「あ! 最初に聞くのを忘れてたけど、俺みたいなので平気かな?」
「え? な、なにがですか?」
「ほら、俺の顔をよく見て。滅茶苦茶スケベそうでしょ?」
「そ、そんなことないですよぉ。ま、真面目そうで優しそうだと思います」」
「それはホノカちゃんが男を見る目がないからだよ。こういう顔をしている男は危険なんだよ」
「え?」
「あ! 誤解しないでね。優しいのは間違いないけど、ホノカちゃんが考えている数百倍はエッチなんだよ」
「そうは見えないです」
「駄目だって。見た目で簡単に判断しちゃ。ホノカちゃんは綺麗なんだから、悪い男にコロっと騙されちゃうよ」
「は、はい…。わ、分かりました」
急に彼女の表情が曇ったように見えた。もしかしたら、“悪い男に騙される”というワードは彼女にとってのタブーだったのかもしれない。
容姿の悪さと度を越したスケベのおかげで負け組人生をひた走ってきた筆者だが、女性の顔色を窺うスキルだけはズバ抜けているつもりだ。
この話題を続けるのは危険だと察知し、話の方向性を変えることにした。
「今なら帰ってもらって大丈夫だよ」
「え?」
「もし嫌だとかキモいとか思ってるようなら、ここでバイバイしてもいいんだよ」
「そ、そんなぁ」
「遠慮しないでね。怒ったりしないし、追いかけたりもしないからさ」
「そ、そんなことしません!」
「それじゃあ、このままホテルに向かうってことでいいかな?」
「はい」
池袋駅北口を出て、ホテル街に向かって歩き始める。
「そういえば、ホノカちゃんは5年くらいエッチしてないんでしょ?」
「は、はい」
「それだけ可愛いのに、不思議だなぁ」
「か、可愛くなんかないです。ただ、子育てで忙しくて…」
な、なぬぅ?
書き込んでいた時間帯から、人妻かもしれないと思っていた。しかし、実物の彼女を見てその考えが完全に消し飛んでいた。
まだまだ20代前半で通じそうな顔と、少女のように華奢なスタイルだったので、とても子持ちだとは見えなかったのだ。
しかし、ここで驚きを顔に出すような筆者ではない。ポーカーフェイスのまま会話を続ける。
「あ、あぁ。そうだったんだぁ。子供が小さいと自分の時間が無くなっちゃうものね」
「は、はい。それに一応、シンママなので…」
な、なぬぬぬぅッ?
シンママということは、つまりシングルマザーということだ。新米の母という意味ではないだろう。
彼女が5年もセックスレスだったことに納得した。どういう経緯でシングルマザーになったのかは知る由もないが、ずけずけと聞くわけにもいかない。
「ちなみに、子供は何歳なの?」
「来月から小2になります。今は春休みだから実家に預けているんです」
「なるほどね。それじゃあ大変だね」
もうこの辺りが限界だろう。これ以上家族構成のことや、セックスレスに至った経緯を聞くのは野暮というものだ。