【アイドル音楽評~私を生まれ変わらせてくれるアイドルを求めて~ 第24回】

白々しい泣き歌が溢れるJ-POP界にStarmarieが真の悲壮感を叩き込む!

starmarie0304.jpg※画像は『ファンタジーワールド』/色彩RECORDSより

 アイドルがヲタに酒を注ぎ、ヲタが「トッコの酒クソうめぇ!」と言いながら飲んだり、酔ったヲタ同士がつかみあいのケンカをはじめたり……。「アイドル戦国時代」という言葉に対して、この連載で私が毎回のように違和感を表明しているのは、そんな光景が日常だった「アイドルステーション」という現場の記憶があるからだ。昨年、主催事務所の社長逮捕という衝撃的な事件により消滅したこのイベントは、Chu!☆Lipsのファンが観客の中心ではあったが、メジャーもインディーズも問わず多彩なアイドルが出演しており、ひとつの重要なアイドル文化圏となっていた。二部制の料金もあり、他のハードコアなヲタほどは通っていなかったが、toutouを見るために行っていたあの世界をなかったことにされるのには強い抵抗がある。だって、ヲタのスラムみたいな異空間だったんだよ?

「涙のパン工場コンセル・カマタ」で4月27日にユニバーサルミュージックからメジャー・デビューすることが決定しているStarmarieを見てまず感じたのは、「アイステっぽい」ということだった。ある種の郷愁すら感じた。それはおそらく、地下アイドルあるいはライヴアイドルという文化が脈々と受け継いできた良質な部分を継承している存在だからだろう。アイドルステーションによく出演していたd-tranceと同じ色彩RECORDSに所属している事実は、後から気付いたことだ。

 Starmarieは、青木栞、木下望、高森紫乃による3人組。以前から彼女たちの何が気になっていたかというと、公式サイト(http://starmarie.syncl.jp/)のメニューに「ファンタジー詩集」という項目があることだ。要は歌詞が掲載されているのだが、このメニューからしてすでに異彩を放っている。

「ファンタジーワールド」(色彩RECORDS)は、メジャー・デビューをひかえたStarmarieが、インディーズでリリースする最初で最後のアルバムだ。このリリース・イベントに足を運んでみたところ、まず驚いたのは「ピンチケ」と呼ばれる若いヲタの姿がないことだ。女の子のファンはいるが、ピンチケはいない。現場の安定感が並みではない。

 さらに会場も、Starmarieが所属するM-SMILEが他社と共同でオープンさせたK-HALLというイベント・スペース。要は、AKB48劇場やディアステージのようにアイドルが「場」を持っているわけだ。秋葉原の石丸ソフト本店・アイドル館が閉店していく現状で、こうした「ホーム」を持っているというのは活動上かなりの強みだろう。K-HALLはそれほど広くもないし、ステージの照明が蛍光灯で衝撃を受けたりもしたのだが、とにかく秋葉原から少し離れた神田という立地も悪くない。

 そこで聴いたStarmarieの楽曲たちは「ファンタジーワールド」にも収録されているのだが、これが「ファンタジー詩集」というメニューのイメージを裏切らない歌詞。「ファンタジーワールド」に収録されている「タイムマシーン・ラブ」の主人公は2220年からタイム・トラベルをしてくるし、「忍」では主人公がくのいちだ。「アンドロメダ・プロポーズ」の舞台は宇宙だし、「ガイコツたちのメンデルスゾーン」では「断末魔」だの「毒殺」だのという単語が出てくる。そしてストーリーが全体的に薄幸。そもそも、こうして曲名だけを見ても何かがおかしい。どうしてこうなったのか、作詞を担当するyusuke.tに聞きたくなるほどだ。

 そんな歌詞に加え、マイナー・コードが多く使われるメロディーに、オーケストラル・ヒットも冴え渡るプログラミング主体のサウンド。トータル性は高いが、メジャーでもこの路線で行くのかと心配になるほど独創性の高い世界観だ。しかし、メジャー・デビュー曲は「涙のパン工場コンセル・カマタ」で、これもまた悲しい歌。メジャーでヒットをつかんだら、Starmarieにはぜひ弦楽四重奏をバックにして歌ってほしい。きっとそれが似合うような楽曲たちだから。

 Starmarieが面白いのは、そうした個性的な楽曲群と本人たちのキャラクターのギャップで、アルバム発売の感想を急に求められた木下望が一言漠然と「嬉しい」と語ったりと、全然悲壮感がない。いや、悲壮感があるアイドルというのも嫌だが。ちなみにサイン&握手会では、ステージ上にテーブルが用意されてメンバーがイスに座っていたので、ファンがしゃがんで話すのがデフォルトだった。私が青木栞と話している間、両脇の木下望と高森紫乃と話しているファンがともにしゃがんでいたので、立っていた私は青木栞に「高いところからすみません」とつい謝ってしまった。

 そして思い出すのは、2009年9月の「TOgether2 A→B→C」(奇跡の”アングラ”アイドルフェス鴬谷に降臨でヲタ芸師たちが乱れ舞う!!)で、イベントをプロデュースしたサエキけんぞうが、Starmarieを「アイドルの原点を守っているグループ」と高く評価していたことだ。Starmarieには、先述したようなライヴアイドルとしての魅力と同時に、あまりに独自の世界観という「過激」な要素をあわせもつ。2010年12月15日にリリースされたシングル「モノマネ師ネロ」がオリコンの週間シングルランキングで84位になった記録を持つStarmarieは、メジャーという舞台でどこまで先鋭化していくのか。いっそ、ヌルい「泣き歌」が溢れるJ-POPシーンに、ファンタジックかつ地獄のように悲しい歌ばかりを叩きこんでほしいものだ。「涙のパン工場コンセル・カマタ」でも人が死んでいるし、歌詞の中だけなら「バトル・ロワイアル」ばりに人が死にまくってもいいから!

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