チョコまみれでフェチなバレンタイン!? バンドじゃないもん!「ショコラ・ラブ」

※画像:バンドじゃないもん!『ショコラ・ラブ(通常盤)』
ワーナーミュージック・ジャパン

 2013年2月23日、タワーレコード新宿店でバンドじゃないもん!が「ショコラ・ラブ」を演奏しはじめた瞬間に、最前列にいた私の脳内では大量のドーパミンが虹を描かんばかりに噴出し、目の前の柵の存在すら忘れてケチャを捧げていた。その視界の片隅で、成田マネージャーが爆笑している姿がかすかに見えたが、後にTwitterに「柵壊れちゃうww」(https://twitter.com/narimanji/status/305291206588510210)というコメントとともにアップされた写真を見たところたしかにひどい。あの後頭部は私だ。

 神聖かまってちゃんのドラムでもあるみさこと、女優でもあるかっちゃんのツインドラムユニットであるバンドじゃないもん!の初のシングル「ショコラ・ラブ」を聴くと、なぜここまで興奮してしまうのか。それはバンドじゃないもん!の現場が必ずしも期待するほど盛りあがらないときがあることへの鬱屈の暴発のようなものだからだ。

 初めて「ショコラ・ラブ」でMIXを発動したのは2011年5月7日、原宿アストロホールでのでんぱ組.incとの対バンで、でんぱ組.incのヲタの皆さんを巻き込むにはそれしかない、という判断によるものだった。以降、この連載の第43回(https://www.menscyzo.com/2012/10/post_4833.html)で紹介したようなさまざまな現場で過酷な戦いを続けることになる。最近では、根本的にMIXの文化がないバニラビーンズとの対バンが行われた2012年12月17日の新宿ロフトはなかなか精神的にこたえた。鍛えられた。

 とはいえ、つい先日もバンドじゃないもん!は地上波番組であるテレビ東京「プレミアMelodix!」に出演、最近では現場系のファンも増えてきた。2013年2月23日のタワーレコード新宿店でのインストアイベントも、ライヴ30分、サイン会1時間程度という人気ぶりだ。

 「ショコラ・ラブ」はバンドじゃないもん!の最初期から演奏されてきた楽曲だが、実のところ現場で初めて聴いたときに気になったのは、Bメロがももいろクローバーの「走れ!」(2010年に発売された『行くぜっ!怪盗少女』のカップリング)に似ている印象を受けたことだった。ところが帰路であっさりその謎は解けた。作曲が「走れ!」と同じ大場康司だと友人から教えられたからだ。以降約1年半、私は「ショコラ・ラブ」でMIXを打ち続けることになる。

 そして「ショコラ・ラブ」は2013年に遂にCD化され、ビデオ・クリップも制作されたが、衝撃を受けたのはそのあまりにもドスケベ、いやスタイリッシュかつフェティッシュな映像だった。みさことかっちゃんの脚の絡み合い、メガネや花に垂らされるチョコレート、みさことかっちゃんが顔を付けた百合っぽい雰囲気、かっちゃんの脚でいじられる板チョコ、シンバルを舐めるみさこ(彼女がモデルを務めた『ドアノブ少女』を連想させる)……。挙げていったらきりがない。

 そして2分過ぎから、大量に降ってくるチョコの粒をみさことかっちゃんが目を閉じて顔で受け止めるシーンが挿入されるのだが……この表情はオルガズムの暗喩ではないかと動揺した。ちょっと診察へ行ってきます!

 そして、「メガネ萌え」という歌詞の通りに大量のメガネを頭部に付けたり、よくわからないダンスを真顔で踊るユーモアを入れつつも、最後の最後はふたりがお互いの顔、腕、胸など素肌に液体のチョコレートをかけ、そして舐めるウェット&メッシーな完全フェチ映像で終わる。

 「なんだこれは、アイドルなのか」と言う向きもいるかもしれないが、本人たちが「ツインドラムあいどる 」と言っているし、大場康司が作編曲をしているし、カップリングの「お姫様ごっこ」の作編曲もBABYMETALの「ド・キ・ド・キ☆モーニング」を作曲した村カワ基成だ。そして、「アイドルかどうか」以前に「アイドル」の名のもとに「ショコラ・ラブ」のビデオ・クリップのようなクオリティの高い作品が生み出されている状況に満足させられてしまう。バンドじゃないもん!のライヴはほぼ毎回必ず茶番があるのだが、エレクトリックドラム2台体制だった2013年2月23日のタワーレコード新宿店でも、ショートコントを入れるなど相変わらず馬鹿馬鹿しく、そしてみさことかっちゃんはキュートだった。

 初回限定盤と通常盤があるが、もちろんライナーに写真が多い初回限定盤のほうを推奨。そして、愛☆まどんなによる衣装のイラストも含めて、2013年型の「ガーリー」を表現しているのは意外とバンドじゃないもん!なのではないか、とも考えるのだ。ただ、それを当人たちがまったく口に出さない、そして意識さえしていないかもしれない点が、バンドじゃないもん!というユニットにある種の「品」を与えている。そのように感じているのだ。

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