セックス体験談|セフレと恋人の境目<第5夜>

隔たりセックスコラム「セフレと恋人の境目<第5夜>」

隔たり…「メンズサイゾーエロ体験談」の人気投稿者。マッチングアプリ等を利用した本気の恋愛体験を通して、男と女の性と愛について深くえぐりながら自らも傷ついていく姿をさらけ出す。現在、メンズサイゾーにセックスコラムを寄稿中。ペンネーム「隔たり」は敬愛するMr.Childrenのナンバーより。

 

セックス体験談|セフレと恋人の境目<第5夜>の画像1
※イメージ画像:Getty Imagesより

『セフレと恋人の境目 〜第1夜〜』
『セフレと恋人の境目 〜第2夜〜』
『セフレと恋人の境目 〜第3夜〜』
『セフレと恋人の境目 ~第4夜~』

 生で挿入した時の気持ち良さは、いつだって想像を超えていく。たった0.03ミリの薄い膜があるかないかだけの違い。挿入の快楽において、その0.03ミリという差は圧倒的に大きい。

 パンパンになったモノの形に合わせるように、膣内が密着する。本日2度目のセックスだからか、中はほぐれていて柔らかい。とろけるような暖かさに包まれたモノは、膣の中で再び大きくなっていく。

 お互い言葉を交わさなかったが、目で合図を送り合い、僕らは生で合体した。入れたいという興奮が大きくなると、ゴムをつけるためのたった数秒すら煩わしくなってしまう。

 七海もその数秒が待てないほど、モノを受け入れたかったのだろうか。


「あっ、あっ、あっ」


 生のモノに跨った七海は、気持ち良さを少しも逃さないというように目をつぶり、腰を振り始めた。こすりつけるような腰の動きをしている七海の姿は、ゴムをつけていた1回目のセックスよりも喜びに満ち溢れているように見えた。

 しばらくして、七海が腰の動きを止めて足をM字に開いた。そして両手を僕の腹の上に置いて自らの体を支え、腰を上下に動かし始めた。

 七海の腰が降りるたびに、パンパンと卑猥な音がなる。1、2、1、2と正確にリズムを刻む指揮者のように、七海は腰を上げたり下ろしたりしていた。そのリズムが心地いいのだろう。七海は目をつむりながら、その上下運動をひたすら繰り返す。

 七海の手から体重がかかっているので、僕は動けない。まるで犯されているような気分だ。


「あっ、あっ、あん、あんっ」


 七海は上を向きながら、可愛げな吐息を漏らす。その吐息も、上下に揺れる柔らかな胸も、振り子のように前に後ろにと揺れるショートカットの髪も、パンパンと性器が重なり合うリズムと全く同じリズムで動いている。

 僕はその音と、いやらしい光景を冷静に眺めていた。

 生で挿入したとき、始めはいつも我を失いそうになる。だが、我を失いそうになるのは挿入した瞬間だけで、何度か腰を振ると快楽に慣れてしまうせいか、そのあとは冷静にセックスを楽しめることが多い。

 今も挿入した瞬間は、言葉にできないほど気持ち良かった。それはいつもと同じだったので、本来ならば、このあとは純粋にセックスを楽しめばいい。そう思ったのだが。

 モノが生で膣の中を往復するたびに、徐々に頭の中に不安が生まれてくる。

 七海は今日、大丈夫な日なのだろうか。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」


 七海は僕の中に生まれた微かな悩みなどおかまいなしに、腰を上下に振り続けている。この姿を見て、今日は危険日なわけないか、と思い込むようにした。

 生でセックスする気持ち良さは、いくら慣れてしまったとはいえ、ゴムをつけた時と比べ物にならない。ゴムを外しただけでこんなにも気持ち良さが変わるのか、といつも思う。

 しかし、砂糖を取りすぎると太るように、タバコを吸うと健康被害があるように、強烈な快楽にはリスクがつきものだ。そう、生での性行為には妊娠や性病のリスクを伴う。

 妊娠。性病。

 性行為によるリスクが頭をよぎり、僕はセックスに集中できなくなっていた。

 もちろん、生での性行為は何度か経験がある。まだセックスを知りたての頃は、初めての刺激にただ興奮していただけだったから、不安よりも喜びの方が優っていた。

 しかし、今はどうだろうか。歳を重ね、セックスについての知識が増えれば増えるほど、ただ欲求に身を任せたセックスができなくなっていた。行為の順序を意識し、相手の体を慮るようになった。

