待ち合わせ場所は筆者の自宅の最寄り駅。約束の時間通りに現れたN子ちゃんは大きなスーツケースをゴロゴロと転がしていた。
夏場のお泊りの際は片手で持てるくらいのカバンだったが、冬場なので着替えが多いのだろう。
「今日もありがとう、N子ちゃん。連絡貰ってからずっと毎日ニコニコしてたよ」
「こ、こちらこそいつもありがとうございます」
「今日は迷わず来られたのかな?」
「はい。もう完全に慣れました」
「それもそうだね。去年は4回もお泊りしてくれたものね」
「め、迷惑じゃありませんか?」
「そんなわけないって分かってるでしょ? 俺のこの嬉しそうな顔は演技でもなんでもないって知ってるでしょ?」
「は、はい」
「とりあえず今日はバスで向かおうか?」
バス停に向かって歩き始める前に、彼女が持っていたスーツケースを寄こすように伝える。
「え? 重いですよ」
「だからこそだよ。俺が持つからついてきて」
「は、はい」
すぐにバスが来たのでふたりで乗り込む。そして1つ目の停留所で降りる。
「部屋に入る前に何か買っていこうか? 今日の夜ご飯はまだでしょ?」
「だ、大丈夫です。またお弁当を買ってきたので…。ショーイチさんの分も買ってきちゃったんですが食べてもらえますか?」
これもお約束になっていた。
N子ちゃんがお泊りする際は、いつもお弁当をふたり分購入してから来ていたのだ。
「いつもありがとう。もちろんいただくよ。その代わり、明日の朝ご飯はいつものように俺が作るね」
「はい♪」
バス停から徒歩30秒で筆者の自宅に到着。前もって購入しておいたペットボトルのお茶を彼女に渡し、まずは一息ついてもらう。
「今回は何の用事があって上京してきたのかな?」
「え?」
「ほら、こっちの友達と会うためとか、テーマパークに行ったりとか色々あったでしょ?」
「こ、今回はそういうのじゃないです」
「え?」
「ショ、ショーイチさんと会うためだけに来ました」
「あ、ありがとう…。ゆ、夢じゃないよね。ワーって叫びたいくらい嬉しいよ」
「明日の夕方くらいまでお邪魔していて大丈夫ですか?」
「え? 1泊で帰っちゃうの?」
「ご、ごめんなさい。明後日に向こうで用事があるので…」
「あ、謝らないで。来てくれただけでも十分嬉しいよ。もちろん明日の夕方と言わず、好きなだけいていいからね」
「はい。ありがとうございます」
その後10分くらいおしゃべりしたところで、筆者が限界を迎えてしまった。