セックス体験談|女性の愛液に初めて触れた日…リアル童貞卒業物語<第4章>

隔たりセックスコラム「リアル童貞卒業物語<第4章>」

隔たり…「メンズサイゾーエロ体験談」の人気投稿者。マッチングアプリ等を利用した本気の恋愛体験を通して、男と女の性と愛について深くえぐりながら自らも傷ついていく姿をさらけ出す。現在、メンズサイゾーにて連載コラム「セックス物語」を寄稿中。「隔たり」というペンネームは敬愛するMr.Childrenのナンバーより。


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※イメージ画像:Getty Imagesより

※これまでのリアル童貞卒業物語:第1章第2章第3章

 玲と出会ったのは、僕が高校3年生の時だった。

 中学の友達と一緒に行った地元のお祭り。そこに玲はいた。

 玲は僕の友達が通っている高校の、部活の後輩だった。

 玲は部活の友達と2人でお祭りに来ていた。僕の友達と玲の友達の仲が良いらしく、気づけば2人で話し始めていた。

 互いの友達が話し込み始めたので、その余り物という形で、僕と玲は話したのだった。

 玲は身長が高くて、黒髪ロング、小動物のような可愛らしい顔をしていた。

 部活のことや学校のこと。話した内容は他愛もないものだったが、玲と話すと、とても穏やかな気分になった。玲はゆっくりとした口調で喋るので、それが僕にとってものすごく心地よかった。

 その日、僕と玲はLINEを交換した。

 それからずっと、途切れないように途切れないようにと、1日1通程度のペースで連絡を取り合った。

 なぜだか、少しでも玲と繋がっていたいと思った。

 玲との連絡を続けたまま、僕は大学生になり、その夏、初めてふたりで食事に行くことになった。

 玲と出会ってから、約1年が経っていた。

 1年ぶりに会った玲は、初めて会ったときに比べ、少し大人っぽくなっていた。白のTシャツにスキニーパンツ。胸の膨らみも去年より大きく感じ、この1年間で女性の魅力をグッと増していた。


「ねえ、玲」

「ん?」

「なんでご飯行こうと思ってくれたの?」

「え、なんでって?」

「いや、だって1年ぶりだよ?」

「そうだよね。たしかにそうだ」

「まぁよくその間ずっと連絡してたってのもあるけどさ」

「たしかに、凄いよね」

「だからなんで急に会ってくれたのかなって、不思議に思って」


 1年もの間、僕はただダラダラと連絡を取っていたわけではなかった。ご飯にも誘ったし、デートにも誘ったことがある。

 しかし玲は誘うたびに、


「ごめんなさい! いま忙しくて」

「ごめんなさい! 予定入ってて」


 と断りをいれてきた。

 忙しいんだなと思う同時に、断られたという事実が、余計に玲に会いたいという気持ちを増幅させていた。毎回、「ごめんなさい」と謝罪の言葉をいれる無垢さが、僕にはとても愛おしく感じられた。

 だから、今回誘ったご飯も、断られると思っていた。

 しかし、今回に限って玲は、


「行きたい!」


 と即答したのである。僕にはそれが、とても不思議だった。


「なんで急に、飯行こう、って思ってくれたの?」

「うーんと、なんとなくかな」


 玲はずっと「保育士が夢」と言っていた。保育の専門学校に行くために、高校1年性の頃から勉強していたという。部活と勉強の両立、そして学校の友達で予定が埋まってたらしい。

 それなら、受験を控えた夏に「なんとなく」という理由で僕に会うのは、やはり不思議に思えた。今こそ、1番勉強に取り組まなければいけない時期なのではないか、と。


「あ、なんとなくなんだ」

「そう、なんとなくなんだけど」

「ん?」

「あ、いや。実は出会いがなくて」

「うん」


 玲は下を向きながら、早口でしゃべり始めた。

 