 それはとても良いことであるし、僕自身もそう思っている。だが、自分の欲が全て満たされるようになったかと問われると、疑問がつく。相手を優先するばかりで、自分の気持ち良さは二の次になっているような気もする。

 実際に今も、妊娠や性病のことが頭をよぎり、だんだんセックスを楽しめなくなっていた。

 どうせ生でしているのだから、リスクには目をつぶり、快楽に委ねるのが楽しいのは間違いない。実際に多くの人が、そうやってセックスを楽しんでいるのだろう。

 だが、僕の頭の中はどうしてもリスクに引っ張られてしまう。モノに伝わるの圧倒的な気持ち良さと、頭の中にある生セックスのリスク。下半身と上半身で考えていることが分離している。

 自分をコントロールする脳が、ふたつあるような気分だ。


「ちょっと、ストップ」


 僕は腹の上に置かれている七海の手を握り、動きを止めさせた。


「あ、ごめん。痛かった?」


 七海は申し訳そうな表情でそう尋ねる。腰の動きは止まっても、無意識か、膣の中はまだ動いているように感じた。


「いや、痛くないんだけどさ」


 僕は体を起き上がらせた。そして七海の腰を両手で持ち、支えながら押し倒す。


「あっ」


 七海はモノが抜けたのがわかったようだ。

 粘着質な液体が、モノと膣をつなぐように糸を引いている。


「妊娠とかするとまずいから、ゴムつけるね」


 僕はベッドからおりて、カバンの中からコンドームを取り出す。封を開けながらベッドに戻り、装着しようとモノを握った。先ほどまで膣内に入っていたそれは、ヌメヌメとしていた。


「ちょっと待ってね」


 ヌメヌメになったモノにゴムをかぶせる。ゴムの表面についたローションよりも、モノについた愛液の方が滑りが良くなりそうな気がした。今更つけるのも遅いとは思うが、不安を感じながらセックスするよりかはよっぽどいい。

 

「そしたら入れるね」


 本能よりも頭でセックスするようになってから、純粋に生セックスを楽しむことは少なくなった。


「う、うん」


 僕はいつも本能よりも理性を優先する。純粋な下半身の意志よりも、頭の中を優先してしまう。

 ゴムをまとったモノが、中へと侵入していく。

 生で挿入したあとだから、感動は少ない。


「腰振るね」


 だが、ゴムをつけていると不安から解放される。純粋に七海の体を感じることができる。


「あっ、あっ、あん!」


 生で挿入した時と同じようなリアクションを七海は見せた。本当は七海もゴムがついているよりも、生の方が気持ちいいだろう。それなのに喘いでくれて、優しいなと思った。


「七海、めっちゃ気持ちいよ」


 腰を振ると、柔らかな胸が揺れる。七海の表情が艶っぽくなる。いやらしい喘ぎ声が響く。直接モノに刺激を与えるものではなくても、気持ち良くなるための要素はいくらだってある。


「キスしよう」


 僕は返事を待つことなく体を倒し、七海の口の中に舌をねじ込んだ。舌が絡まり合うと、無意識に唾液が溢れ出てくる。挿入している下半身と同じくらい、上半身だって興奮を与えてくれる。

 妊娠などの不安が消え去って、僕はどんどんセックスへと没頭していった。キスをしながら両手で七海の体をまさぐったり、口を離して七海の体の至るところにキスをした。僕は下半身だけではなく、全身で七海の体を味わった。

 もしかしたら、コンドームをつけるのは妊娠などのリスクを避けるだけではなく、セックスを集中させてくれる効果もあるのかもしれない。


「イくよっ」


 絶頂に達すると同時に、僕は七海の腰を持って奥深くにモノを突き刺した。先端からドクドクと精子が流れ出ているのを感じる。膣の中でイケることは気持ちが良い。これも、ゴムをつけているからできることだ。

