日本最初のアダルト用語辞典『日本性語大辞典』発刊されるも即刻発禁(昭和3年)

0324seigojiten_fla.jpg※画像:『日本性語大辞典』

 昭和初期から太平洋戦争開戦までの実に多くの性関連文化が誕生し、当局によって次々に弾圧された。昭和3年から発行が開始された『警察出版報』(内務省)には検閲によって発禁処分になった出版物がリストアップされているが、そのなかの性に関係したもののカテゴリーである「風俗」の項を眺めてみると、性を取り扱ったあらゆる著作や記述、絵画、写真、その他いろいろな印刷物や制作物が取り締まりの対象となっている。その状況をながめてみると、通俗的な官能読み物といった類ばかりでなく、学術的な著述や専門書、たとえばヴァン・弟・ヴェルデの名著『完全なる夫婦』といったものまで摘発されている。

 そうした最中、昭和3年8月に性に関する用語を集めて解説した辞典、『日本性語大辞典』が刊行された。発行元は文芸資料研究会編集部。編著者は桃源堂主人といい、本名を山本定という京都で薬種商を営んでいた人物で、本業の傍らに文献を調べたものをまとめ上げた。性器や技巧、その他の性に関連したさまざまな単語や表現について解説を加えたもので、項目は1000以上にも及ぶ力作である。

 この手の著作としては宮武外骨の『猥褻廃語辞彙』があるが、広く性についての用語を集めたものは見当たらない。まさに日本で始めての性用語辞典であり、後に刊行される中野栄三の『性風俗辞典』や『陰名語彙』、大場正史の『世界性語事典』などの先駆というべきものである。

 さてその内容だが、専門書として図書館に並んでいてもまったく違和感のないほどの出来栄えである。性器の名称や性に関連した語句などは一般的な国語辞典や百科事典をさがせばいくらでも載っている。それを、単に一冊にまとめただけのものである。

 にもかかわらず、この『日本性語大辞典』は発行からほどなく発禁処分にされてしまう。学術専門書まで「ワイセツ」と決めつける当局であるから、タイトルに「性語」などとつけられている本などは、それだけで気に食わなかったのかもしれない。

 このように、「近代化」「健全化」を目指して取り締まりを強化することによって、かえって性についての文化や教育を後退させ、性の不健全化を助長したことは日本近代の歴史を見ても明らかである。そして、現代においてもなお、当局や一部の政治家、権威的な学者や評論家などは、性に対する規制と取り締まりの強化を叫んでいるようだ。何とも時代錯誤的な光景にしか見えないのは、筆者だけであろうか。
(文=橋本玉泉)

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