現代は、心の病める時代である。
例えばあなたの周囲の人間関係を見渡せしたとき、何人かは「明らかに病んでいる」と思える人が見つかるのではないか。「あなたの心は健康ですか?」という問いに自信を持って「健康です!」と答えられる人は、どれだけいるのだろう。そんな心の病に悩む現代人を、”フォト・セラピー”という方法で癒している人物がいる。
フォトグラファー・中村豊美。
彼女はなぜ、どのように写真で人を癒すのか。そのお話を聞いてきた。
──今日はよろしくお願いします。おそらく、この記事で初めて中村さんのことを知る読者が多いと思いますので、どういった方なのか来歴からお教えいただけますでしょうか。
中村 よろしくお願いします、中村豊美です。昔は大手芸能事務所に所属して舞台女優を目指していたんですが、十代のうちに挫折しました。その後ネットアイドルを経て、今はフォトグラファーとして活動しています。
──女優、ネットアイドル、フォトグラファーと変遷したんですね。つながりの部分がよく見えないので、もう少し詳しく聞かせてください。
中村 ネットアイドルになったのはたまたまというか、最初は家にあったスキャナーでなんとなく顔面スキャンしたら出来が面白かったんです(笑)。それをホームページに載せてみたら反響がもらえて、じゃあせっかくだからもっと色々ということで、Webカメラやデジカメを買い、セルフポートレイトを始めました。
──顔面スキャン……魔が差したというやつですか(笑)。ネットアイドルとしての活動はどんな感じでした?
中村 ホームページに自分の写真を載せてただけなんですけど、当時はまだそういう活動をしている人が少なかったので注目されて、100媒体くらいから取材を受けました。それまで舞台の仕事で限られたお客さん相手に他人の書いた脚本で演じていた窮屈さと比べて、無数の人に向けて自分の人生を見世物にできるのは気持ち良かったです。そもそも、誰かにプロデュースされるより自分がプロデュースしたいという思いが強かったんですね。
──100媒体とは凄い。今のネットアイドルではちょっと無理な数でしょう。その後は、カメラにハマッて自分以外も撮りたくなったという感じですか?
中村 そんな感じです。まずは身近な人の写真を撮り始めて、口コミでモデルを集めたり、徐々に他の人も被写体にしていきました。
──中村さんのポートレート作品は、被写体が男性・女性の場合ともエロティックなものが多いのに、なぜかフルヌードはやりませんよね。そこには何かこだわりが?
中村 恋はヤルまでが一番楽しいですから。作品では「もっと知りたい」「もっと欲しい」っていう願望や、「この人が裸になったら……」って妄想を大切にしてるんです。
──セルフポートレイトと、他人を撮影する感覚ってかなり違います?
中村 男性の場合はいくらか違いますけど、女性を撮るときはセルフポートレイトの延長です。私にとって、写真撮影の基本は自分への愛の表現なんです。
──自分への愛を持ち続けるのも大変なことですよね。昔から自分に自信を持っていたタイプですか?
中村 全然! 若いうちに挫折してますし、スタートにあったのは「誰も分かってくれない」っていう絶望的な気持ちです。でも、セルフポートレイトを続けているうちに、等身大の自分を受け入れて、良いところも悪いところも含めて自分の全てが好きになっていったんです。
──その感覚はフォト・セラピーと通じていそうですね。
中村 はい。プリクラが流行したのも近い理由があると思うんですけど、女子は映りの良い写真が1枚あるだけでも元気になれるものなんです。「どうすれば自分が好きになれるのか」ってことが分からなくて自分と向き合えずに苦しんでいる人、たくさんいると思います。セルフポートレイトはそういう人に効くんです。
──今、フォトセラピストとして活動していることは?
中村 ワークショップで、悩んでいる人の話を聞いて心をほぐしながら、自分と向き合えるようになるための写真を撮っています。自分が救われたように、写真を通して他人を救いたい。それを実践するのが、私の使命だと思っています。
日本にはフォトセラピー協会というものが存在し、病院、介護施設、福祉施設などとも連携をとりながら、写真、あるいは撮影という行為自体による癒しや心理療法を普及している。まだまだ馴染みの薄い療法ではあるが、あなたも「これを見れば元気が出せる」という写真を1枚、手元に置いてみてはいかがだろう。明日から、生きていくのが少し楽になるかも知れない。
(取材・文=瀧昌臣)
◆特定非営利活動法人 日本フォトセラピー協会HP
◆中村豊美作品の閲覧は下記から
・公式サイト「LOVERSDESIGN」
「豊美写真展」
「Princess*Princess*Photo」
「男写 -dansha-」
「LOVERS BABY LOVE」