 精子が漏れないように気をつけながらモノを抜き、ゴムを処理してゴミ箱へ捨てた。七海は少しも動かずにベッドに横たわっている。「大丈夫?」と声をかけても、返事はない。


「初めて2回連続でしちゃったね」


 僕は独り言のようにそう呟きながら、七海のお腹をさすった。どちらから溢れ出たかわからない汗が、手のひらに広がる。

 華奢な体型なので、七海のお腹は薄い。今触っているお腹の奥にさっきまで入っていたと思うと、人の体とは不思議なものだと思った。

 この中に、あの白い液体が放たれると、人の命が宿る。

 そう考えれば神秘的な行為なのだが、もちろん実感などは全くない。


「ごめんね」


 お腹をさすっていると、七海が呟いた。


「え、なにが?」


 僕はお腹をさするのをやめ、七海の横に寝転がった。休日に床に寝転がってせんべいを食べながらテレビを見る父親のように、肘をベッドにつけて頭を支え、七海の顔を覗き込む。

 七海はゆっくりと目を開けてこちらを向いた。


「最初、ゴムつけなくてごめんなさい」

「いや、大丈夫だよ。その、俺も生でできて嬉しかったし」

「…でも、やっぱりゴムってつけるべきだよね」


 七海はどうやら反省しているらしかった。

 

「私が勝手に入れちゃったから」

「いやいや、嬉しかったよ。でも途中で妊娠とか不安になっちゃって…。こちらこそ、ごめん」


 僕は体を起き上がらせ、ベッドの上で正座し頭をぺこりと下げる。さすがに寝転がった格好で謝るのは憚れた。


「でもゴムつけないで入れるのってまずいよね。ごめん」


 七海も体を起き上がらせ、軽く頭を下げた。ショートカットの髪が揺れ、七海の表情は確認できない。

 頭を下げた状態のまま、七海は動かなかった。顔が髪で隠れていて、その俯いている姿は泣いているように見える。僕は慌てて声をかけた。


「ど、どうしたの?」


 そう問いかけても、七海は俯いたままだった。右手をお腹に当てて軽くさすっている。


「ごめん、さっき痛かった?」


 七海は首を横に振った。短い髪が揺れ、ちらりと表情が見えた。なにやら考えているような、不安に支配されているような表情だった。

 初めて出会った日から、セックスの激しさが増すとともに、七海の不安な表情を見る機会が増えた。セックスの快楽と喜びは比例しないのだろうか。

 どうしたらいいかわからなくなった僕は、とりあえず「ごめん」と頭を下げた。それを見た七海は「いや違うの」と顔を上げ、僕の手に自分の手を重ねた。


「隔たりのせいじゃないよ」

「それならいいんだけど、何かあったの?」


 痛いのが違うというのなら、なにが七海の顔を暗くさせているのかわからなかった。わからないから、再び僕の心に不安が広がる。せっかくセックスをしたのに、このまま不穏になるのはなんだか嫌だった。


「もし大丈夫なら答えてほしい。じゃないと今日、眠れなさそう」


 そうだよね、と七海は小さな声で呟いた。そして「また元カレの話なんだけど」といって話し始めた。


「初めて元カレと生でするとき、怖いって断ったの。でも彼は『付き合ってるなら生でしないほうがおかしい。愛し合ってるから生でするんだよ』って言ったのね」


 七海はまだお腹をさすっている。


「彼の言いたいことはなんとくなくは分かるの。愛の証明?みたいな。それでも私は妊娠が怖くて断った。そうしたら、『じゃあ俺のことが好きじゃないの? 生でできないってことはそういうことなの?』って強く言われて。その時は彼のことが大好きだったから、怖かったけど生でした」


 そこで七海は「膝しびれてない?」と微笑んだ。確かにしびれていたので、僕は「ありがとう」と言って足を崩す。疲れたから寝ながら話そうということになり、僕らは寝転がって天井を見ながら話を続けた。


「怖かったんだけど、生はめっちゃ気持ち良かったの。それ以来、妊娠の怖さとか忘れちゃって、毎回生でしてた。彼も生でしたいって言うし、私も生の方が気持ち良かったから」


 七海はそこでフーッと大きく息を吐いた。


「それで生でしてたんだけど、一回だけうまくいかなくて中で出されたことがあったの。その時はたまたま安全な日?だったから大丈夫だったんだけどさ、生理が来るまではビクビクしちゃって。そういうのがあったから、さすがに排卵日の時は『ゴムつけてほしい』ってお願いしたんだよね」


 つまらなくない?と七海は僕の方を向いた。そのまま続けていいよ、と僕は七海にキスをする。


「ありがとう。それでね、ゴムをつけてほしいってお願いしたんだよ。そしたら、なんて言われたと思う?」


 俺のことが好きじゃないの…かな、と僕は答えた。七海は首を横に振りながら「半分正解」と微笑んだ。

 