「最近、周りがすごい彼氏できてるの。本当は勉強しなきゃいけないんだけど、みんな高校生活の最後に青春?をしたいんだよね。それは私も変わらなくて。

 でも、出会いなんてなくて。なんか勉強で悩まなきゃいけないのに、そういうことばっかり悩んじゃうの。そんなときに、隔たりが誘ってくれたから。だから来たの」


 夢を追いかけるための勉強に打ち込まなければいけない時期でも、人は恋をしたくなるのか。

 玲の言葉は、僕をひとつの「出会い」として見ているようにしか聞こえなかった。

 つまり、僕をちゃんと「異性」として見てくれているということだ。


「ということは、恋愛対象として見てくれてるってこと?」

「あ、いや、そういうわけじゃ」

「周りに彼氏が出来てて、自分も欲しくなって、でも出会いがなくて。それで、俺に会ってくれたわけでしょ?」

「うん、そうだと…思う」

「俺も、同じ気持ちだよ」

「えっ」


 「同じ気持ちだよ」と言ったのは、「恋愛感情があるから玲に会ってるんだよ」と伝えるためだった。

 その言葉に玲が同意したとき、それはひっくり返って、玲の心に「私も恋愛感情があるから隔たりに会っているんだ」という感情を生む。なんとなく会っているという感情を、明確な恋愛感情にするために、僕はそう言ったのだ。

 そして状況は、僕の予想通りに転がっていく。


「同じ気持ちなの?」

「そうだよ」

「てことは、隔たりも私を恋愛対象で見てるってこと?」

「”も”ってことは、玲は俺を恋愛対象で見てくれてるんだね」

「あ…うん、そうだね」


 少し恥ずかしがりながら、玲はそう言った。

 素直に同意してしまう姿が、とても可愛らしく見えた。

 その姿が僕の心をざわつかせる。

 誘えば、いけるかもしれない。


「あのさ、玲」

「ん?」

「カラオケ行かない?」

「カラオケ?」

「うん、玲と2人きりになりたくて」

「…私も隔たりと2人きりになりたい」


 カラオケに入ると、僕は玲にキスをした。

 自分でもこんな大胆な行動に出るのは驚きだったが、玲は拒まないだろうという確信があった。そして案の定、玲は僕のキスを受け入れた。


「隔たりは、私のこと好きなの?」


 唇を離した後、少し戸惑いながら、玲がそう聞いてきた。その言葉を放った口を、僕は再びキスでふさぐ。

 正直、玲のことが好きなのかどうか、わからない。

 玲はとても良い子だと思う。話していて楽しい。でも、それが「好き」という感情なのかは、僕にはわからなかった。ただ、久しぶりに「キス」というものをしたい。その気持ちだけが、明確だった。

 

「好きだよ」


 この「好きだよ」には、それだけの価値しかない。

 ただキスをしたいだけの、価値しか。

 その言葉を聞いて、玲は満足そうな顔をした。

 胸がチクリと痛んだ。

 しかしその痛みはゆっくりと、キスの快楽に飲み込まれていく。いつしか罪悪感などは消え、僕はただキスに没頭していった。

 固く結ばれていた玲の唇は開かれ、ついには、僕の舌を受け入れた。

 「好きだよ」というたった4文字。そのたった4文字で、ガードが緩くなる。人の気持ちがこうも簡単に変わってしまうのは、とても不思議だなと思った。

 「好きだよ」ともう一度言って、舌を差し出す。玲はそれをじっと見つめながら、ゆっくりと自分の舌を触れさせた。

 少し、硬い。

 緊張しているのだろうか。

 そういえば、玲が今までどんな恋愛をしてきたか僕は知らない。もしかしたら、キスの経験もあまりないのかもしれない。そう思ってしまうほどのぎこちなさで、玲は舌を絡めてくる。

 硬い舌と混じり合うキスは、あまり気持ち良くなかった。ただ舌に固形物が当たるだけ。温かみも、ねっとりとした湿りも、感じられなかった。


「玲、もっと力ぬいていいよ」


 僕がそう言うと、玲は素直に舌の力を抜いた。抜いたのだが、舌を動かさなくなった。だた舌を出しながら、固まっている状態だ。

 力を抜くってそこまでしなくていいのにな、と思いながらも、玲の純粋さが愛おしく思える。僕は童貞なはずなのに、玲を見ていると、なぜだか童貞じゃない気分になってきた。

 力を抜いた玲の舌に、僕は自分の舌を絡める。少し吐息が漏れ始めたタイミングで、服の上から胸に触れた。


「あっ」


 漏れた声をキスで塞ぎながら、大きな円を描くように胸を触る。久しぶりに触る女性の胸に、僕の中の興奮がふつふつと湧き上がってくる。胸はそこまで大きくない。それでも、胸という存在なだけで、僕の心は刺激される。

