【アイドル音楽評~私を生まれ変わらせてくれるアイドルを求めて~ 第40回】

スクール水着とケツバットで殺してくれ! BiS「PPCC」でメジャー・デビュー!!

bis_ppcc_0731_main.jpg※画像:『PPCC(SINGLE+DVD)』BiS/avex trax

 「並べられたトマトが次々にグチャグチャに潰されていくような気持ちになるんです」。そう当サイトでのBiSインタビュー(https://www.menscyzo.com/2012/07/post_4282_3.html)で私が吐露したことは、いささかの誇張もない。トマトを丁寧に道に並べ終わったら、その直後からひとつひとつ釘の刺さったバットで叩き潰されていくかのような苦しみ。それを経て瀕死の私が最後の力を振り絞って手にしたのが、BiSのエイベックスからのメジャー・デビュー・シングル「PPCC」だった。

 全国流通するCDとしては2011年12月の「primal.」以来だが、その後もBiSはちょっとおかしい勢いで音源をリリースしていた。1月に無料ダウンロード配信された「豆腐」、ローソン・HMV限定シングルとして4月に発売された「IDOL」、そしてBiSとDiSのスプリット・シングルとして6月に1000枚限定でリリースされた12インチのアナログ盤「ABiSCDiS」と、これだけで総計7トラック。特に「IDOL」は、直前まで「これまでの路線を捨てて純アイドル路線に変更する」という芝居が続けられたために、ヲタに甚大な心理的ダメージを与えた。私もまたこの事件で精神に変調をきたし、リリース当日の新宿ロフトでのライヴでは、研究員(BiSヲタの総称)がBiSの登場とともに「ごめんなさい!」と叫ぶなかで、ひとり私も最前列で絶叫していた。「レスがないなら殺してくれ!!」と。

 

 
 実は前述のインタビューに関しては、複数の古参研究員から「宗像さんは日和っている」と糾弾された。最後のページで触れた、Twitterでの研究員へのリプライの停止問題になぜもっと突っ込まなかったのか、と。しかし、リプライを止めてでもメジャー・デビューに賭けようとするBiSのメンバーのあまりの気迫に私は精神的に追い込まれ、その姿勢を肯定するしかなかったのだ。もしオリンピックに「レス厨」という競技があったなら、私は今頃日本代表選手としてロンドンで大歓声を浴びていることだろう。しかし、大舞台に飛び出そうとするBiSの覚悟に水は差せないと腹をくくったのだ。たとえレスを失ったとしても――。

 うっかり話がレスに集中しすぎたが、「IDOL」はあまりのハードコアさゆえにライヴではダイヴが起きる定番曲になった。ビデオ・クリップはカルト宗教的な雰囲気に包まれ、アノニマスをJ-POPのビデオ・クリップに初登場させている。Schtein&Longerがサウンド・プロダクションを手掛けた「ABiSCDiS」に収録されたDiS(BiSの一部メンバーである)の新曲「be minded」は、つぶやくかのようなラップ(特にユッフィーのくぐもるような声が秀逸)とブラスセクションがめくるめく快楽を生み出している傑作だ。今振り返ると、何もかもが不自然なぐらい丸く収まってしまった。認めたくないが、まんまと操られている。

 そして、新メンバーにミッチェルとワッキーを迎えてのメジャー・デビュー・シングルが「PPCC」だ。これまでと同じく全曲のプロデュースは松隈ケンタ。前述の「IDOL」を巡る騒動でディレクター降板を発表して研究員を動揺させた渡辺淳之介マネージャーが「JxSxK」名義でコ・プロデュースに名を連ねており、「むしろ昇格しているではないか?」と腑に落ちない部分もあるが、とにかくサウンド的にはまったく不安を抱かなくて済む布陣だ。松隈ケンタ率いるクリエイター集団・SCRAMBLESが参加して、全曲のドラムは生というのもポイントだろう。

 

 
 「PPCC」は、メジャーという未知なる世界へ突き進むBiSにふさわしい爽快な楽曲で、それゆえにBiS自身による歌詞の「ひどく淋しいんだ」という一節が胸に刺さる。さらに「歩行者天国の雑踏で 叫んでみたかったんだ」「CRACK CRACK」と息つく間も与えないロック・ナンバーの連続。そして最後に収録されているのは、trfの「survival dAnce -no no cry more-」のカヴァーだ。エイベックからのデビューを押し出したプロモーションをくどいほど繰り返してきた中でも、最終兵器のようなトラックである。

 お色気ボイスで幕を開け、ユッフィーとプー・ルイのヴォーカル、のぞしゃんの絶叫、楠瀬タクヤが高速で叩き狂うドラムへと怒涛のように展開していく。このサウンドは、Fear, and Loathing in Las Vegasのようなピコリーモの影響を指摘する声が私の周囲にもあった。たしかにその通りなのだが、ピコリーモを「エイベックスだからtrf」という発想とともにこの楽曲に導入されると、異様な馬鹿馬鹿しさと楽しさが生まれ、それがライヴでこの楽曲が披露されるときに発生する乱痴気騒ぎのような祝祭ムードにつながっているのではないか。BiSという存在そのものが持つ、頭のネジの外れた部分が今回はここに集約されている。

 

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