「隔たりが言ったように『俺のこと嫌いになったのか?』とは責められた。でも驚いたのはそのあとの言葉。彼は『もしかしたらお前、他の男と生でやったのか!?』って言ったの」

「え、どういうこと?」

「そうなるよね。私もその時は訳がわからなかった」


 七海が「他の男とやってない」と言っても、彼は態度を頑なに変えなかったという。


「なんでそう思うのって聞いたら『他の人とやると中の形が変わるっていうもんな。俺にバレたくないから生でしたくないんだろ!?』って怒鳴られて。他にも彼の妄想というような、訳のわからない理由を並べられて責められた。私はもう、何も言えなかった」


 ストレスが溜まってたのかもね、と七海は自嘲気味に笑った。その時のことを思い出しているのか、表情は怒りで引きつっていた。


「しんどかったら無理して話さなくてもいいよ」

「ごめんなさい。でも話し始めちゃったから、最後まで話させて」

「わかった」


 僕は七海の方へ身体を向ける。そして祈るように、七海の手を握った。


「最後まで聞くよ」


 七海はこちらを向いて、コクリと頷いた。


「ありがとう。それでね、何も言わない私に向かって彼はこう言ったの」


 間を開けて、彼の言葉をリアルに再現するように、七海は言った。


「『なんでお前はそんなに変態なんだ!!』って」


 僕が「変態」と言って、七海の顔が不安になった瞬間を思い出す。


「『お前はフェラが大好きだもんな。どうせ他の男にもしてたんだろ?』」


 七海は彼のモノマネをするように言った。


「でもフェラって彼が…」

「そう。彼が好きだったから私はフェラを勉強したの。もちろん、それも聞き入れてくれなかった。『そう言えばフェラも上達してたもんな。あれも他の男に教えてもらったんだろ?』ってさらに責められた。その時はもう、私も泣いてしまって、訳がわかんなくなってた」


 彼のためにしてやったことが、浮気の材料として判断される。なんて酷なことだろう。彼がなぜそう考えてしまったのか理解できないが、七海の気持ちには寄り添ってあげたいという気持ちが生まれ、僕は七海を抱きしめた。

 七海は僕の胸に顔を埋める。


「そのまま一方的に振られたの。『お前は変態だから、また浮気するんだろ。もう信用できない』って」

「…ヒドイね」

「そうだよね。でも、自分でも不思議なんだけど、そんなに一方的に責められたのに私は別れたくないって思っちゃったの。好きだったから。ちゃんと説明すればわかってもらえるって、何度も彼にすがりついた。でも、ダメだった」

「そうなんだ」

「うん。ヒドイことされてるのにね。好きって気持ちって、不思議だよね」


 僕の背中に回された七海の手に力が入る。僕を引き寄せるように。


「それ以来、変態な自分が嫌になった。変態だからダメなんだって思った」


 七海がセックスで求めてくる姿を、僕は「変態」と表現した。それはセックスを盛り上げるための言葉のつもりだったし、それによってもっと互いに乱れたいと思ったからだ。

 しかし、七海にとって「変態」という言葉は、彼氏との関係を引き裂いたものなのだ。変態な女は浮気を疑われてしまう。あの時の不安な表情は、彼氏に振られた傷が色濃く七海の中に残っているから出たものなのか。


「だからプロフィールに『ヤリモクは本当に無理』と書いたの。私は彼の言ったような、簡単にやらせる女じゃないって証明するために。元カレに対する少しの抵抗だったの」


 七海は顔を埋めながら強く僕を抱きしめる。何かを決意するかのように。


「隔たりに『変態だね』と言われた時、元カレのことを思い出した。他の男とやってるんじゃないかと思われてしまうんじゃないかって、怖くなった」


 七海は僕の胸に言葉を落とす。


「私、他の人としてないの」


 その言葉は、じんわりと僕の胸に入り込む。


「元カレと別れてから、隔たりとしかしてないの」


 その言葉の後、七海は何も言わなかった。僕は何も言えなかった。

 無言の空気がしばらく流れる。すると、スゥーと七海の寝息がした。

 仕事終わりに2度セックスをして、自分の傷を打ち明けた。七海は疲れていたのだろう。僕は七海の体を包むようにそっと抱きしめた。


「隔たりとしかしていないの」


 七海が寝る前に言った最後の言葉。それは七海の僕に対するメッセージのような気がした。

 僕らは付き合っていない。だから、別に七海が他の男としていても僕が何かを言える立場ではない。それでも七海は、僕としかセックスしていないということをわざわざ口に出して伝えた。

