七海は僕に背を向けた。


「あれ、舐められるの嫌いだったっけ?」

「恥ずかしいのっ」


 僕が何を聞いても、七海は「恥ずかしい」の一点張りだった。前にクンニをした時は一切恥ずかしがっていなかったから不思議に思った。何があったのだろう。


「どうしたの?」


 背を向けている七海の体に手をかけ、こっちを向けさせようとするも、七海は振り向かない。


「恥ずかしいのっ」


 そう言った後、七海は「うふふ」と笑った。七海は楽しんでいる。なぜだかわからないが、体の中に熱いものがふつふつと沸いてきた。


「ごめん。七海に気持ちよくなってほしいから舐めたいんだ」

「恥ずかしいから、嫌だっ」


 顔は見えていないが、声色から七海が笑っているということがわかった。

 体の中に沸き上がってくる熱は止まらない。

 

「ごめん、嫌だったら言ってほしい。嫌じゃなかったら、舐めさせてほしい」


 体が熱くなると同時に、僕は「クンニ」に対して執着し始めていた。七海に断られると、余計に執着したくなる。


「えー、どうしよっかな」


 七海は再び「うふふ」と笑った。七海は明らかにこの状況を楽しんでいる。僕の中に「怒り」が沸き上がっているとも知らずに。


「じゃあ、別にもういいよ」

「えっ」


 吐き捨てるような言葉が、僕の口からこぼれ出た。


「舐められたくないなら、舐めないよ。嫌なんでしょ? ならいい」

「え、そういうわけじゃなくて」

「じゃあ、どういうわけ?」


 語気の強くなった僕の言葉に七海は驚き、そして言葉を失っているようだった。


「別に舐めないから、もういいよ」


 僕は体を起き上がらせて、ベッドの端に腰掛ける。


「ごめんなさい。その…なんか、恋人みたいにいちゃいちゃしたくなっちゃって」


 七海は僕の背に軽く触れながらそう言った。その声は震えていた。

 恋人みたいにいちゃいちゃしたい、と七海は言った。

 おそらく、


「舐めさせてよ」

「恥ずかしいからやだっ」

「えーいいじゃん」

「もう、しょうがないなぁ」


 というやり取りをしたかったのだろう。

 しかし、僕は「恥ずかしい」「嫌だ」という七海の言葉を、否定として受け取った。僕がせっかくクンニをして気持ちよくさせてあげようと思ったのに断るなんて、と善意を踏みにじられたような気分になった。

 恋人かセフレか。ずっと悩んでいた七海との関係性。七海の優しさと、そして自分の頭で考えた結果、「セフレ」という関係を僕らは選択した。

 その選択をしてから、皮肉にも僕らは「恋人」のような日々を過ごした。その日々は再び、僕らが恋人かセフレか、ということを曖昧にしていた。

 このまま進んでいくのだろう。恋人なのかセフレなのか。関係はなんだっていいのだ。一緒にいれて楽しければ十分だ。そう思って日々を過ごしてきて、今。

 恋人のようにいちゃいちゃをしたい。そんな気持ちから生まれた七海の行動を見て、僕の中に怒りが湧き上がってきた。その感情が、頭で考えた解ではなく、内側から湧き上がっていた本能的な解を叩き出す。

 別に僕は、七海と恋人ごっこがしたいわけじゃないんだ。

 七海とのセックスの気持ち良さがいつしか、「七海と付き合う」という気持ちを、圧倒的に飛び越えてしまった。今の僕はただ、七海とセックスがしたいだけなのだ。

 七海は僕の背中に触れながら、言葉を待っている。僕は感情を押し殺して、つぶやくように言った。


「そういうのはいらない。七海と普通にセックスがしたい」


 僕は振り向いて七海を抱きしめ、そのまま押し倒した。七海は泣きそうな顔をしていた。その顔に激しくキスの雨を降らす。

 唇が重なると、当たり前のように舌が絡まりあう。七海の舌は柔らかくて気持ちいい。先ほどまでの空気が嘘のように、七海も目をつぶってキスに没頭していた。これでいい、と心の中で呟く。僕らはこれでいいのに。

