
この連載用に新譜チェックを欠かさず行っているが、新年はリリースが停滞するな……と嘆いていたところ、編集部から元日に発売された黒木メイサの『ATTITUDE』(SMR)はどうかと提案された。そこで、初の「お題モノ」として取り上げてみたい。本年もよろしくお願いします。
正直、このミニ・アルバム『ATTITUDE』のリード・トラックである「Are ya Ready?」を聴いたときには、てっきりエイベックスからのリリースかと勘違いした。それは単純にR&B~ヒップホップ色の濃いサウンド・プロダクションに安室奈美恵を連想したからだった。
実際、クレジットを見てみると、2009年12月16日に発売された安室奈美恵のニュー・アルバム『PAST<FUTURE』に楽曲を提供しているU-Key zoneが全面プロデュースしているではないか。そりゃ連想するよ。彼は山田優、KinKi Kids、後藤真希、三浦大知、SPEED、青山テルマなどに楽曲を提供している、気鋭のプロデューサーだ。
安室奈美恵の『PAST<FUTURE』では、彼女と長年タッグを組んできたT.KuraやNao’ymtの存在感が大きいなかで、1曲のみ参加していたU-Key zoneも、黒木メイサの『ATTITUDE』ではその実力を遺憾なく発揮している。エレクトロな音色の大胆な使い方が気持ちいい「Are ya Ready?」「#1」、プリミティヴなリズムを強調した「Kind Of Guy」、オートチューンを多用したミディアム・ナンバーの「Late Show」、幕引きにふさわしいバラードの「Awakening」。シンガーひとりとトラックメイカーひとりの関係は、一歩間違えば単調になる危険性もあるが、そこは難なく回避。3曲がインストルメンタルで、ヴォーカル曲は6曲というコンパクトさも、アルバムに統一感を与えている。
一方、黒木メイサのシンガーとしての実力はどうかと言えば、下手ではないし頑張っていることは伝わるが、安室奈美恵並みのレベルには達していない。やる気は非常にあるのだが、扱いに困る部活の後輩のような感じだ。とはいえ、U-Key zoneと作詞家のMOMO”mocha”N.がわざわざ「ヴォーカル・プロダクション」とクレジットされているだけあって、細部に至るまで歌唱方法を指導されている様子がうかがえ、女優の余芸、という領域を超えている。
そもそも黒木メイサはアイドルなのか。いや、彼女は女優だ。こうした女優の歌手活動というのは連綿と続く芸能のひとつで、知名度を活かした手堅い商売でもある。とはいえ、黒木メイサと同じスウィートパワー所属で仲も良い堀北真希は、特に歌手活動をしていない。それに対して黒木メイサは、「これだけ表現したいことがある若者もいるのか」と感心するような能弁さで歌手活動に臨んでいる。公式サイトにある「役者業って溜め込むことが多いんですけど、音楽で自分を発散していて」という一文が鍵なのかもしれない。
また、この『ATTITUDE』からは、いまどき珍しいことに、リード・トラックの「Are ya Ready?」さえ、着うた先行配信などが行われていない。これについて本人は「アルバムをパッケージで聴いてほしい」という主旨の発言を公式サイトでしており、これもまたずいぶん昔堅気だなと感心した。21歳だというのに、私の世代(30代後半)の感覚に近い。そして、インタルードも挿入している『ATTITUDE』は、確かにアルバムとして聴いたほうが楽しめる構成の作品でもある。オリコンでの最高順位が49位といまいち振るわなかったのが惜しまれるぐらいだ。やはり、着うたの先行配信ぐらいしないといけない時代なのだろうか。
さて、黒木メイサと同じスウィートパワーには、南沢奈央も所属している。彼女が歌手活動をするならば、ベッタベタの90年代路線などいかがだろう? 広末涼子にどこか似ているし……とまた単純な連想をして筆を置こう。