メンズサイゾー事件簿

愛人に「オレが貢いでやったカネを返せ」と迫った会社重役が敗訴(1981年)

aijin.jpg※イメージ画像 photo by mrhayata from flickr

 愛人に渡した金銭は、法的にどのように解釈されるか。そんな疑問にひとつの答えを提示する判決が30年ほど前に出されている。

 1976(昭和51)年頃のこと、大阪のある老舗食品メーカーの専務取締役の男(49)が、ミナミでひとりのホステス(35)に出会った。「幼い頃に両親が離婚し、19歳から水商売や芸者などの仕事を転々として……」という彼女の境遇に同情した専務氏は何かと彼女に目をかけるようになり、ほどなく男女の関係となった。

 そして「自分のお店を持ちたい」という彼女の願いを聞き入れ、専務氏は自分の所有していた不動産を担保にして1億3500万円を用意すると、ミナミの繁華街に床面積70坪の高級クラブをオープン。彼女をママにした。

 店は盛況で、一時は一日で100万円前後の売り上げがあったという。専務氏もしばしば店に現われ、閉店後に2人して彼女のアパートで過ごすこともしばしばだったらしい。店も2人の仲も、当初は順調であった。

 ところが、開店から2年程経った頃から彼女が若いホストと懇意になり、専務氏との間に距離を置くようになっていった。専務氏が彼女に会いに行っても、素っ気なくあしらわれることもあったらしい。そんな状況で、2人の関係は徐々に冷えていく。

 彼女にはもう自分への気がないと感じるようになっていた専務氏は、「店の開店資金の一部を返せ」と迫ったものの、彼女はこれを拒否。そこで再度「8000万円だけでも返せ」「返せません」というやり取りが続いたものの、押し問答が続くばかり。そこでついに1980年6月に、専務氏は彼女に対して1億3500万円の返還を要求する民事訴訟を,大阪地裁に起こしたというわけである。

 専務氏の主張としては、彼女に渡した1億3500万円は、クラブの開業資金として貸したものである。したがって、借金であるから返済を要求するのは当然である、ということであった。

 裁判は7回の口頭弁論を重ねた上で結審。同年11月17日に出された判決は、「原告の請求を棄却する」。すなわち、専務氏の完全敗訴となったわけである。

 大阪地裁は、専務氏の「彼女に渡したのは借金」という主張をことごとく否定。「2人は互いに了解のうえで愛人関係にあった。そして、彼女に高額の借金をしたという意識はまったくなく、受け取った現金は、その関係を維持するために贈与されたものと考えられる。したがって、貸金とは認められない」という旨の判断をした。

 すなわち、2人は肉体関係をもってする仲であり、借用書も念書もなく、貸し借りの意思疎通のない以上、渡された現金はいわゆる「お手当て」に該当すると、裁判所は判断したということだ。敗訴した専務は、泣く泣く担保にしていた土地や建物を手放して返済。しかも、仕事も手につかなくなったのか、やがて会社も辞めてしまった。

 同様の判決はほかにもあり、なかには借用書があるにもかかわらず、「お手当て」と判断されて原告敗訴というケースもある。

 要するに、愛人に貢いだ金品を後になって「返せ」と主張しても、まず認められないというケースがいくつもあるということ。もっとも、法律的に議論する以前に、そういう情けない行為そのものが、男として腑甲斐ない、器の小さな人間と見られてしまうことであろうか。
(文=橋本玉泉)

 

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