ぐぬぬぬぬぬぬっ…。
無理して作っていた表情筋を緩めると、途端に縦じわが眉間に浮かんできた。
スルスルスル…。
背後でリリカちゃんが洋服を脱ぐ音が聞こえてきた。このホテルには脱衣所なんてシャレたものはなく、ベッドルームで脱ぐしかないのだ。
ここでまた脳内会議が始まった。
「おいおい、ショーイチよ。ちょっと態度が冷たすぎるんじゃないか?」
「だ、だってよぉ。いくら俺でもあのコを相手にご機嫌取りのような真似はできないよ」
「なにも下手に出ろと言ってるんじゃないよ。セックスさせてくれる女性なんだから、もう少し敬意を払いなよ」
「で、でもよぉ」
「こらこら! そもそもお前は人様の容姿にアレコレ言う資格はないだろ?」
「そ、そりゃそうだけどさぁ」
「何も可愛いとか綺麗とかお世辞を言えっていうわけじゃないよ。いつもの100分の1でいいから、もう少し優しくしてあげな」
「わ、分かったよ」
ゆっくりタバコを吸い、2本目が灰皿に並ぶころ、リリカちゃんが浴室から出てきた。
「大丈夫? 冷房、効きすぎていない?」
「あっ、はい。大丈夫です」
「俺のほうは大丈夫だから、リリカちゃんの好きなように温度を変えていいからね」
「あ、ありがとうございます」
「はい、これリモコン。使い方は分かるかな?」
「わ、分かると思います」
「それじゃあ、俺もシャワーを浴びてくるから少し待っててね」
急いで全裸になり、浴室に入る。
はぁぁぁぁぁぁ、チカレタビー…。
思わず、小学生のころCMで流行ったフレーズを口ずさんでしまった。覚悟を決めきれず、まだ逃避したがっている自分がいて、幼い頃の記憶が突然浮かんできたのかもしれない。
二言三言、優しい言葉をかけるだけでここまで疲労してしまうとは…。我ながら情けない話だ。
しかし愚息はというと、タバコを吸っている時から勃起しっぱなしだった。
いつもは頼もしく思える愚息だが、この時ばかりは悲しくなった。早漏で短小の分際でヤル気だけは普通の男性の何千倍もあるなんて、本当に始末に負えない駄々っ子だ。