「ご、ごめんね。驚かせちゃったかな?」
「あ、い、いいえ、大丈夫です」
「俺のこと分かる? ショーイチだよ」
「は、はい。ゆ、ユッコです」
「うん。待たせちゃったみたいだね」
「へ、平気です。わ、私が、は、早く着きすぎただけなので…」
上手く呂律が回らない様子のユッコちゃん。ガチガチに緊張しているようで、傍から見たら不細工なオッサンにナンパされて困っているように思えたことだろう。
ここで畳みかけるのはまずいだろう。
あえて半歩ほど後ろに下がり、彼女のパーソナルスペースを広げることにした。
出会える系サイト遊びにおいて、距離感を正確に測るという能力は必要不可欠なものだ。
教科書のどこにも載っていないし、こちらの容姿によっても距離感は違ってくる。こればかりは実践を積むことでしか鍛えられないスキルだと言えよう。
スー、ハー
少しばかり大げさなアクションを添えて深呼吸する。その様子を相手に見てもらい、意識のシンクロを狙う。
俺と同じように深呼吸して落ち着いてごらん…。そんなこちらの意志を伝えるのが狙いだ。
「ちょ、ちょっと落ち着くまで待ってね」
「え?」
「こんな可愛いコが来るとは思ってなかったんで、心臓が爆発しそうなんだ」
もちろん計算しての演技だ。こちらが滅茶苦茶緊張している様子を見せ、少しでも安堵してもらおうと思ったのである。
この男性は私より緊張しているんだ…。そう思ってもらえればこっちのものだ。
「本当に驚いたよ。ユッコちゃんのいる辺りだけ、輝いて見えて眩しいくらいだよ」
「エエっ、なんですか、それ?」
「それくらいドキドキしてるってことだよ。ゴメンね、変なやつで」
「そ、そんなことないです」
「はぁ。もう少し待ってね」
ゴクリ
頷きながら大きくツバを飲み込み、必死で冷静になろうとしているポーズを取る。
こちらの態度に面食らった様子のユッコちゃんだったが、そのおかげで彼女の緊張感が少しばかり弱まったように見えた。
「えっと、こんな俺だけど、大丈夫かな? 写メと違い過ぎてヒいてたりしてない?」
「は、はい。全然大丈夫です」
「あ、ありがとう。もの凄く嬉しいよ」
「い、いいえ」
「それじゃあ、このままホテルに向かうってことでいいかな?」
「は、はい」
こうしてアルタ前からホテル街に向かうこととなった。