もしかして、こちらの不細工ヅラにドン引きして、顔パスする理由を探しているのか…。恋愛弱者の筆者は負け癖がついているので、こういうところには敏感なのだ。
だったら、こちらからお膳立てしてあげるのが男としての務めだろう。
「えっと、安心してね」
「え?」
「このままゴメンなさいしてもらっても怒らないからね。なんだったら、先にそこの階段を下りたところで待ってるから、嫌だと思ったら階段を下りずにそのまま帰ってもらっていいからね」
「えっ?」
「ほら、送った写メと違って実物は数百倍もエロそうでしょ? だから、無理することないからね」
「そ、そんなこと思ってません」
「本当に? 絶対に怒らないし、追いかけたりしないから安心して断っていいんだよ」
「そ、そうじゃなくて…。こ、こういう待ち合わせが初めてなので…」
出会える系サイトでは、登録して間もないユーザーに“初心者マーク”が表示されることが多い。彼女には初心者マークがついておらず、募集文の内容も慣れた感じだった。だから、相手が初心者だとはまったく考えていなかった。
だが、実はこうしたケースも珍しくはない。登録して募集文を書き込んだものの、踏ん切りがつかず実際に待ち合わせしたことがない、という女性は少なくないのだ。
「そうなんだ。それじゃあ、緊張するのも無理はないね」
「は、はい。ゴメンなさい」
「ううん。緊張して当然だと思うよ。なにしろメールでしかやり取りしてないんだから、変な男が来るかもしれないしね」
「は、はい」
「じゃあ、とりあえずゆっくり歩きながら話そうか?」
「えっ?」
「途中で帰りたくなったら、いつ帰ってもらっても構わないからさ」
「は、はい。でも、大丈夫です」
「ほらほら、そんなに慌てて決めないで。ちゃんと相手を見定めてからじゃないと危ないよ」
「は、はい」
アルタ前からラブホ街に向かう場合、地上の道を選ぶのが最短距離となる。
しかし、人混みのせいで落ち着いて会話しながら歩くことは難しい。
だから、一度地下道に下り、ゆっくり歩いて相手の緊張が解ける時間を作ることにした。