この最初のやり取りで、違和感を覚えてしまった。アイカちゃんはうつむき加減で、口をモゴモゴと動かしながらしゃべっていたからだ。
ん? 対人恐怖症か何かなのか?
ここで、書き込みにあった“初心者マーク”のことを思い出した。こういう出会いは初めてで、必要以上に緊張しているのかもしれない。
ということで、いつもよりゆっくり話すことを心がける。
「どうかな? 実物の俺はこんな感じだけど、嫌じゃないかな?」
「え?」
「遠慮しないでいいんだよ。嫌だと思ったらこのまま帰ってもらって構わないからさ」
「そ、そんなことしません!」
ここでやっと顔を上げたアイカちゃんは、強めの口調ではっきり答えた。その時、筆者は気づいてしまった
アイカちゃんの出っ歯具合を…。
それは久本雅美を彷彿させ、セクシーさとは程遠いものだった。
だが、この程度で怖気づく筆者ではない。
きっとアイカちゃんも筆者と同じ“非モテ界の住人”に違いなく、それでもエッチしたいがために、勇気を出して出会える系サイトに登録したのだろう。
そんな気持ちを無下にはできない!
“同類相憐れむ”の感情が湧き、さらに優しい口調で話しかけた。
「ずいぶん緊張してるみたいだけど、安心してね」
「えっ?」
「断られたら3分くらいはここでじっとしてるから、ゆっくり歩いて駅に向かっていいんだよ」
「フフフ。だから、そんなことしませんよぉ」
ようやく笑みを浮かべてくれたアイカちゃん。しかし、笑った姿を見せたことを後悔するように、またすぐにうつむいた。
やはり彼女は、出っ歯であることを相当気にしているようだ。筆者自身がコンプレックスだらけなので、こういう何気ない仕草にすぐ気づいてしまう。
こういった時の対処法はいたってシンプルだ。
本人が気にしているであろう箇所に視線を向けない。
たったそれだけのことで、気持ちはずいぶん楽になるものだ。
その後は、彼女の口元に目がいかないように注意しながら会話した。