いつもなら会話しながらあれこれ探るところだが、斜め後ろをついて来る彼女に語りかけるのはあまりにも不自然だった。
ということで、会話をしないまま目的のホテルに到着。ここでサキエちゃんに改めて話しかけた。
「ここまで来ちゃったけど、大丈夫?」
「えっ?」
「もし嫌だったら、駅に引き返してもいいんだよ」
「そ、そんな…」
「大丈夫。俺は絶対に怒ったりしないから、安心して」
「か、帰ったりしません!」
「それじゃあ、俺でいいんだね?」
「は、はい。ショーイチさんさえよければ、このままお願いします」
「了解。それじゃあ、俺が先に入るから、少しだけ遅れて入ってきてね」
ホテルの入り口をくぐりフロントの前で待っていると、30秒ほど遅れて彼女が入ってきた。
この30秒間、彼女の中でどれほどの葛藤があったのだろうか。背徳感でゾクゾクしながら部屋を選び、無事に入室することができた。
「やっとふたりっきりになれたね」
「は、はい」
「20年近くもレスが続いてるんだよね?」
「はい。子供が生まれてから関係がなくなっちゃいました」
「それは辛かっただろうね」
「最初は子育てで忙しかったので、そう考える暇もなかったですね」
「今は子供も大きくなったんでしょ?」
「はい。今は大学生です」
「どうしてこのタイミングで出会える系サイトを使おうと思ったのかな?」
「こ、このまま年をとっておばあちゃんになるかと思ったら、怖くなったんです」
「うん、うん。分かるなぁ。そのままセックスせずに死んじゃうなんて嫌だよね」
「はい。それでいろいろと迷って…」
「それで出会える系サイトを使ったんだ」
「い、いえ。その前に一度、AVに出ようかと思ってました」
「えっ? AV?」
「はい。人妻系というか熟女系の作品でモデルを募集していたので…」
「それに応募したってこと?」
「はい。メールで全身写真と顔写真を送って…」
「ずいぶん思い切ったことをしたね」
「どうやって相手を探せばいいのか分からなくて…。それでネットで探していたらその募集を見つけたんです」
「それで、どうなったの?」
「メーカーさんからOKをもらったんですけど、ギリギリで怖くなっちゃって」
「そりゃそうだよね。今はどの作品もデジタル化されてるから、ずっと残ちゃうからね」
「顔は隠しての撮影だと聞いていたんですけど、人前で裸になるのが怖くて止めちゃいました」
セックスレスが高じてAV出演を考えるなんて、それだけサキエちゃんが切羽詰まっていたということだろう。