 キスをしながら目を開くと、玲の顔が見えた。玲は強く目をつぶっている。そして、漏れそうな声を必死に堪えているようにも見えた。

 カラオケは防音だから、そんなに我慢しなくてもいいのに。そう思ったけれど、玲が我慢する理由は別にあるのではないか、とも思った。

 僕と玲は付き合っていない。それでも、キスをしている。このキスに身を委ねることは、曖昧な関係を肯定するのと同様だ。それを受け入れたくないから、少しだけ抵抗する。

 おそらく玲は、処女だ。

 童貞の僕からみても、それくらい玲の反応はウブだった。そして、彼氏じゃない人とのキスに戸惑っているようにも見えた。

 僕は玲の服の下から手を忍び込ませ、ブラジャーの上から胸を触る。玲は抵抗しない。僕はブラジャーの隙間に指を入れ、乳首を撫でる。


「あっ、ダメっ」


 「ダメ」と言っても、抵抗しているのは言葉だけであり、体は抵抗する気配がない。指を動かして乳首をこねる。玲はそれでも体を動かさない。乳首を触っているという事実に、股間がだんだんと熱くなる。女性の胸を触ったのは、みずき以来だ。

 中学生だったみずきの胸は、胸と言えないほどの小さな膨らみしかなかった。玲の胸は大きいとは言えないが、みずきと比べればふっくらとしていた。

 玲の胸には体温がこもっている。その熱を、しっかりと手に感じる。

 柔らかな手触りと温度で、胸を触っているという事を認識する。

 みずきと別れてから約3年半。高校生活をまたぎ、大学生になってやっと、胸を触ることができた。中学生の時はあんなに簡単に触れたものが、高校では触るチャンスすらなかった。

 恵まれていた。彼女がいるということはとても尊いことなんだ、と思うと同時に、目の前の玲と付き合ってないことを悟る。

 これが、大学生。

 これが、大人だ。

 ただひとりの恋人とだけしかそういうことをしないという幻想は、大学生になり簡単に打ち砕かれた。

 飲み会で出会う先輩たちは、武勇伝のように自分の浮気を語る。大学生という人種は常に、恋人の他に浮気相手という存在がいないと、生きていけないのかと思うほどだった。

 この世界では、ひとりを愛することは異質だ。先輩たちは皆、恋人がいたけれど、僕の目には「浮気」をしたいから、わざわざ恋人を作っているようにしか見えなかった。

 そんな環境に、僕も気づかぬうちに染まっていく。

 周りがやっているからと自分を正当化し、むしろ正当化という感覚すらない。これが当たり前なことであると、当たり前になりすぎたがゆえに、疑うことすらしなくなった。

 目の前に女性がいれば、エロいことをしたい。僕が新しく踏み入れた世界では、それが真理であるかのようにまかり通っていた。

 正しさなんて環境によって変わる。その集の多数派の意見が、常識になっていく。本当に善か悪なんかは誰も気にしない。

 目の前にいる玲は、高校3年生。

 高校生であるから、僕の住んでいる「大学生」という世界とは違う考えをしている。さっき「好き」かどうかを確認したのも、高校生であるからだろう。

 玲の住む「高校生」という世界では、好き合う同士がそういう行為をするということが多数派であり、常識であるから。

 

「玲、好きだよ」


 僕は玲の服をめくり、ブラジャーを下にさげる。茶色の可愛らしい乳首があらわになった。

 舌の先端を乳首に当て、上下に動かす。たったそれだけの行為なのに、なぜこんなに興奮するのだろうか。胸を舐めることができるならば、「好き」という言葉はいくらでも言える。


