【アイドル音楽評~私を生まれ変わらせてくれるアイドルを求めて~ 第38回】

アイドルシーンへ奇襲した鎌ケ谷からの伏兵! KGY40Jr.「コスプレイヤー」

※画像:KGY40Jr./「コスプレイヤー」より

 私は鎌ケ谷市の歴史を調べた。本当だ。千葉県鎌ケ谷市を活気づけるために結成されたというKGY40Jr.のあまりにも突出した楽曲群とそれをとりまく環境に、何らかの歴史的な「結界」が張られているのではないかと疑ったからだ。それほどKGY40Jr.は、楽曲とサウンド、そしてプロデューサーの「皮茶パパ」こと福田優一の存在によって、強烈すぎる異彩を放っている。「鎌ケ谷のDOOPEES」、「鎌ケ谷のゆらゆら帝国」。人はそう呼ぶ。言い出した私だけがそう呼んでいる。

 昨年の年間ベスト10(https://www.menscyzo.com/2011/12/post_3364.html)でも全国流通の音源のリリースを待望するアイドルとしてKGY40Jr.の名を挙げたが、なんとタワーレコードが販売元となりそれが実現したのがシングル「コスプレイヤー」である。

 そもそも私がKGY40Jr.の存在を知ったのは、音楽評論家の南波一海とBiSにより開催されているアイドル講座がきっかけだった。私は単なるヲタとして参加していたのだが、ローカルアイドル特集の回で我々に異常なインパクトを残したのがKGY40Jr.であった。

 そのときは、皮茶パパが経営する会社が販売しているお茶「たまねぎ皮茶」を買うとCDが付いてくる……という特殊な流通形態をしている、という情報がもたらされた記憶がある。お茶を買わないと聴けないアイドル、それが当時のKGY40Jr.だった。そしてKGY40Jr.がYouTubeにアップロードしている動画を我々は繰り返し見ることになる。そう、無意識にKGY40Jr.の楽曲の中毒性に染まっていったのである。

 シングル「コスプレイヤー」は、すべて皮茶パパこと福田優一が作詞作曲した5曲入り。そしてマスタリングを、ゆらゆら帝国やギターウルフを手掛けてきたことで知られる中村宗一郎が担当しているのも衝撃的だった。こうして遂にKGY40Jr.の作品が鎌ケ谷から全国へ届けられたのである。

 タイトル曲である「COSPLAYER」は、これまで楽曲の構成の特殊さにばかり気を取られていたが、歌詞カードが付くことで歌詞の特異さも改めて痛感させられた。「いきなりさっそく即」という歌詞が繰り返されるほか、KGY40Jr.に触れた者の脳裏から離れなくなる「ラリルンルンルンレロンロン」というフレーズまで印字されているのである。ラリルンルンルンレロンロン。声に出して読みたい日本語だ。

 また、前述した「COSPLAYER」の構成というのは、2分過ぎから突然BPMが早くなり、トリップしたかのような音色に彩られたダンス・パートが開始される点だ。そして元に戻る。この急にBPMが早くなるのは、ライオネル・リッチーの「Say You Say Me」の途中でいきなりBPMが上がる唐突さに近い……と言えば、ある世代にはわかりやすいだろうか。さらにCDで聴くと、イントロでキックが鳴りだすまでのリズム・パターンもいったいどういう意図があり、何の音源で制作されているのだろうかと考えさせられる。謎が解けない。解けるどころか、聴いているうちに謎が蓄積されるばかりである。サウンドの新しさや古さなどという次元を軽く超えてしまう世界なのだ。

 そして、さらなる衝撃作は「AFTER SCHOOL HERO」だ。KGY40Jr.のファンには「超ハッピーで うんヤバい!」というヤバい歌詞がもはやクラシック化している感もある楽曲だ。しかし問題は、1分を過ぎたあたりから始まる異変だ。「Non-Stop No-Ri No-Ri Da Dan Dance!」というフレーズが、テープの回転数を変えたかのようなエフェクトで音が高くなったり低くなったりするのだ。正直、初めて聴いたときは発狂するかと思った。今も正気である自信はない。恐怖すら感じた。そのほどの衝撃作である。

 2012年にオートチューンを用いずに、こうした手法でヴォーカルを変える発想は、日本の音楽シーンにおいて他に例がない。あまりにも孤高だ。日本ではオートチューンといえば中田ヤスタカだが、むしろオートチューンを駆使してアメリカでその名を馳せているT-Painに「お前のライバルは皮茶パパだ!」と言いたくなるほどだ。T-Pain, Your rival is Kawacha-Papa!

