く、くーっ! 近づくと更に強烈だな、コレ!
ナナエちゃんの目がとにかく凄かった。重そうな瞼が垂れさがった一重で、眼光が鋭そう。五分刈りにしてスナイパーライフルのM16でも持たせたらゴルゴ13さながらだ。
いや? もしかしたら目を閉じて瞑想しているだけなのかも?
だが、ナナエちゃんはスマホを見ながら何やら操作していた。どうやらちゃんと覚醒しているようだ。
タジタジになっていると、不意に彼女が頭を上げた。
バチっ!
目と目が合ったような気がする。線のように細い目のナナエちゃんなので、あくまでも“合ったような気がする”だけだが。
こうなったら覚悟を決めるしかない。回れ右してダッシュしたくなる思いを飲み込み、そのまま彼女の目の前に立つ。
「ご、ごめんなさい。こんな感じじゃ嫌ですよね?」
こちらが話しかけるより先に、ナナエちゃんがそう告げてきた。
どうやら向こうもこちらを認識していたようだ。
予想外の先手を取られて一瞬たじろいでしまう筆者。だが、潜り抜けてきた過去の修羅場に比べたらなんてことはない。すぐに気持ちを切り替えることに成功。
出会える系サイト遊びが初めてだという彼女。今にも泣き出しそうで、やたらとキョドっていた。
どんな野郎が来るのか? 怖い事や痛い事はされないのか? 容姿を馬鹿にされ、暴言を吐かれてしまうのか? そんな数々の不安がナナエちゃんの細い胸に詰まっていて、今にもあふれ出しそうな感じだ。
チクっ!
胸の奥が少し痛んでしまった。イケメンに顔パスされるのなら彼女も納得したことだろう。だが、筆者のように顔面偏差値の低いオッサンに顔パスされたら、彼女の心をギッタギタに傷つけてしまうことになる。
何も悪いことをしていない女性を傷つけるわけにはいかない。ここで顔パスしたら、筆者は一生十字架を背負うことになるではないか。
スーっ
深く息を吸い込みながら決心する。
ま、部屋を真っ暗にして、さらに目を閉じていれば大丈夫だろう!
本音が顔に出ないよう口角を数ミリほど持ち上げる。そして眉間に縦皺が刻まれないよう、おでこの筋肉を弛緩させる。
この辺りの表情筋のコントロールはお手の物である。物心ついた時からずっと“陰キャ”だった筆者は、他人を不快にさせない術を身につけているからだ。
「だ、大丈夫だから、まずは落ち着いて」
「は、はい」
「あ、まずは挨拶させてね。初めまして、ナナエちゃん。ショーイチだよ」
「は、はい。な、ナナエです」
これだけ近づいても彼女の目は1本の線にしか見えない。
まじまじと観察したくなったが、それはNGだ。ナナエちゃんのような容姿をしている女性に対し、顔をじっと見つめるというのは悪い結果しか生まないものである。
視線を少し下げ、彼女の口元を見ながら会話を続ける。