【テリー・天野のメンズ的映画評 第14回】

切なささく裂、エゲツなさ大爆発!! バブル真っ盛りの香港で美しき殺人犯が大虐殺!!!!

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 かつての日本もバブル景気に湧き、土地やらモノが天井知らずの高騰ぶりを示した時代がありました。

 それに負けず劣らず、急激な不動産価格の高騰が問題になっているのが、今の香港です。

  香港では、2003年からの投資移民制度(一定の財産を持ち、香港への投資を行っていた者に対して永住権を与える制度)の開始により、中国本土から大量の富裕層が流入してきました。そのためすでに1990年代から上昇傾向だった土地価格がさらに上昇し、08年のリーマンショックをものとせず、現在もなお留まることを知らない価格上昇を続けているのです。しかし、従来の香港市民(平均月収1万香港ドル≒約10万円)にとっては、この過激なバブル景気で、ただでさえ実現困難なマイホームの夢がさらに夢の向こうへと遠ざかっていっているのが現状なのです。

 『ドリーム・ホーム』は、まさにそんな世相を反映したかのような、恐るべき大量殺人犯罪映画です。

  土地高騰が始まった90年代に、多感な時期を過ごした銀行員の美女チェン(ジョシー・ホー)。遠慮容赦ない地上げ攻勢により、幼なじみや生まれ育ってきた街の風景を奪われてきた彼女は、いつしか海の見える家に住みたいという願望を抱き、そのために大学もやめ、ダブルワークで昼夜問わずに必死で働きます。そして 難病持ちの父親や不倫相手に振り回されつつも、お金のためなら銀行の顧客データも横流しする銭ゲバぶりを見せ、必死になって住宅費用を稼ごうとします。

 そんな彼女の祈願がかない、ついに見つけたのがビクトリア・ハーバーを一望できる超高級マンション・ビクトリアNo.1。夢だった理想の家を得るため、病の父をも犠牲にする勢いで購入資金にめどを付けたのだけど、いざ購入の段になり、バブルの猛威は彼女の手から”夢の家”を遠ざけていくのです。

 狂信的なまでに追い求めた”夢”と、非情に立ちはだかる”現実”のはざまで徐々に正気を失っていくチェン。そんな彼女が”ドリーム・ホーム”を手に入れるべくとった行動とは、語るも恐ろしい血まみれの凶行だったのです!!

 ストーリーだけを追うと、本作はここ20年間の香港史をとらえ、移りゆく時代の中で翻弄されたヒロインの心情を描いたメランコリックな作品のようにも思えます。しかし、そんなものは本作において大義名分。美女による大量殺人ショーこそがメインなのです。

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  香港映画といえば、カンフーやコメディー、あるいはジョン・ウー登場以降に顕著となった「ハードボイルド」系作品がお家芸のように言われますが、名優アンソニー・ウォンがバリバリ殺しまくって名を上げた『八仙飯店之人肉饅頭』(93年)を代表とするゴア系の悪趣味ジャンルでも、他の追随を許さない活躍ぶりを 見せております。”かつて日本軍が行った蛮行を告発する”というテーマで、日本でもその手のイベントで上映されまくった『黒い太陽731』(88年)など、グロ描写満載のエクスプロイテーション映画としての評価をされる作品も少なくなく、その下世話さも含め、一部で熱狂的な支持を得ております。近年は韓国の『チェイサー』(08年)『悪魔を見た』(10年)や、当コラムでも紹介した日本の『冷たい熱帯魚』(10年)など、他国の作品に押され気味なところもあったのですが、さすがは本家。この『ドリーム・ホーム』で、久々にデカイ花火を打ち上げてくれました。

  なにせ冒頭から結束バンドでの首絞めに始まり(しかも絞められた被害者がバンドを解こうとカッターで自分の頸動脈を切りまくり、痛さ三倍増し!!)、流産寸前でもだえ苦しむ妊婦に布団圧縮袋をかぶせ、掃除機で窒息させたりと、きつい殺人描写で映画は幕を開けます。その後もチェンの攻撃は留まるところを知らず、ナイフで腹をえぐられたチャラ男が内臓丸出しでもだえ苦しんだり、SEXご堪能中のカップルを襲撃して、男のチンコを切断するわ、女を串刺しにするわ、おまえはどこのジェイソンかと問いたくなる、イテテな殺人描写の連続です。

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 こういったマンション空間での惨殺劇というと、今や巨匠の風格も出たような気がしないでもない三池崇史監督の大カルト傑作『殺し屋1』(01年)を思い出しますが、今回チェン役を演じたジェシー・ホーはその三池監督の 『DEAD OR ALIVE FINAL』(02年)にも出演経験があり、本作ではプロデューサーも兼任していることを考えると、本作は香港ゴアムービーと『殺し屋1』や『オーディション』(00年)といったアーリー三池イズムが、幸せな邂逅を果たした作品と言っていいかもしれません。適当な絡め方ですが、なんとなく符号は合っているかと。

 阿鼻叫喚の地獄絵図と化したマンションで、彼女が凶行の果てにたどり着いた先はいったい……? ラストもラストで、衝撃的な結末を迎えます。大胆にして残虐なこの犯罪に待つ展開がいかにあるかは、ぜひとも劇場でご覧になっていただきたいです。

  酸鼻を極める殺人の数々と、その裏で暗い影を落とす現代香港の社会情勢。そんな社会に翻弄されるヒロインの姿を叙情性も交えつつ、スプラッター好きも大満足なゴアシーン満載で描き切った『ドリーム・ホーム』。まさに香港エクスプロイテーション映画の王道を堂々と歩む本作は、血と暴力とセックスに飢えた読者の皆さんが帰すべきところの”ドリーム・ホーム”。オススメの一本です。

『ドリーム・ホーム』公式サイト
監督:パン・ホーチョン
出演:ジョシー・ホー、イーソン・チャン、デレク・ツァン、ローレンス・チョウ、ジュノ・マック、ミシェル・イェ他
製作年:2010年
劇場:5月28日(土)よりシアターN渋谷、名古屋シネマスコーレほか全国順次ロードショー!!ー
配給:ユナイテッドエンタテインメント
※R18+

『殺し屋1 特別プレミアム版』

 
原作ではチンコがキュンってなりました。

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『DEAD OR ALIVE FINAL』

 
生き残れるか!

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