「よく新宿には来るのかな?」
「いえ。こうやって歩くのは1年以上なかったです」
「あまりこっちには来ないんだ?」
「そうですね。買い物とかも全部地元で済ませちゃってるので…」
「あれ? 専業主婦なんだっけ?」
「は、はい」
「それじゃああまり遊べていなさそうだね」
「はい。たまに友達とカラオケに行くくらいで…」
「それだとストレスとか溜まっちゃいそうだね。それで、あのサイトを使ったのかな?」
「そ、それもありますね」
「それにしても信じられないよ」
「え?」
「セイナちゃんみたいに綺麗な人が奥さんだったら、一日3回はセックスしたいと思うんだけどなぁ」
「エエっ?」
「本当にセックスレスなの?」
「は、はい。本当です」
「もしかして旦那さんがすっごい年上とか?」
「い、いいえ。6コ上です」
「ってことは40歳なんだ。それならまだまだシたい年ごろだと思うんだけどなぁ」
「いえ、本当にないんです。いつも疲れてるみたいで」
「忙しいお仕事なんだね」
そんな他愛もない話をしながら歩くふたり。ここで、肝心なことを聞くのを忘れていたのを思い出した。
「あ! そう言えば聞くのを忘れてたよ」
「はい?」
「ここまで歩いてきちゃったけど、俺みたいなので大丈夫?」
「ど、どういうことですか?」
「もし嫌だと思ってたら、ここでデートを終わりにしてもいいんだからね」
「え?」
「ほら、実物の俺って写メの何百倍もエロそうでしょ? キモいとか無理とか思ってたら、遠慮しないで教えてくれるかな?」
「エエっ?」
「大丈夫! 安心して。絶対に怒ったりしないし、断られたらこの場で目を瞑って30秒数えるからさ」
「ど、どういうことですか?」
「俺が目を瞑ってたら、セイナちゃんも帰りやすいでしょ? 追いかけたりしないから安心してね」
「そ、そんなぁ。断ったりしませんよぉ」
「本当に? 俺でいいの?」
「はい。ショーイチさんがいいです!」
はぁぁぁ、ショーイチ、幸せッ!
視界に入るもの全てがバラ色に輝いたように見える。「ショーイチさんでいいです」ではなく「ショーイチさんがいいです」と言ってくれたセイナちゃん。
たった一文字の違いだが、「で」と「が」では天地ほどの差がある。
出会ってからまだ数分ほどしか経っていないが、ここまで筆者を信用してくれるだなんて…。
これはどうあっても彼女を裏切ることなんてできない。セイナちゃんの望みを叶えられるよう全身全霊で頑張らなくては!!
「あ、ありがとう。今日は俺と出会ってくれて本当にありがとう」
「は、恥ずかしいです。で、でも、私もありがとうございます」
「今から数時間後、やっぱり今日は勇気を出してよかったって思ってもらえるように死ぬ気で頑張るね」
「そ、そんなぁ。ふ、普通でいいですよぉ」
「普通? そんなの無理だよ。もう俺は完全にセイナちゃんにメロメロになっちゃったんだから」
「え?」
「あ! でも勘違いしないでね。ストーカーになったりしないから安心して」
「はい。最初からずっと安心してます」
「俺ってそんなに安全そうに見えるかな?」
「安全というか、とにかく優しそうです」
「う、うん。女性の嫌がることは死んでもできない性格なんだ」
「分かりますぅ。ショーイチさんって誰にでも優しそうだからモテるんじゃないですか?」
「それは誤解だよ! 俺が優しくなれるのはセイナちゃんみたいに綺麗で可愛いコだけだよ」
これも作戦だ。「可愛い人」ではなく、あえて「可愛いコ」と言ったのだ。
30代以上の女性はこの辺りの言葉の違いに敏感だ。
既に愛撫が始まっているので、頭をフル回転させながら発する言葉選びに注意を払う。
そうこうするうちに目的のラブホテルに到着。チェックインを済ませ、ようやく密室でふたりきりとなった。