ちっ! 今日もアプリにヤられた!!
サイトでエミちゃんの顔写真を確認していたが、あれはアプリで加工されたものだったのだろう。
一昔前はプリクラ写真をサイトに掲載する女性が少なくなかった。ある程度加工された状態のものとなるので、盛るには最適だった。
しかし、昨今はアプリによって盛られた写真を掲載する女性が激増している。プリクラよりも遥かに進化していて、顔の輪郭を大幅に加工するなんていうのも簡単にできてしまうのだ。
そんなアプリ加工もある程度は見越していたが、彼女の場合はその機能を限界まで使用していたのだろう。
それを見抜けなかった自分が悪いのだ。
ここで、「写真と全然違うから帰るね」と告げるのは簡単なことだ。実際にそうやって顔パスした経験が過去に何度もある。
しかし、今どきの女性はアプリで加工をすることにあまり罪悪感を覚えていないことも知っていた。彼女たちからしてみたら、濃いめに化粧するのと同じノリなのかもしれない。
逡巡していると、エミちゃんがキョロキョロと周囲を見渡し始めていた。筆者を探しているのだろう。
覚悟を決め、真っすぐ彼女に近づき声をかける。
「こんばんは、エミちゃんだよね?」
「あ、はい。ショーイチさん?」
「うん。今日はよろしくね」
「は、はい。こちらこそよろしくお願いします」
「ここだと話しにくいから、少し移動しようか?」
人混みをさけ、壁側に移動する。一昔前、国際電話のできる公衆電話のボックスが5、6台ほど並んでいた場所だ。
ここなら人通りの邪魔にならないので落ち着いて会話ができる。
「ここまで迷わず来れたのかな?」
「は、はい。北口から出たのは初めてですけど、すぐに分かりました」
「で、どうだろう? 実物の俺を見てヒいたりしてない?」
実物の彼女を見て、ドン引きしたのはこちらのほうだ。だが、礼儀として彼女の気持ちを聞いてみることにした。
「ひ、ヒいたりしてません。貰った写真通りで優しそうです」
「あ、ありがとう」
嘘をつくわけにはいかないので、「エミちゃんもサイトで見た写真通りで可愛いよ」などとは言えない。
初対面の彼女は知るべくもないが、筆者は相手によってコロコロと態度を変える。
エミちゃんのように容姿がイマイチな女性に対しては、エンジンのかかりが悪くなるのだ。
「それじゃあ、ホテルに向かおうか?」
「は、はい」
会話を早々に切り上げ、ホテル街に向かって歩き始める。
既に筆者は省電力モードとなっていた。何気ない日常の会話でエネルギーを消費するのが億劫になっていたのだ。
徒歩数分ほどでお目当ての激安ラブホに到着する。
無事にチェックインを終え、室内でふたりきりとなる。
さっさと事を済ませて帰宅したかったが、ここで筆者の悪い癖が発動してしまった。
どうせするなら、ホテル代の元を取れるくらい楽しまなきゃ!!
貧乏性なので、コストパフォーマンスの良さを求めてしまうのだ。
というわけで、彼女の気持ちをほぐす目的で他愛のないおしゃべりをすることにした。
ここで、ふたりの共通の趣味を発見。
エミちゃんは大のお笑いマニアで、新宿や渋谷の劇場に何度も足を運んでいるとのことだった。
筆者もお笑いに関しては詳しいほうだ。特に好きなのはお笑いコンビ“流れ星”の「ひじ祭り」のネタ。
あのネタを初めて見たのは今から6年以上も前のことだが、未だにその時以上に爆笑するネタに出会っていない。
そんな話題をエミちゃんに振ってみると、彼女も“流れ星”のボケ役ちゅうえいの事が好きだったと判明した。
ここから急激に会話が盛り上がった。
どちらのほうが“流れ星”ファンなのか競うようにネタの面白さを語ったり、ちゅうえいの一発ギャグをどれだけ覚えているかアピールしあった。
そんなことをしているうちに、30分以上が経過していた。
まだまだ話題は尽きなかったが、時間制限のあるラブホでこれ以上おしゃべりに費やしていてはコスパが悪くなってしまう。