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【アイドル音楽評~私を生まれ変わらせてくれるアイドルを求めて~ 第29回】

まるでシャーマン!! ファンに"熱"をもたらすSaori@destinyの魔力


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※画像はSaori@destinyプレスリリースより

 Saori@destinyという存在ほど複雑な遍歴を経て、なおかつ強固な現場を構築しているアイドルを私は他に知らない。2008年頃のヲタ芸が荒れ狂っていた時代のことを、もはや私ですら忘れ始めている。その変化はチャートの数値には出てこず、ただライヴのフロアにのみ現出するのだ。Saori@destinyを単純に「アイドル」と呼ぶには、いくばくかの躊躇がある。ならば彼女を優れたパフォーマーにして我々を熱狂させるシャーマンと呼ぼう。華奢にして、ステージを降りればおそらくはごく普通の女の子であろうSaori@destiny。彼女はなぜ、あれほどまでにフロアに熱をもたらすのか?

 本連載の「アイドル戦国時代とは何だったのか? 2010アイドル音楽シーン総括評」(http://www.menscyzo.com/2010/12/post_2135.html)において、私は迷うことなくSaori@destinyの『WORLD WILD 2010』を1位とした。バイレファンキやファンキー・コタまで導入したサウンド、そしてなにより強力な楽曲群。その『WORLD WILD 2010』がリリースされた後、5月30日に開催された「『WORLD WILD 2010』リリースパーティー」は、私が見た彼女のライヴの中でもベストアクトだった。

 『WORLD WILD 2010』に収録されていた「I can't」には、フロアを爆発的に盛り上げる魔力すら感じた。アイドルが最新作で新たな代表曲を届けるというのは簡単なことではない。そもそも、ロックやポップスでもデビュー作が最高作になってしまうことは少なくないのだ。「I can't」を収めた『WORLD WILD 2010』により、Saori@destinyのライヴはダンスフロアへと一気に変容した。私がヲタ芸の激しかった時代を忘れ始めたのも、その頃からだ。

 とはいえ、「I can't」を軸にしたライヴもいいけれど、そろそろ新曲も欲しい......と感じ始めていた頃についに届けられた新作が、7曲入りミニ・アルバム『Domestic domain』だ。


 6月19日、私は『Domestic domain』のリリース・イベントを見るために秋葉原の書泉ブックタワーに赴いた。そう、リリース・イベントの会場は書泉ブックタワー、つまり本屋なのである。約1週間にわたるイベントの途中、会場の写真をファンのブログで見たときには、あまりの簡素な空間に唖然とした。だが、同時に必ず行かねばならないとも感じたのだ。

 結論を言えば、「本屋でここまでやるのか」と感動した。現在のSaori@destinyとは、ライヴではキーボードのトミーとみずっちを従えた、実質的に3人のユニットだと解釈することもできる。リリース・イベントで、2009年の『WOW WAR TECHNO』に収録されていたtrfのカヴァー「EZ DO DANCE」をトミーとみずっちが手弾きする姿には、同時視聴者数が27,000人を越えた6月13日の「DOMMUNE」での小室哲哉の姿すら重なった。お世辞にも良いとは言えない音響の中で鳴らされる「I can't」には、下の階の本棚が倒れるのではないかと心配になったほどだが、その勢いに胸が熱くなる。そして『Domestic domain』収録である「GAMBA JAPAN」では、すでに「I can't」と同レベルまでフロアが「できあがっていた」のだ。フロアというか書店の9階の空きスペースなのだが、そんな定義を超越した熱気がそこにはあった。

 『Domestic domain』は、またしても挑発的なアルバムだ。冒頭の「BEATBOP」はビッグビートで幕を開けて意表を突き、ブラスとヴォイスのサンプリングの重なりがサウンドを貫いていく。「GAMBA JAPAN」は、リズムとコーラスにブラジル風味を利かせており、前作のトライバル路線を継承する楽曲。そこから次の「COLLAGE」へとノンストップで展開していく。マイケル・ジャクソンのアルバム・タイトルという大ネタを借用した「OFF THE WALL」は、80年代ブラック・コンテンポラリーのテイスト。キーボードの音色がまさにその辺りの時代の音なのが心地良い。Terukadoがプロデュースするアルバムの中で、1曲だけG.RINAが作曲とサウンド・プロデュースを担当した「Klaxon」もエレクトロなドラムが鳴り響くトライバル路線で、Saori@destinyがラップにまで挑む。全体を通じて、ダンス・ナンバーであれミディアム・ナンバーであれ、Saori@destinyのヴォーカルの魅力を丁寧に引き出しているサウンド・プロダクションだ。

 トライバル・テクノは数多くあるのに、なぜよりにもよってアイドルと括られ、しかも歌モノのSaori@destinyにこれほどの強度が宿るのか。その回答は前述したサウンド・プロダクションにこそ理由があるように思われる。トライバルな要素を引き続き取り込み、さらにブラック・ミュージックの要素も加える方向に拡張されたのが『Domestic domain』。異端にして強烈な異彩を放つミニ・アルバムだ。

 さて、6月19日のリリース・イベントは、無料ライヴであるのにアンコールが起きるほどヒートアップした。そのアンコールで歌われたのは、2007年にインディーズでリリースされたデビュー・シングル「My Boy」だったのだ。私は胸の中で静かに泣いた。Saori@destinyとは、まさに変化の連環を象徴する存在だ。しかし、決してぞんざいに過去を捨てたわけではない。そんなSaori@destinyが、『Domestic domain』の楽曲たちをレパートリーにして7月3日のワンマンライヴでどんなステージを見せるのか、今から楽しみだ。そこには、まだ見たことのない現場が待っていることだろう。

◆宗像明将
1972年生まれ。音楽評論家として、日本のロックやポップス、英米のポップス、ワールドミュージックを中心に執筆。その一方、2002年からソニンのヲタに。彼女の歌手活動停止後は、魂の救済を求めてPerfumeとtoutouのヲタになり地下へ。現在は地下から地上までのアイドル・シーンを見守る。http://www.outdex.net/diary/

『Domestic domain』


心の奥から湧き上がる情熱!

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