 キスをしていると、七海の手が僕のモノに触れた。


「舐めて欲しい」


 僕がそう言うと、七海はいつものようにモノを舐め始めた。裏筋、カリ、亀頭。柔らかな舌で敏感な部分を丁寧に刺激してくる。これでいい、と再び思った。いま七海が僕を気持ちよくしてくれているように、僕もクンニで七海を気持ちよくさせたかった。ただその行為をさせて欲しかっただけなのに。

 モノ全体を舐め終えると、七海はモノを口に含んだ。そして口をすぼませながら、激しく吸引し始める。相変わらず、七海のフェラは気持ちいい。

 そう、これでよかったのに。僕らはただ相手を気持ちよくさせあう。セックスを楽しみあう。それでよかったのに。

 七海のフェラ顔を見ながら、僕は何度もそう思った。

 

「そしたら、入れようか」


 七海を寝かせ、ゴムを取ろうとベッドを降りようとした時だった。


「つけなくていいよ」

「えっ」

「生で大丈夫」

「いや、でも」

「生は嫌?」


 七海は不安な顔をしていた。さっきのことに対する、七海なりの謝罪方法なのかもしれない。


「嫌じゃないよ。七海がいいなら、生でする」

「うん」


 僕はゴムを取りに行くのをやめ、七海の足の間に体を入れた。


「そしたら入れるよ」

「うん」


 生の状態のモノが、七海のアソコの中へ入っていく。

 その前にどんなことがあったって、性器が生で絡まり合う時の快感は裏切らない。


「腰振るよ」


 僕は体をおろして七海を抱きしめる。七海も僕の首の後ろに手を回した。そして深いキスを交わしながら、腰を振る。


「んっ、んっ、好きぃ、好きぃ、好き!!」


 七海は何度も「好き」と声をあげた。これが七海との最後のセックスだった。

 

 もし七海が僕の彼女だったとしたら。僕はニートであることをちゃんと話せていたのだろうか。

 もし七海が僕の彼女だったとしたら。僕は七海が望んだいちゃいちゃにイラつくことはなかったのだろうか。

 セフレや恋人という関係性なんてどうでもいい。恋人なんてただの口約束だ。一緒にいて楽しければいいんだ。そう思って七海と約1ヶ月間過ごしてきた。

 その1ヶ月は本当に楽しい時間だった。恋人にならなくたって、恋人のような楽しさを味わうことできるとさえ感じていた。

 けれど、その中で七海に伝えられなかったことがたくさんあった。働いてないこと、悩んでいること。そういう状況が、七海とのズレを生み、関係性を終わらせてしまった。

 七海と一緒にいる間、ずっと考えていたことがある。セフレとは何か。そして、恋人とは何か。

 セフレとはおそらく、セックスを楽しみ合う関係のことだ。それ以上でもそれ以下でもない。セックスが楽しめなくなってしまったら、その関係はあっけなく終わってしまう。

 そして、恋人とは。

 僕は付き合うことなんてただの口約束だと思っていた。だから、その言葉があるかないかというだけで、根本的にはセフレと変わらないと思っていた。

 でも、それは違かった。付き合うという口約束には「あなたと一緒にいたい」という意志が含まれている。その意志が何より大事なのだ。悩んでしまった時や苦しいことが起こった時に、その意志がふたりの関係を支えていく。恋人という関係を作り上げようと努力する。その想いによって、相手に悩みを打ち明けたり、弱みをさらけ出せたりできるようになるのだ。

 そうやって築き上げた関係は強固になる。ずっと一緒にいるには口約束でも「付き合う」という言葉は必要で、それを支えにしながら恋人たちは関係を作っていくのだと、僕は七海と別れることで初めて知った。


