しかし、彼女はこちらと一瞬目が合ったにもかかわらず、キョトンとしていた。
どうやら筆者だと分かっていないようだ。
ちっ! 記憶の改ざんか…。
前回のデート以降、筆者とのセックスを何度も何度も脳内で再生していたであろうT子ちゃん。その度に、記憶の中の筆者の姿が美化されていったに違いない。となれば、実物と記憶とに差異が生じても仕方ない。
まぁ、こういうケースは初めてではない。特に、地方在住の女性読者と久しぶりに再会するときによく起こる。
「T子ちゃん! 俺だよ、俺!」
「えっ? あ、あぁ、ショーイチさん?」
「分からなかった?」
「ご、ごめんなさい。久しぶりだから…」
「本当に久しぶりだもんね。でも、俺はすぐに分かったよ」
「えっ、本当ですか⁉」
「うん! コラムの中でも書いたけど、生稲に似た美女って覚えてたからね」
「あ、ありがとうございます」
「それじゃあ、俺の家に行こうか?」
「はい!」
「ここからだと歩いて3分くらいなんだ。暑いけど、それくらいなら大丈夫だよね?」
「もちろんです!」
最寄のJRの駅からだと徒歩5分くらいだが、ここからならそのくらいで着く。
こうして、炎天下の中、世間話しながら自宅に向かうことになった。
到着すると、マンションの向かいにあるコンビニに立ち寄り、飲み物を数点購入。
「ほら、あそこが俺の住んでるところだよ」
「こんなにコンビニが近いんですかぁ」
「少しくらいの雨なら傘を使わずに買い物に来れるんだ」
「いいなぁ、便利そうで」
「買い物に関しては楽だね」
「だから自炊を始めたんですか?」
「えっ? よく知ってるね」
「時々ショーイチさんのTwitterを見させてもらってますから」
筆者は、今年になってから月に数回のペースで自炊している。その調理途中の様子や完成した料理を撮影し、時々Twitterにアップしているのだ。
といっても、作る料理は牛丼や酢豚や麻婆豆腐といったおおざっぱなものばかり。それでも、外食するより安く済んでいる。