 「GOAL」ではサビで「a little more」というコーラスが入るのだが、これが私には「アミーゴ!」と聴こえてしまい、70年代のニューヨーク・サルサシーンの熱狂まで想起する事態になり、ひとりで勝手に興奮してしまう惨事となった。これは単なる妄想の産物だが、そうした私の狂気を誘いだすようなトリガーがそこら中にあるのだ。「ALL FRIENDS」に鳴り響くスクラッチのような音にもつい反応してしまった。

 懸念点として、ライヴ動画ではおなじみの皮茶パパのコールがCDにはないため、KGY40Jr.の魅力が充分に引き出せないのではということがあったが、これは完全な杞憂に終わった。「コスプレイヤー」はCD-EXTRA仕様で、「COSPLAYER」「AFTER SCHOOL HERO」のライヴ動画が収録されている。完璧である。超ハッピーでうんヤバい!

 しかし驚くのは、そのライヴ会場である。何かの会合の立食パーティーの最中にKGY40Jr.がライヴをしているので、ステージのほうを見る人がほとんどいないのである。しかもみんな会話をしているのでうるさい! Reika、Nanami、Shiho、Mayuriが踊っているのに腕組みして隣のオッサンと話してる!

 しかし、そんな逆境の中でこそ皮茶パパのコールは冴え渡り、この状態で「ヘイ!カモン40Jr.!ヘイ!ヘイ!ヘイ!」というマイクパフォーマンスをやってのけるのだ。この度胸には本気で感心した。また、「AFTER SCHOOL HERO」の引きの映像では、一瞬マイクに向けてシャウトする皮茶パパの勇姿も確認できる。これには胸が震えた。さすがライナーに「このCDの作詞・作曲印税は、東日本大震災の義援金に当てさせて頂きます」と書く人物だ。

 KGY40Jr.と皮茶パパのパフォーマンスの真骨頂は、執筆時点での最新ライヴ動画「鎌ヶ谷ファイターズフェスタ’12」だ。「AFTER SCHOOL HERO」でコールでは飽き足らず、7分49秒から遂に皮茶パパがリード・ヴォーカルになってしまう瞬間のパッションを体感してほしい。8分00秒のあたりで声が裏返るのもエモーショナルだ。今後は、皮茶パパのセルフ・カヴァーによるソロ・アルバムも熱望したい。

 

 
 また、メンバーと皮茶パパの声を大々的にサンプリングしたメガミックス(http://soundcloud.com/psychesayboom/kgy40jrmix)をDJ PsycheSayBoom!!!が制作して公開したところ、それをワンマンライヴでダンスに使用することが翌日決まるなど、ファン・カルチャーを積極的に巻き取る意思決定の素早さも特筆したい。

 Twitterでは「皮茶パパ以外のKGY40Jr.のメンバーが覚えられない」という声もあるが、これに対してはすでにライヴで皮茶パパがメンバーが回転する際に「回転Reika~!」などコールして紹介する手法が導入されている。都心でのライヴを多くして、メンバーに接触する機会を増やして解決してほしいところだ。

 KGY40Jr.は一部のアイドルヲタに話題となり、「コスプレイヤー」はタワーレコード渋谷店のJ-INDIESチャートで初登場5位となった。それは、KGY40Jr.が他のアイドルとは隔絶された環境の中で独自の世界を形成しており、一般的なアイドルシーンの枠組の外部に存在しているかのような異彩を放っていることが最大の理由だろう。私自身もこの連載ではアイドルシーンをつい意識してしまうが、KGY40Jr.には他者を意識した妥協というものが一切ない。おそらくKGY40Jr.の真価はそこに存在する。皮茶パパには、このままKGY40Jr.に我が道を進ませてほしいと願うばかりだ。

 
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