「ダメだよ…」


 玲は抵抗しない。その姿が余計に僕の興奮を刺激する。

 抵抗しながらも、受け入れてしまう体。

 僕は手を下に持っていき、スカートの中に入れる。そして、下着の上からアソコに触れた。

 指先に、熱が、触れた。


「すごい」


 思わず、そう声が漏れた。

 初めて、僕は女性の下半身を触った。

 指先に粘着質な液体が触れている。

 下着は湿っていた。

 初めての感覚に鳥肌がたったが、不思議と手を離すことができない。

 触ってないのに濡れるという現象の理由はわからないが、この液体が卑猥なものであるということは、ちゃんとわかった。


「玲、すごいよ」


 僕は玲にキスをする。

 そして指先で下着の濡れている部分を押す。

 玲の体の力が抜けていく。

 体は少しづつ、椅子からずり落ちていく。

 玲の舌が、初めて、動いた。

 僕の脳内の血管が吹き飛びそうになる。

 イカれたように舌を絡ませ、指を下着の横から侵入させる。


ニュルッ


 指は滑り、スムーズに、そして自分でも驚くほど、すんなりと入った。肉々しく膨らんだ皮膚の粘膜に、指が包まれる。ヤケドしそうなほど、熱い。

 これが女性の膣内か。

 

クチュクチュ、クチュクチュ


 舌が交る音と玲の股から響く粘着音が部屋の中に響き、僕の脳内を刺激する。股間がパンパンに膨らみ、触らなくても、イケてしまいそうだった。

 これがディープキス、そして手マン。ふたつが重なり合うだけで、興奮は何倍にも増した。

 ここからどうすればいいか、先が見えていないのにもかかわらず、「挿れたい」という欲望が、頭の中に流れていく。

 しかし、玲の反応は薄い。

 舌は動かしている。だがそれは、こちらに合わせているだけという仕草にも思え、興奮しているようには見えなかった。

 気持ちよくなっているのか、それともなっていないのか。見た目からは判断できない。

 そんなことを考えていると、玲の舌の動きはだんだん弱まっていき、ついに充電がきれたかのように、止まった。

 舌が止まった瞬間、僕のスイッチがプツリと切れた。

 先ほどまで脳内を駆け巡っていた刺激が一気に消え、ただ指先がヌメヌメしているという感覚だけが残る。指を動かしても、玲は全く反応しない。先ほどまでの興奮は、錯覚だったのだろうか。

 自分ひとりだけ興奮していたという事実を、玲に突きつけられたような気分だった。


私は感じていません、あなたが勝手に興奮しているだけです


 玲の体の反応から、そういったサインしか読み取ることができない。

 相手も喜んでくれていると錯覚し、自分ひとりが興奮する。片想いとか、ストーカーとか、そういった関係が連想される。

 先ほどまでは自分が優位だったはずなのに、急に玲に見下された感覚だ。

 僕は好きじゃないのに、玲のことが好きじゃないのに、まるで、


「あなたが好きと言うからキスをしてあげているんです。触らせてあげてるんです」


 と言われている気がした。

 黒い感情が胸に生まれ始める。

僕は、何をしているんだろう…


 唇を離して玲の顔を見る。うつむいていて、どんな表情をしているかは、詳しく確認できない。

 でも、笑ってないことは確かだ。

 おそらく、真顔。何も心が動いていない顔をしている。

 なんとなく入っている指を動かすと、くちゅくちゅと卑猥な音がした。しかし、玲は何も反応しない。

 ずっと、感じていなかったのだろうか。

 勝手に興奮してキスをしていたから、エロい感じになっていただけなのか。

 玲は何も、感じていなかったのか。

 玲の股から響く卑猥な音が、滑稽に思えてきた。

 

僕は…何がしたかったのだろう


 好きでもない女性に好きと言い、唇を重ねているだけのキスをする。

 舌を動かしてくれていると思ったが、こちらが動かせば、相手の舌も動いているように感じるのは当然のことだった。僕が動きを止めた瞬間、玲の舌はピタリと止まった。ただ、僕が動いていただけだ。

 ダメと言いながらも乳首を触らせていたのは、触って欲しいからだと思っていた。しかし色々な状況が、また違った解答を出す。

 玲は感じていなかったのではないか。

 ただ体を差し出していただけなのではないか。

 思考がめぐるたび、先ほどまで興奮を呼び起こす状態のもの全てが、自分の錯覚だったと理解する。そういえば指を入れた瞬間も、玲は声も出さず、体も反応していなかった。

 経験の少ない人は開発をされていない、初めは感じづらい、と聞いたことがある。玲の体が例えそうだったとしても、自分ひとりだけ興奮しているという状況は滑稽だった。

 この人は何をしているんだろう。僕が玲なら、そう思うに違いない。

 もう一度、玲の中に入った指を動かしてみる。僕にはどこが感じるポイントなのか、全くわからない。指を入れれば気持ちいいものだと思っていた。それが違うと気づいたとしても、けっきょくどう動かせばいいか分からない。中をかき回してみても、玲は呼吸をしているだけ。興奮のサインは、どこからも感じられなかった。