 それは僕の「変態」という言葉に対する解のようにも思えた。

 フェラをするときに何度も「引かない?」と確認したのは、変態と思われたくなかったからだろう。そう思われてしまったら、再び捨てられると考えたのかもしない。

 フェラをしながら「引かない?」と確認すること。曖昧な関係でも会いたいと、メールで送ったこと。七海は僕に嫌われてしまうのを恐れているようだった。

 それは、裏返せば僕への好意と捉えることができる。元カレの時のようなことで僕との関係を終わらせたくないと考えているのだろう。

 それは僕と付き合いたいということなのだろうか?

 七海は過去に負った傷を僕に打ち明けてくれた。満足したように、七海は僕の腕の中でぐっすりと寝ている。

 僕も七海のように、自分の過去を打ち明けることができるのだろうか。そんなことを考えて、またその日の夜もなかなか眠りにつくことはできなかった。

 

 目を覚ますと、七海はもう出社の支度をしていた。


「あ、おはよう。ごめん、先に起きちゃった」


 僕の下半身はだらんと下に垂れている。硬くなっていたらフェラをしてもらえたのかな、と朝から卑猥な想像が浮かぶ。

 僕は目をこすりながら服に着替えた。僕を起こさずに支度を始めたというのは、昨日の話があったせいだろうか。朝からするのは変態かもしれないもんな、とぼんやり思う。

 荷物を整理している僕の背中越しから、七海が声をかけた。


「そういえば昨日、隔たりのこと聞かれたんだよね」

「え、誰に?」

「階段の前の部屋に住んでいる私の友達」


 昨日の朝、七海の部屋を出て僕は階段へ向かった。そのときに部屋の扉が開き、出てきたのが七海の友人だった。七海は友人に、僕との関係をなんと言ったのだろうか。

 なんだか、その答えで僕と七海の関係が決められそうで、心臓がバクバクした。僕が迷って、優柔不断で決められていない七海との関係。

 けれど、自分で決められないものは、もはや他の何かの事象に決めてもらった方がいいのかもしれない。だから、聞こう。

 なんと説明したのか七海に聞こうと口を開こうとしたときに、七海が僕の思いを見透かしたように先に答えた。


「友達に『あの人だれ?』って聞かれたの。…従兄弟って言った。仲がいいんだ、って」


 従兄弟。七海は僕との関係を友人にごまかした。ごまかした。


「それで…よかったよね?」


 七海が不安そうに僕の顔を覗く。そうだ、七海は人のことを気遣う優しい子だ。「従兄弟」と言ったのは、僕が関係をはっきりさせるか迷っているのに気づいているからだ。


「よかったよ。ありがとう。ごめんね」

「ううん。隔たりがどうしたいのかはわからない。でも、昨日も話を聞いてくれた。私は一緒にいるのが楽しい」

「うん、俺も楽しいよ。とりあえず今は、このままでいさしてほしい」


 理由を伝えることは、なかなかできない。


「ということは、従兄弟同士でセックスしちゃったということだよね~」


 そうおちゃらけるのが精一杯だった。七海が笑ってくれたのが救いだった。

 その日から、週に約4日のペースで僕は七海の家に通った。ご飯を食べてセックスをして、朝起きてはセックスをして。たまに一緒に映画を見た。外に出かけるとき、「恋人みたい」と七海は笑顔だった。僕らはもう、曖昧な関係を受け入れていた。

