遅れて出てきたヒメカちゃんにも水分補給させようと思い、声をかける。
「水分を摂ったほうがいいよ。なに飲む?」
「え、えっとぉ、お茶はありますか?」
「ゴメン! 俺が先に選んじゃったよ。あとはビールとコーヒーとコーラかな?」
「それじゃあ、ショーイチさんの飲みかけを貰っていいですか?」
「うん。もちろんだよ」
筆者は冷蔵庫の上に置かれていたコップを手にし、お茶を注ぎヒメカちゃんにわたそうとした。すると、
「あっ、コップに入れなくていいです。そのまま飲ませてください」
「え? いいの?」
「はい」
筆者が口をつけたペットボトルのお茶を飲み始めるヒメカちゃん。いわゆる間接キスというヤツだ。
その後、30分近くだらだらと休憩し、おしゃべりを続けた。
「あれ? 今日はこのあと地元に帰るの?」
「いいえ。いつも泊めてもらってる友達の家に行く予定です」
「あっ、それはいいね。日帰りだとゆっくりできないし、こっちに来るたびにホテルに泊まるのも大変だものね」
「はい。同じ趣味の友達なので、気が楽なんです」
「その子もアニメが好きなんだ」
「どっちかっていうと、彼女は声優マニアなんです」
「最近の男性声優はイケメンも増えたよね」
「私も●●さんとか◆◆さんのイベントに参加したこともあるんですよ」
「へぇぇ、そうなんだ」
まったく興味のないジャンルの話だけに、彼女が挙げた声優の名前は右から左に素通り。一文字も記憶に残らなかった。
そんなおしゃべりの間、ずっと自分を励ましていた。この調子なら、問題なく2回戦目に誘えるはずだ。いや、それどころか、彼女のほうは誘ってくれるのを今か今かと待っているかもしれない。
だが、愚息はずっと縮こまったままだった。頑張って西野七瀬だと思い込もうとしたが、賢者タイムに突入してしまったようだ。
うん、やっぱ無理だわ…。
早々に諦めることにした。あとは、できるだけスマートにデートを終わらせるだけだ。
「それじゃ、そろそろ帰ろうか?」
「え?」
「俺はもうシャワー浴びなくて大丈夫だけど、ヒメカちゃんはどうする? もう1回シャワー浴びる?」
「わ、私も大丈夫です」
「じゃあ、ゆっくり着替えようか」
帰り支度を終え、ホテルを出る。駅の改札口まで彼女を見送り、デートは終了した。
彼女とは連絡先を交換しなかったので、再会することはないだろう。
…
……
今回のデートでは、新たな問題点が発覚した。アニメやゲーム、そして声優好きの女性が増えていることは知っていたが、そっち方面の知識をほとんど持っていなかったのだ。
趣味の話は、会話を盛り上げるために一番手っ取り早い。これから先、脳内フィルターなしで西野七瀬に似たアニメファンの女性と遭遇することだって十分あり得る。
“チャンスを逃して後悔”なんてことがないように、もっと幅広い知識を吸収せねばなるまい。勉強なんて大嫌いだが、気持ちいいエッチのためなら努力を惜しまないのだ。
(文=所沢ショーイチ)