 抜くと、指は確かに濡れていた。濡れているということは、興奮しているということだと思っていた。

 こうやってひとつひとつ、分からないことが増えていく。


「ごめん」


 いたたまれなくなって、謝罪の言葉が口に出る。


「なんで?」


 玲は首を傾げる。その純粋さが、僕の心を苦しめる。


「いや…やっぱ、なんでもないや」


 そんな僕を、玲は不思議そうな顔で見ていた。


「玲、帰ろっか」


 カラオケを出て、駅前まで横並びで歩いた。玲の顔を見ることはできなかった。笑っていても、真顔でも、僕は苦しむだろう。

 玲が笑顔ならば付き合っていない女の子に手を出した罪悪感を、真顔ならば見下されたような劣等感を、僕は感じてしまうだろう。

 あっという間に、駅に着いた。


「また連絡するね」


 その言葉だけ伝えて、けっきょく玲の顔を一度も見ることなく、僕は電車に乗った。

 その日のうちに、玲に連絡することはなかった。

 そして、玲からも、連絡はこなかった。

 玲との記憶が薄れた頃、ついに、僕に彼女ができた。中学生の時のみずき以来の彼女である。

 彼女と僕は同じ大学の、同じ学科に所属していた。クラスは違かったが、共通の友達がいて、それで知り合った。

 初めて彼女を見たとき、純粋に「可愛いな」と思った。茶髪のロングヘアーに、薄い色のカーディガン。笑った顔がとても印象的だった。

 目立つわけでもなく、かといって地味なわけでもない。クセのないシンプルな女子大生という感じが僕の心を奪った。

 大学生の飲み会に参加すると、酒を飲んで乱れる女性を目にする機会が増えた。騒ぐのは男だけだと思っていたが、女性も変わらないのだと気づいた。

 「男」「女」というのはただの分かりやすい記号に過ぎず、騒ぎたい人は騒ぐし、苦手な人は苦手なのだろう。

 大学生たるもの飲み会で遊ぶべし、という固定観念があったので、はじめ僕は頻繁に飲み会に通っていた。お酒を飲むのは楽しく、酔っぱらった女性にボディタッチできるのも、高校生の時にはない体験だったので、とても興奮した。

 しかし、そんな女性たちを見ながら、どこか心の中では「彼女にしたくない」という思いがあった。もし、この人が彼女ならば、酔った勢いで他の男に触れられてしまうだろう。独占したいとか、嫉妬するから嫌だとかではなく、ただそういう彼女がいると疲れそうだなと思った。

 そんな大学初期の日々を過ごしていた僕にとって、彼女のクセのない感じはとても新鮮だった。聞けば、お酒はあまり飲めないという。それだけで、僕の中での彼女の評価は上がった。

 連絡先を交換して、デートに誘い、何度かご飯を食べに行った。

 他愛もない会話ばかりだったが、他愛もない事をそのまま楽しめる空気感が、とても心地よかった。大学の飲み会では、酒を飲んで面白いことをしないといけないという雰囲気があった。だから、この守られたような楽しみが、まるで四つ葉のクローバーを一緒に探すようで、とても素敵だなと思った。


「よかったら、付き合わない?」


 4回目のデートのとき、ちょっと雰囲気のいい場所のベンチに座りながら、僕はそう聞いた。彼女はすぐに、


「うん」


 とだけ答え、それ以上は何も言わなかった。

 僕もその返事が返ってくると思っていたので、特に驚きやドキドキはなかった。

 けれど、お互いのことを言わなくても分かるという感じが、とても素敵だなと思った。

 

 付き合ってからの僕らは、付き合う前と特に大きく変わらなかった。

 一緒にご飯をたべ、会話をし、遅くならないうちに解散する。何度かキスはしたけれど、それは結婚する時に婚姻届を出すみたいに、とりあえず僕らが付き合っている証拠のためにする程度だった。