 そして、七海と出会ってから1カ月が経った。


「ごめんね、生理は今日で終わる予定。多分、明日はできると思うよ」

「全然大丈夫だよ。無理しないでね」

「フェラならできるけど…」

「うん、お願い。七海のフェラ好きなんだ」

「そんなに? うん、いいよ」


 ご飯を食べ、シャワーを浴び、裸でベッドに入る。この部屋での当たり前のルーティーン。慣れてしまった生活リズム。

 キスをして、七海の胸を舐める。七海の気分が高揚したのを確認し、ベッドに寝転がる。七海は嬉しそうに、モノをしゃぶり始めた。

 暖かさを感じるのは、寒さを知っているからだ。

 裸でベッドに寝転がっていると、肌に触れている部分が冷たく感じる。ベッドには体温がない。

 ベッドが冷たいからこそ、七海が僕の体に触れている部分が、暖かく感じる。

 元カレに言われのない理由で責められ、振られてしまった七海。人の冷たさによって傷つけられた七海は、僕のモノをいつも優しく暖めてくれる。


「気持ちいい?」


 七海はいたずらっ子のような笑顔でそう言った。当たり前だよ、と僕も笑う。

 ワンルームの縦長の部屋に似合わない大きなテレビ。丁寧に並べられたバンドのDVD。窓際には女性服。そして、色とりどりのベレー帽。

 初めて出会った日に、七海はベレー帽をかぶっていた。その帽子が僕の目に止まる。


「んっ、んっ、んっ」


 部屋の真ん中にある、一人暮らし用の小さな四角い机の上にファッション雑誌が乱雑に置かれている。その穏やかな生活感に、もう安心感を覚えてしまっている。

 もう何度、この部屋に来たことだろうか。そして何度、七海にフェラをしてもらっただろうか。そして何度、セックスをしただろうか。

 七海が元カレとの出来事を打ち明けたあの日から、僕らは曖昧な関係を言葉を交わしてちゃんと受け入れた。

 すると不思議なことに、その日から僕らは恋人のように接していた。待ち合わせをしてご飯を食べ、家に帰ってはセックス。七海が休みの日は、映画や公園へデートをした。

 悩みが消えたことで、お互いに自然体で一緒に居れるようになったのかもしれない。曖昧な関係を受け入れた途端に恋人みたいな関係になるのは、なんだかおかしかった。


「美味しい」


 七海はは口いっぱいにモノを咥え込み、強く吸い始める。さんざん焦らした後の激しいフェラ。七海はいつも、愛おしそうにモノを舐めてくれる。


「や、やばい、イっちゃう」


 暖かな熱に包まれながら、モノはビクビクと痙攣する。管の中を通る液体が、七海の口に全て放たれた。

 元カレとの過去の傷を打ち明けた日から、七海は「口に出して欲しい」と僕に告げた。僕は驚いたが、「隔たりのなら大丈夫」と七海は言った。過去を打ち明けたことで、七海の中に何かしら変化があったのだろう。最近は「変態」と言っても、喜んでくれるようになった。

 七海はモノから口を離すと、満足げな顔で「あーん」と口を開いた。そこにはもちろん、何もなかった。

 元カレとの話をしてから、七海の卑猥さはさらに増しているように思えた。この変化が恋人ではなく、セフレっぽい変化だなとも思う。


「また舐めるね」


 曖昧な関係は一生続かないというのが相場である。七海との曖昧な関係は一体いつまで続くのだろうか。

 初めはただ一泊させて欲しい。そんな気軽な気持ちで七海を誘った。そして気がつけば僕はもう、七海とのセックスの虜になってしまっている。

 僕らはセフレだ。でも時折、「付き合ってるのではないか?」と錯覚してしまう。そういったものを含めた「曖昧な関係」である僕たち。

 七海と出会ってから1カ月が経った。

 

「また硬くなったよ」


 七海は笑顔を見せる。未来を考えるのはやめよう。七海とセックスしている今を楽しもう。


「生理中、フェラばっかでごめんね」

「それは仕方ないよ。七海のせいじゃない」

「ありがとう。明日はセックスできると思うから、楽しみ」

「うん。俺も楽しみだよ」


 七海は舐めるのをやめて、僕の体に覆いかぶさってきた。


「重いよ」

「えーひどーい」

「嘘だよ、嘘。胸が当たって嬉しい」

「胸だけ?」

「ううん。七海とくっつけて嬉しい」

「私も嬉しい」


 肌と肌が直接触れ合うだけで、なんだか安心感が身体中に広がっていく。自分はひとりじゃないと、感じることができる。

 唇と唇が重なる。


「隔たり…好き」


 七海がそう声を漏らし、舌を絡めてきた。

 僕は七海を抱きしめ、それを受け入れる。

 明日のセックスが最後になってしまうことを、この時の僕らはまだ知らない。

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 別れ。それはいつだって唐突に訪れる。人は出会った人としか別れることはできない。つまり、僕らは出会った瞬間に別れの可能性を抱えながら関係性を築いているということだ。

(文=隔たり)

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