【連載】第4回 レズビアンの若干憂鬱な日常 

レズビアンにとっての男性とのセックス──レズビアンか、バイセクシャルか?

rezu040525.jpg※イメージ画像 photo by riveri41 from flickr

 レズビアンは物心が付いた時からレズビアン。読者の中には、そう思っている方も多いのではないだろうか。

 確かに、幼いころから自分のセクシャリティを自覚し、生きてきたレズビアンもいる。しかし、男性と付き合ったことがあるというレズビアンも、実はとても多い。私もそうだし、ほかのレズビアンたちに話を聞いても「今はレズビアンとしての自覚を持って生きているけれど、過去には男性経験もある」という人は、かなり居た。そんな方々に、男性と付き合っていた理由を尋ねてみると、

「男性と恋愛するのが当たり前だと思い込んでいた。自分は恋愛感情の薄いタイプだと思って、好きになれなくてもなんとなく付き合っていた」

「レズビアンであるとうすうす気づいていたが、認めるのが嫌で、無理に男性と交際していた」

 などの答えが返ってきた。

 前者の方は、身近な女性に対して強い恋心を意識した時に、後者の方は他の同性愛者と知り合って自分の中の偏見が消えた時に、レズビアンとしての自覚が生まれたのだという。

「でも、一時は男性と付き合っていたんでしょ? それって、バイセクシャルとどう違うの?」

 読者の中にはそう、疑問に思う人もいることだろう。

 まず指摘しておきたいのは、ゲイの男性が女性とセックスするのと、レズビアンが男性とセックスするのでは、後者の方が比較的簡単、ということだ。なぜなら、女性は男性とセックスする場合、受け身にならざるを得ない。逆に言えば、興奮しなくてもセックスが可能だからだ。

 レズビアンか、バイセクシャルか。セックスの可能・不可能だけで考えると、その線引きはとても難しい。それでは、レズビアンとバイセクシャルを区別するものは何か。それはセックスではなく、恋愛の可能・不可能ではないかと、私は思う。

 個人的な話をするが、私はレズビアンとしての自覚が芽生える以前、何人かの男性と付き合った。私の場合、その理由は単純だ。セックスがしたかったからだ。

 学生のころ、私はものすごく性欲の旺盛な少女だった。オナニーは毎日のようにしていたし、授業中でもふと気が付くとエロいことを考えていた。「男は20分に1回はエロいことを想像してるんだって!」と友達が得意げに話してきた時、「えっ!? それって女もじゃないの?」と、内心慌てたものだ。私はとにかくセックスをしてみたかった。

 ただ経験がなかったので、できるだけ見た目がいい、年上の、うまい男性とが良かった。そしてある時、何の偶然か、まさにそんな男にナンパされたのだ。

 四十を少し越えた、背の高い、イチロー似の建築士(お金持ち)。理想通りすぎて「何の冗談?」と思ったくらいだ。連絡先を交換してから一回目のデートで、私はひょいひょいホテルについて行った(今思い返すと、とんでもないバカだ)。

 そして、驚いた。気持ち良くないのだ。オナニーの時はあんなに簡単にイケるのに、彼にどんなことをされても、感じない。こんなはずではない、オナニーがあんなに気持ちいいのだからセックスはもっと気持ちいいはずだ、と思ってしばらく付き合っていたけれど、結局、最後までイクことはできなかった。

 そんな「恋愛」が、何度かあった。付き合おう、と言われると、「今度こそ気持ちいいセックスができるかも」と期待し、付き合ってみる。けれども、どれも駄目だった。それどころか、いつしか、男性とセックスした後には、胸やけのような嫌な気持ちが私の中に残るようになっていった。

「私には、もしかしたらセックスの才能がないのかもしれない。オナニーでしか気持ち良くなれない人間なんじゃないだろうか?」

 20歳のころまで、そんなふうに悩んでいた。そしてある時、気付いた。

「もしかして、今まで気持ち良くなかったのは、私が相手のことを好きじゃなかったからなのでは?」

 確かに、セックスがしたい、と思うことはあっても、この人が好きで好きでどうしようもなくドキドキする、という気持ちを抱いたことはなかった。つまり、セックスはしていても恋愛はできていなかったのだ。

 よくよく考えてみると、今まで付き合った相手も、向こうから付き合おうと言ってくれたので、セックス目当てに了承していただけだった(今思い返すと、ひどすぎて言葉もない。本当にごめんなさい、あの時の人たち)。

「もし、好きで好きでどうしようもないような相手とセックスをすることができたら、とても気持ちがいいのではないか?」
ようやくそう思い至った私は、さらに考える。

「……そういえば、私は友人Aのことがとても好きだよなあ。どんな男よりもあの子と居る方が楽しいし落ち着くし、もしセックスできたら……あれっ、すごいいいんじゃない?」

 これが、私のレズビアンとしての自覚の第一歩だった。

 つまり、私は何人かの男性とのセックスを経て、男性と恋愛できない自分に気付いたと言える。そして、それでは男とか女とかを抜きにして、一緒に居て一番楽しい相手は誰か、さらにその相手とセックスをするところを思い浮かべるとどうか、と考えることにより、友人Aへの恋心に、ひいては自分は女性を愛することが自然なのだということに、気付くことができた。

 セックスが気持ち良くない、と悩んでいる方は、一度、このように見方を変えてみてはいかがだろうか。ふとしたことで、自分の本来のセクシャリティに出会えるかもしれない。

(文=嶋陶子/レズビアンライターの普通な日々

嶋 陶子(しま・とうこ)
某文系大学卒業後、婦人服の販売員として働いていたが、全く向いていないことを悟って辞職。ライターの道に入る。レズビアンであり、女性パートナーと同棲中。

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