もしも風俗店で知り合いに会ってしまったら…


 そうと決まれば話は早かった。彼女はすぐに通常のサービスをしてきた。しかしコチラの方は、旦那さんの顔も知っているので罪悪感が芽生えないといったらウソになる。だからなのか、全身リップやフェラをされたが勃起しない。

 「気持ちよくないですか?」と不安げに聞いてくる彼女。「いや、取材なんてそんなものです。感じていたら写真、撮れないですから」と、ごまかした。実際のところ、取材中は勃たせる余裕がないほど慌ただしかったりもするが…。

 彼女は、こういった取材を受けること自体が初めてだった。「在籍しているものの、あまり指名がなくて稼げないんです。だから、取材手当をいただけると聞いたので…」と、受けたそうだ。風俗で働き始めたのも、「お金が必要で…」とのことだった。

 もちろん、旦那さんには風俗店勤務は内緒だし、「隣の市のスーパーマーケットでパートをしている」ことになっているという。さすがに地元での勤務はマズイので、橋を渡って隣の県で風俗嬢になったワケだ。

 その後、取材は無事終了した。「口外しないこと」は、言葉に出さずともふたりの暗黙の了解となった。後日、マンションの廊下ですれ違ったが、今まで通り会釈した。彼女の方は、何もなかったかのように落ち着いて見えたが、コチラは、彼女の服の下に隠された、少し崩れたボディラインが脳裏に浮かんできた。

 ちなみに、当然のことながら自分が執筆した記事はチェックするのだが、このときばかりは掲載後1度も見ていない。それは、やはり生々しすぎるからだ。

 なお、その後、1度だけ彼女と会話をしたことがある。それは取材から1年が経過したころだった。廊下ですれ違った時に「あの店、辞めました」と独り言のようにつぶやかれたのだ。すれ違いざまだったので筆者は何も言い返せなかった。

 彼女が言った「あの店、辞めました」は、風俗業界そのものから離れたのか、または他店へ移籍したという意味なのか。それを知るには、再び偶然が起こるのを待つしかない。
(文=子門仁)

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