「ごめん、今日は終電で帰るね」


 最後の七海とのセックスが終わったあと、僕はそう言って服を着て家を出た。七海は何も言わなかった。

 真っ暗な住宅街を歩いて駅へと向かう。この街での夜はずっと、七海とベッドの中で過ごしていた。初めて見るこの街の夜中は、静けさが漂いすぎていて、とても不気味だった。

 おそらくもう七海と会うことはないだろう、という感覚が体全身に広がっていく。付き合うという意志を持てなかった関係の、終わりはあっけない。

 もう少しで駅前にでるという時に、静かな住宅街に携帯の着信音が響き渡った。画面には「七海」と書いてあった。


「もしもし」


 電話越しから、涙をすする音が聞こえる。

 その音が引き金となって、罪悪感が僕の心を支配し、自然と頬に水滴がつたう。


「七海…ごめんなさい」


 そう言うのが精一杯だった。


「ううん、こっちこそごめんなさい」


 人は出会った瞬間に、別れの可能性を抱きながら関係性を築き始める。そのことに気づくのは、いつだって別れが目の前に来てしまった時だ。


「俺、本当は働いてないんだ。ニートなんだ。今まで嘘ついてて、ごめん」

「知ってたよ。働いてないこと、知ってたよ」


 大切なことはいつだって、何かを失う時に気づく。


「嘘をついててごめんなさい」


 セフレという関係を選択した僕と七海。


「本当に今までありがとう」


 七海とのセックスは本当に楽しかった。


「もう会えないんだね」


 涙声ではなく、力強い声で七海はそう言った。


「私も、隔たりに会えて楽しかった」


 出会った頃からずっと、七海は優しかった。


「会えなくなるのは寂しいけど…しょうがないよね。私たちは恋人じゃないから」


 うん、と僕はか弱い声を絞り出す。

 セフレのような恋人で、恋人のようなセフレだった七海。

 もし違う出会い方をしていたら、僕らはまた違う関係を、ちゃんとした恋人としての関係を築けたのだろうか。

 静かで真っ暗な住宅街を抜け、駅前の道へと出た。数々の店のネオンがきらびやかに光っている。


「そしたら、駅に着いたから」


 頬を濡らした涙を拭き、僕はそう言った。同じように、涙を拭う音が電話越しに聞こえる。


「うん、わかった」


 1度大きく深呼吸をして心を落ち着かせる。

 そして、七海への最後の言葉を、口にした。

 その言葉を聞いて、七海は僕と同じ言葉を口にした。

 深夜の柔らかな風が頬に当たる。

 涙の流れたところだけが、ひんやりと感じる。

 その上をまた、あたたかな水滴がゆっくりと流れ落ちた。

 (完)

(文=隔たり)

▼セフレと恋人の境目▼

 暖かさを感じるのは、寒さを知っているからだ。裸でベッドに寝転がっていると、肌に触れている部分が冷たく感じる。ベッドには体温がない。人の肌は、人の肌に触れた時だけ、暖かみを感じる。そして肌の奥にある、人の内側に触れると、そこは火傷しそうなほど熱い。今、下半身だけが、熱い。

 セックスした次の日の目覚めは早い。それは興奮の名残によって眠りが浅くなるからだ。七海と触れ合った感触がまだ、身体の至るところに残っている。

 挿入よりもキスが好きだ。キスをしていると、もう挿入なんてしなくていいと思ってしまう。なんなら、たくさんキスをしたいという理由で、セックスがしたいとさえ思うこともある。

 下半身の違和感で目が覚めた。目をこすり、顎を引くようにして顔だけ上げると、裸の七海がベッドに腰掛けていた。七海の手は布団の中に潜り込んでいる。

 生で挿入した時の気持ち良さは、いつだって想像を超えていく。たった0.03ミリの薄い膜があるかないかだけの違い。挿入の快楽において、その0.03ミリという差は圧倒的に大きい。

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