 そして彼女の誕生日。おしゃれなレストランを予約して食事をした。終わったあと、ベンチに座った。彼女からキスをしてくれた。テンションが上がった。そして僕は、


「セックスがしたい」


 と告げた。

 彼女は「うん」と言った。

 2回ラブホテルに行くも、うまくできなかった。

 そして僕の家に呼んだが、彼女が生理になり、セックスすることはできなかった。


「じゃあ、気をつけて。お泊まり、楽しかったね」

「うん、楽しかった。ありがとう。帰ったら連絡するね」


 家に戻り、ソファに座る。

 そして大きく息を吐いて、目をつぶる。

 彼女と付き合って、もう半年が経った。

 食事は楽しい、会話も楽しい、デートも楽しい。でも性的なことがうまくいかない。セックスが、うまくいかない。

 僕は彼女とセックスがしたい。

 しかし、彼女とうまくセックスできるシーンが想像できない。緊張してしまうし、焦ってしまう。アソコにコレをいれるだけの簡単なこと。簡単なことだけど、なぜかできる気がしない。


「セックスしてえなあ…」


 セックスしようと言ってから、彼女との関係が徐々に崩れているように感じた。

 セックスを意識していない頃、つまり彼女の誕生日の前の日々のほうが、楽しかった。今は彼女を見るだけで、セックスがしたくて仕方がなくなってしまう。セックスのことしか考えられなくなってしまう。


「なんで付き合うことと、セックスすることが繋がってるんだろう」


 もちろん、彼女とセックスしたい。その気持ちは確かだ。でも、僕は彼女とだけセックスしたいのだろうか。それは少し、違うようにも思える。

 AVを見れば女優さんとしたいと思ってしまう。街中で綺麗な人をみれば、やはりセックスしてみたいと思ってしまう。好きという感情が湧き出る前に。


「でも浮気だもんなあ」


 それでも、やっぱり初めては、童貞卒業は、彼女としたい。

 それが自分の本心なのか、世の既成の理想からの考えなのかは分からない。

 でも、ここまできた。

 チャレンジもしてる。

 今さら引けない。

 

 ふと、玲の顔が頭に浮かんだ。

 彼女のアソコには中々指に入らなかったけど、玲の中には入った。その違いは何なのだろう。

 そんなことを考えていたら、気になって仕方がなくなってきた。やはり女性の体は違うのだろうか。そして、女性の体をどう扱えばいいのか。


「練習…か」


 僕は目を開け、携帯を取り出す。そして玲の名前を探し、ラインを送った。


「玲、元気? 久しぶりに会わない?」


 玲からの返信はすぐに届いた。

「久しぶり! いいよー!」


 僕もすぐに返信をする。


「急なんだけど、明日はどうかな?」


 すぐに既読がつき、返ってくる。


「夜バイトがあるから、その前なら大丈夫そう!」


 高校生だった玲は、大学生になっていた。


「そしたら昼に会おう!」


 明日は平日。両親は共働きだから、家には誰もいない。


「いいよー!」


 明日、玲に会う。

 玲があの頃のままなら、誘ったら、家に上がってくれるだろう。

 これは彼女のためだ、と言い聞かせる。

 学校のテストも、スポーツの大会も、本番の前には必ず練習がある。小テスト、練習試合。それを体験しながら、本番に望む。

 でも、セックスには練習がない。あるのは常に本番だけ。

 おそらく、僕にセックスの才能はない。2度失敗したことで、なんとなくだが、そんな想いを抱いている。


玲と会うのは、彼女とのセックスのためー。


 玲の体に色々教わって、彼女との本番に望みたい。

 これは彼女を想うがゆえの行動だ。

 だから浮気では、ない。


「ありがとう! 楽しみにしてるね!」


 そう送って、玲のLINE画面を閉じる。玲の名前の下には、彼女の名前があった。メッセージはきている。既読は、つけていない。

 それを見て、息が苦しくなる。

 胸の鼓動が激しくなる。

 これは興奮なのか

 それとも緊張なのか。

 もしくは、罪悪感なのか。

 僕はそのまま、携帯の電源を切った。

※第5章は↓↓

 「へえ~。隔たりの家ってこんな感じなんだね」平日の昼間。僕は学校をサボって家にいる。昨日の朝まで、この部屋には、付き合っている彼女がいた。しかし、いま目の前にいるのは、彼女でもなんでもない関係の女の子、玲だ。

(文=隔たり)

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