AVライター・雨宮まみの【漫画評】第5回

人の心を真っ黒に塗りつぶす最凶の鬱マンガ『闇金ウシジマくん』に見るカネと欲の色地獄!

ushijima.jpg『闇金ウシジマくん』15巻(著:真鍋昌平/小学館)

『闇金ウシジマくん』に対して、私は「最近売れてる面白いマンガ」というイメージを持っていた。きっと『ナニワ金融道』(著:青木雄二/講談社)や『賭博黙示録カイジ』(著:福本伸行/講談社)のように、カネと欲の世界を見せつけてくれる面白いマンガなんだろうな~、とのんきに構えていた。ところが、1巻、2巻……と読み進めるうちに、それがものすごい誤解であることがわかってきた。現在最新刊である15巻を読み終える頃には、ドーンと気分が沈んで何をする気力も起こらず、一日寝たきりで過ごしたほどだ。

 このコラムでは基本的に私が「面白い!」と思ったマンガを紹介することにしている。『闇金ウシジマくん』は、確かにすごく「面白い」。自信を持っておすすめできる。だけど、今回ばかりは少し注意書きをつけさせていただきたい。鬱気味の人は読むの禁止! マンガに影響を受けやすい人も、暗い気分のときは読むのを避けたほうがいい。それぐらい『闇金ウシジマくん』の、人の心を真っ黒に塗りつぶすような力は強い。弱い人の心ならギュッと握り潰せるぐらいの圧力は持っていると思う。「闇金」の「闇」が違う意味に思えてきてしまうほどキツいのだ。


『闇金ウシジマくん』は、『ナニワ金融道』や『賭博黙示録カイジ』のような、「自分とは関係ないわ~こんな大変なこと」という、他人事の距離感で読めない金銭感覚のリアリティがある。だから『ナニワ金融道』や『賭博黙示録カイジ』のような、他人事のエンターテイメントになり得ない。最初に出てくるパチンコ好きの主婦の借りる金額は「3万円」だ。なのに借用書の額面は「5万円」。あらかじめ金利1万5千円と手数料5千円が差し引かれ、手取り3万円、 借金5万円という状態になっている。

 3万。5万。「3万しか借りてないのに5万?」と理不尽に感じることはあっても、5万。払えない金額じゃない。絶対に自分は借りないと言い切れないのが怖い。

『闇金ウシジマくん』に登場するのは、ブッ壊れた人ばかりではない。どこか壊れているのかもしれないが、少し同僚に見栄を張りたいがためにキャッシング地獄にハマって結局風俗行きになるOLや、最初はちょっとした行き違いで「立て替えるだけ」のつもりで借りて、どんどん追い込まれていくサラリーマン、タクシー運転手……。
 
 こういう「自分の周りでも(もしくは自分の身にも)起こらないとは限らない」負の連鎖も怖いが、読み応えのあるのは5巻から始まる「真剣に風俗やって稼ぎまくってる風俗嬢」たちのカネの話。3千万近い貯金のあるナンバーワン風俗嬢・瑞樹が運転手に「フツー売り上げいい娘はわがまま言うし、もっとエバってるのに瑞樹さんはエラいなぁ」と言われ、自宅で弁当を貪り食いながら心の中で「しょせん男が上に立ってる社会だ。女が上に立とうとすると叩かれるから謙虚にしてンだよ!」と吐くシーンは、さりげなく描かれているけれど凄い。そこから展開していくナンバーツー風俗嬢と、新人風俗嬢の三人の金銭問題に絡んだドラマも、一見ありがちな話のようなのにグイグイ引き込まれる力がある。

 最新刊15巻の、42歳無職でテレクラ売春してる母親と、その母から逃げ出しても援交で金を稼ぐしかない娘の話も、そこまで描くか!? とドン引きするような地獄の底まで描いてある。15巻はちょうど一冊でひとつのストーリーがまとまっているので、試しに一冊だけ読んでみたい方にはこれをおすすめするけど……キツいよ。覚悟して下さいね。

 金を借りる男たちも、のっぴきならない事情がある場合もあるが、ただ「ほんの少しイイ思いしたいだけ」っていうかわいらしい性欲の代償が、すさまじくふくれあがった額の借金になって返ってきたりして、もう、とことん容赦ない。最後に救いのある話もあるが、絶望で終わる話もある。

 いちばん怖いのは、読み終えた後に「こんなヒドイ目に遭わないように地道に生きよう」とは思えず、「私も、千円で売春とかしようかな……」となぜか負の方向にしかものごとが考えられなくなるところだ。『闇金ウシジマくん』は、人の心の「ドン底まで堕ちてみたい願望」を刺激してくるところがある。だから恐ろしく、凄い作品なのだと思う。

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