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AVライター・雨宮まみの【漫画評】第9回

クソみたいな人生に火をつけろ! 踏まれても立ち上がる負け犬男の挽歌


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『ボーイズ・オン・ザ・ラン』花沢健吾/小学館

 映画化され、すでに来年一月に公開が決まっている『ボーイズ・オン・ザ・ラン』の原作マンガ。もうじき映画も公開だし、この時期に読んでおくといいよ! とオススメするにはちょうどいいかと思ったのだが、そんな軽い気持ちでオススメできる作品ではなかった。

 田西敏行、27歳。しがない、しがないサラリーマン。モテない、仕事できない、好きな女に手も出せない。......だいたいどんな作品か想像していただけただろうか。ダメ押しのように付け加えると、作者の花沢健吾氏の代表作といえば『ルサンチマン』である。ホラ、ちょっとは見えてきたでしょ、どんな話なのか......。

 真面目に言うと、この作品は『宮本から君へ』(新井英樹)である。パクリだとか、そういう意味ではないし、いい意味で言ってるわけでも、悪い意味で言ってるわけでもない。『宮本から君へ』という作品の中に流れているものと、同じ源流を持つ作品だという意味だ。

 もちろん源流は同じでも、時代も作者も違っていれば当然作品はまったく違う。いい年してなーんもない、何かに熱くなったこともなければ、何かに心ごと、身体ごとぶつかってみたこともない、積み重ねてきたものも何にもないまま、傷つくのが怖いだけの臆病者人生を送ってきた主人公が、恋愛で負けて、仕事で負けて、勝ってきた奴らに大事なものを最悪な形で踏みにじられて、人生で初めて立ち上がる、そういう物語が花沢健吾の手にかかると、しみじみと情けなく、ときめきの後にグッと胃液がせり上がってくるようなイヤ~な感じが軽妙かつ丁寧に見事な切れ味で描かれ、読む方は「こんなのイヤだ~!」と思いつつ、いつしか心から田西を応援せずにはいられないくらい話に引き込まれてしまう。

 負けに負けに負けながら生きてきて、勝ったことも、勝とうと思ったこともない男が踏みつけられて立ち上がるとき、その手に持つ賭け金は「人生」そのものだ。この話は「男にはやらなきゃいけない時がある」とか「戦わなきゃいけない時がある」とかいう話じゃない。そんな話は「都合がいい」のだ。負けに負けてて、でもいつかは自分の人生、ちゃんと本気になりたいと思ってる人間の前に、やらねばならない戦いが降ってくるなんて、そんな都合のいい話はない。田西の戦いは「やらねばならない」戦いなんかじゃない。「そんなことしてどーすんの?」「意味ないよ」「今からやめてもいいんですよ」と言われるような、ムダな戦いだ。

 そのムダな戦いを「やる」と自分で決めることに意味があるんであって、そしてやるからには必死でやることに意味があるんであって、ただ向こうから「戦い」や「通過儀礼」が飛び込んでくるのを待ってるような「本当の負け犬」から抜け出そうとあがく田西の姿には、ひたすら情けない疾走感がある。ぶさいくなフォームで汗と鼻血にまみれて走る男の疾走感がある。

 もともと何にもないんだから、失うものなんてない。そう言うのは簡単だけど、実際はそんなことない。会社員としての生活、毎月のわずかな収入、人から見たらチンケなものでもそれを失うのには覚悟がいる。そんな大事なものを捨ててまで、なりふりかまわず何かをやるのは恥ずかしい。その恥にまみれて田西は「走る」。何にもない負け犬の自分を振り切るように走る。振り切れやしないんだけど、それでも走る。だって、それまでは走ることさえできなかったんだから。

 花沢健吾という人は、こういう男の情けなさを描くことに関してはとても長けていて、ひとつひとつの描写にグッとリアリティの重みがある。設定やストーリーは「マンガっぽい」ものであっても、イヤんなるくらい「ああ、こういうことってあるよね......」という描写の積み重ねがボディブローのように効いてくる。だから最初は田西のことをからかうような気持ちで読み始めても、途中で絶対にやめられなくなる。最後まで見届けずにはいられなくなる。

 映画では、原作の最後まで全部を描いているわけではないらしいが、この予告(映画『ボーイズ・オン・ザ・ラン』公式サイト)を見ていると、改めてこの作品の芯に通っているものに触れたような気がして、泣くつもりがなくても胸のあたりを強く圧迫されて押し出されるように涙が出てくる。

 はっきり言って、ラストシーン以外はイヤ~な話の連続だ。胸くそ悪すぎてマンガぶん投げたくなるような話の連続だ。正直「この展開は要らないんじゃないの?」と思う展開もあるし、「この伏線は唐突じゃない?」と思う展開もある。でも、それをさっぴいても、この作品が描こうとしているものの核はしっかりしているし、はっきりと太陽の方を向いている。

 10巻完結。人生を変える一冊を探しているなら、十冊、買って読んでみてほしい。勝負は、それからだ。

『ボーイズ・オン・ザ・ラン 1』花沢 健吾(著)/小学館


そう、勝負はここから!

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雨宮まみ
エロ本を中心に活躍中のエロ・AVライター。1976年生まれ。2000年ワイレア出版入社、投稿系エロ雑誌の編集に携わる。2002年フリーライターとして独立。主にAV誌を中心に取材やレビューなどの執筆活動を続けている。また、弟に向けてAVを紹介するという形式のAVレビュー系ブログ「弟よ!」も話題に。

・バックナンバー
【第1回】 一片のムダもない間違いなしの山本直樹のエロ・ベストワークス!
【第2回】 AV女優は"底辺"の仕事? 業界で働く人間のリアルを描いたマンガ
【第3回】 セックス「しなきゃいけない」ハーレム状況。女だらけの中に男ひとりで何を思う?
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