“空気が読める”からこそヤリマンになってしまう、ネガティブ女子の妙

1113changeyariman_fla.jpg※イメージ画像 photo by ginabiallo.com from flickr

 ここ数年、企業でも仲間内でも「コミュニケーション能力」が重要視されている。経団連が毎年発表している「新卒採用に関するアンケート調査」の「選考時に重視する要素」では、9年連続で「コミュニケーション能力」が1位を獲得していることからも、いかに世の中が「コミュ力」の高い人材を求めているかがわかる。

 企業でさえこの調子なのだから、仲間内でも当然「コミュ力」は大事になってくる。「コミュ力」とは言い換えれば「空気の読める人」ということ。さらには、2007年にユーキャンの新語・流行語大賞にエントリーされた「KY(空気読めない)」の流行で、場の空気が読めない人には不遇の時代が続いている。

 この「KY」という言葉の流行により、気心の知れた友人関係であっても対人恐怖症に似た恐れを抱いている人が多くなってきたように感じる。そもそも一昔前の友人関係なんてものは、なんとなくよく一緒にいるだけで友達であったし、「話したことないけど友達の友達なら俺も友達だもんね、でへへ」という“人類みな兄弟”を地で行き、たとえ空気が読めなくても「なーんか変なヤツ!」と周りから言われるだけの、まことに牧歌的なものであった。それがいつしか、「これからもずっと友達でいようね」という暑苦しいほどの“ズッ友宣言”から舌の根の乾かぬうちに、LINEの既読無視だけで「はい、友達終了ー!」と他人事のようなあっさりした縁切りが横行するようになった。この、山の天気も泣いて逃げ出すほどの感情の変化に恐怖したのは、逆に「空気の読める」人だった。

 KY行動が友達を少なくすると知った彼女たちは、得意の「場の空気を読む」能力のおかげで「なにをしたら他人から嫌われるか」ということに敏感だ。なにかを頼まれたら快く引き受ける、誰もやりたがらないことを率先してやる。ビジネスにおいては頼りになると思われがちな彼女たちの行動は、友人関係ともなると「都合のいい人」になりがちだ。

 「せっかく誘ってくれたのに断るのは忍びないというか。ノリ悪い、みたいな感じで距離ができるのもイヤというか」と語るのは某旅行代理店で働く友恵さん(27歳・仮名)。同僚・先輩・上司関係なく、ランチだろうが飲み会だろうがセックスだろうが、誘いには乗ってきたという。

「旅行代理店で働くのが昔からの夢だったんですよ。難関を突破して入った会社なので、些細なミスで辞めるハメにならないように、同僚や上司の顔色を伺っては誰もやらない雑用も率先して笑ってこなしてたら…いつのまにかこんなになっちゃいました(笑)」

 そう力なく笑う内藤さんが空気を読みすぎてヤリマン化したきっかけは、同僚社員と一線を越えてたことだった。

「飲み会帰りのその場のノリってやつですよ。苦楽を共にしてきた同期だったし、この先も一緒に仕事する人だから、ここで断って気まずくなったらイヤだな~って。まぁ、それが間違いっちゃ間違いだったんですけど。そのあと先輩社員からも誘われたりし始めて…。同僚からの誘いは受けて、先輩からのは受けないとかできないじゃないですか! なんだかんだであとに引けなくなって、今のところ支店内では3人が穴兄弟ですね(笑)。気まずくなるのがイヤだからOKしてたのに、穴兄弟増えちゃってますます気まずい、みたいな(笑)」

 ヤリマンというとどうしても派手めでイケイケな女性を想像しがちだが、これほどまで地味でネガティブなヤリマンとかつて出会ったことがあっただろうか。その根底にある「気まずいから」「嫌われたくないから」という自信のなさに、なんとも言えない悲しさが残る。
(文=三坂稲史)

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