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【アイドル音楽評~私を生まれ変わらせてくれるアイドルを求めて~ 第8回】

アイドルよ、海を渡れ 変容するSaori@destiny『WORLD WILD 2010』


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 昔は良かった。そんなことを口にするヲタを俗に「懐古厨」と呼ぶ。特定のアイドルに偏愛を注ぐヲタほど、アイドルの方向性の変化に敏感だ。昔は良かった。その言葉は執着と裏表の愛情の表現であり、他の新しいアイドルへの乗り換えを拒否した人々が口にする嘆きでもある。しかし誰もが分かっている。変わらずにいられるものなどないということを。アイドルは人生の縮図だ。

 私がSaori@destinyのライヴを初めて見たのは2008年2月11日のことだった。対バンがCutie Pai、marino、Aira Mitsukiというメンツのなか、Saori@destinyでは突然何事かと思うほどの激しいヲタ芸が発生し、驚愕したことを思い出す。それから足を運び出したSaori@destinyのライヴでは、リフト(ヲタが他のヲタを持ち上げる行為)も発生し、いわゆる「0列突入ケチャ」でステージ上にヲタが多数いるなど、東京のアイドル・シーンでもChu!☆Lipsと双璧を成すハードコアな現場だった。私の友人はケチャで勢い余ってステージ上を前転していき、0列突入ケチャをしていた私のメガネも吹き飛んだ。あのメガネは今もどこかで宙を舞ったままだ。

 しかし、Saori@destinyは独自の進化を続けた。09年の「WOW WAR TECHNO」の頃からライヴハウスだけではなくクラブへも積極的に出演しはじめ、ファン層にも変化が起きる。そして昨年末、「ネオ・サブカルチャー・ガールをコンセプトに新たにバックキーボードを加え『cooljapan』を世界に発信!!!」という新しいコンセプトが発表された。また変わるのか......そんな緊張を抱きながら聴くことになったのが、セカンド・フル・アルバム『WORLD WILD 2010』だ。

 しかし、そんな不安を軽く吹き飛ばす振り切れ方がこの『WORLD WILD 2010』には存在した。タイトル曲の「WORLD WILD 2010」は、ブラジルのダンス・ミュージックであるバイレファンキを導入し、リズムとコーラスの泥臭さをスタイリッシュに消化した和製バイレファンキ。「Play」もブラジリアン・テイストと90年代テイストが同居することで異彩を放つトラックだ。「エスニック・プラネット・サバイバル」や「BABY tell me」にはサイケデリックな感覚があり、後者はリズムの緩急の付け方が激しい。「ファニー・パレード」はリズム構造こそ違えどサンバを連想する多幸感があり、ここへの流れはカタルシスをもたらす。本編ラストの「シンパ」は鮮やかなエレクトロニカ・ポップだ。

 そして最後には「Lonely Lonely Lonely(FUNKOT.JP remix)REMIXED BY DJ JET BARONG aka 政所」として、レオパルドンの政所によるリミックスが収録されている。インドネシアのダンス・ミュージックであるファンキー・コタにハマり、バリ島にまで足を運んだ政所の手によって「Lonely Lonely Lonely」は本格的なファンキー・コタへと変貌し、気を抜くと原曲が思い出せないレベルだ。完全フロア仕様のサウンド。

 そうしたサウンドの一方で『WORLD WILD 2010』の重要な点は、やはりSaori@destiny自身による歌詞とヴォーカルでもある。「エスニック・プラネット・サバイバル」の「トビすぎてるダーリン『死ねよ』って言われて 顔なぐられてブルー」、「Play」の「みんなやってるから あたしもした / ママへの罪悪感なんて感じない」という歌詞を先行シングルで聴いたときには、リアリティを追求してケータイ小説のようになるのはキツいな......と感じたものだが、『WORLD WILD 2010』では全体的に良い塩梅に。ハードなエレクトロに乗せて恋愛のせつなさを歌う「I can't」は、Saori@destinyのヴォーカリストとしての魅力が実によく表現されたナンバーだ。「グロテスク」の深い歌詞も新境地。凝ったサウンド・プロダクションが印象的なミディアム・ナンバー「プリズム」もまた心地いいラヴソング。「シンパ」の「前向きなのをブログに書いた日に限って / 嫌な事ばっかあるような気がするなぁ」という歌詞も等身大のリアリティを感じさせる。

 方向性の変化に不安を抱いていたものの、結果を見てみれば、『WORLD WILD 2010』はSaori@destinyの最高傑作を更新するアルバムだった。08年には河口恭吾の「桜」や電気グルーヴの「Shangri-La」、09年にはtrfの「EZ DO DANCE」をカヴァーしてきた彼女だが、もはやカヴァー曲なしでこのレベル。音楽的にももはや完全に「Perfumeフォロワー」の枠外にいる。

 そんな興奮を感じつつ、一点だけ心配になったのはこの「WORLD WILD 2010」がどう受容されるかだ。アイドル・ポップス的な甘みは薄い。「サブカル」な人種は、サブカルを自称されると逃げてしまうような自意識の持ち主たちだ。ワールドミュージックのリスナーは高齢化が進み、バイレファンキやファンキー・コタ、あるいはコロムビアのリズムを元にしたデジタル・クンビアのような新しいダンス・ミュージックにまで手を伸ばす人は多くないだろう。

 ところが。「WORLD WILD 2010」を含むSaori@destinyの楽曲たちが、6月末からiTunes Storeで世界23ヵ国へ配信されるというではないか。ならばSaori@destinyよ、海を渡れ。

 私がふと思いだすのは、ちょうど2年前の春のことだ。桜が咲き乱れる公園で、メジャー・デビュー・シングル「sakura」をリリースする彼女に取材していた。あれからたった二年の間に起きた様々な変化を考えるとき、胸に痛みが走る。しかし、そんな私の勝手な想いなどSaori@destinyは踏み越えていくべきなのだ。

 今年の4月はまだ寒くて春が来てない。寒いゆえに桜はなかなか散らず、その花を見るとふと二年前のSaori@destinyを思い出す。けれどいつかは桜も散るように、Saori@destinyは次のフェーズへ進むべきなのだ。海を越えて、世界へ。

WORLD WILD 2010

◆宗像明将
1972年生まれ。音楽評論家として、日本のロックやポップス、英米のポップス、ワールドミュージックを中心に執筆。その一方、2002年からソニンのヲタに。彼女の歌手活動停止後は、魂の救済を求めてPerfumeとtoutouのヲタになり地下へ。現在は地下から地上までのアイドル・シーンを見守る。http://www.outdex.net/diary/

『WORLD WILD 2010』


必聴。

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