「ファンがいなくなったら…引退するしかない!」モー娘。人気“V字回復”最大の立役者・道重さゆみ 絶対的処女性とファンとの強固な絆

michisayu0820main.jpg※イメージ画像:『道重さゆみ写真集「美ルフィーユ」』ワニブックス

 もはや一過性のブームではなく、定番の一音楽ジャンルになったと言っても過言ではない女性グループアイドル。そんな中、AKB48、ももいろクローバーZなど後続のブレイク組に負けじと存在感を示すのが、15年続く老舗アイドルグループ・モーニング娘。である。

 「LOVEマシーン」「恋愛レボリューション21」(共にZETIMA)など爆発的なヒットを飛ばしたころからはや10数年。一時期はシングル売上も全盛時の数十分の一に過ぎぬ3万枚近くまで低迷。ローティーンの新規メンバーを次々加入させるも、長年の支持層である固定のマニア以外にはあまり注目されぬ状況にあった。そんな停滞感を一気に打ち破り、久しぶりの10万枚ヒット達成やオリコン連続1位獲得などの、V字回復の快進撃が始まったのは、現在グループを束ねる道重さゆみのリーダー就任と軌を一にする。

 人見知りで周りと打ち解けられず「ダンゴ虫しか友達がいなかった」という少女・道重さゆみは、山口県に生まれ育った。中学生の時、当時まだナンバー1アイドルグループだったモーニング娘。に、第6期メンバーとして加入。しかしそのアイドル人生は決して順風満帆とは言い難いものだった。

 彼女が加入した当時のモーニング娘。は、爆発的なブームが過ぎ、長らく続く停滞期の入り口にあった。エースだった後藤真希や、初代リーダー中澤裕子は、既にモー娘。を卒業。ミリオンヒット連発から一気に、売り上げはダウンし、失速しているのが傍目にも明らかな時期だった。

 さらに同時加入したのは、元々ソロシンガーとしてヒット曲のあった藤本美貴、デビュー曲「シャボン玉」(ZETIMA)で、いきなり歌い出しのソロパートを担当するなど猛プッシュを受けるほど存在感のあった田中れいな、そしてキュートなルックスで人気の高かった亀井絵里の3名。元々のメンバー含め十数人いる中で、道重の存在感は薄く、人気はずっと下位であった。

 そんな彼女が世間の注目を浴びるようになったのは、モー娘。加入から5年以上もの時を経て、『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ系)などのバラエティ番組出演によるものであった。「自分が一番可愛い」と言い張るナルシスティックなぶりっこキャラは、一部に反感を買い、「週刊文春」(文藝春秋)で行なわれた「女が嫌いな女ランキング」の10位以内に入るほどであったが、長年コンサートや地方ラジオ番組などで培ってきた軽妙なトーク術も加わり、一気に人気タレントとして飛躍することとなる。これは、生来の頭の良さだけでなく、前日から睡眠時間を削り何度もシミュレーションを重ねるという地道な努力の賜物であった。

 モーニング娘。本体は往時に比べてテレビ出演は激減。コンサートで見せる、歌とダンスの抜群のパフォーマンスは、一部のアイドルファンのみが知る状態だった。気がつけば、世間的な知名度は、グループ内で傑出する存在となっていった。

 そんな彼女に、初めてスキャンダルが持ち上がったのは一昨年末のことであった。当時「週刊文春」が報道したところによれば、携帯電話向け動画サイト「BeeTV」で配信されたドラマ『彼は、妹の恋人』の撮影をドタキャンしたというのである。携帯向けムービーとはいえ、道重は主演・石原さとみに準ずる大事な役どころ。ところが彼女は、設定にあるキスシーンを受け入れられないということで、現場で駄々をこね、撮影を中断させてしまったという。シーンは当初のプランとは異なるやり方で何とか撮影をすましたものの、当然道重のキスが映されることはなかった。

 処女であることを公言しキスも未経験だという道重は、疑似行為とは言え受け入れがたかったのだろう。そして「(ラブシーンを演じることで)ファンがいなくなったら芸能界で仕事ができない。引退するしかない」とこぼしていたという。そんな彼女に対し、多くの人間は「仕事をキャンセルするなんてワガママ」「誰もお前のキスシーンなんて気にしない」など、心無いバッシングを浴びせた。

 また所属事務所ともこの件で揉めたことは想像に難くなく、バラエティタレントとしてプッシュされていたのが一気に失速し、テレビ出演は激減することとなった。後にラジオ番組で「当時は周りが全員敵に見えた」と告白するほど精神的に追い詰められていたようである。またこれ以後彼女は舞台も含め演技の仕事は拒否しており、長年共演している明石家さんまのラジオ番組『MBSヤングタウン土曜日』では「道重の前では芝居の話はNGやから」というのが、ある種のお約束の笑いになっているほどだ。

 しかし世間一般でのマイナス評価とは裏腹に、この騒動は、アイドルファンの間では彼女の神話性を高めることとなった。叶わぬとわかっていながらも、アイドルと疑似恋愛を求めるのがファンの習性。そして誰にも汚されぬ処女性こそが、アイドルの神秘性の源泉と言える。道重が仕事現場でひんしゅくを買おうとも頑なにラブシーンを拒否し、ファンとの絆を守ったことは、結果的に彼女のアイドルとしての存在感を一層強固なものとしたのである。

 昨年5月8代目リーダーに就任すると、彼女の評価はさらに高まっていく。当初ナルシスティックに自分だけが前に出るのではないかとの懸念があったが、全くそのようなことはなかった。年下の後輩たちを優しく時に厳しくサポートする母性とリーダーシップを身に着けた彼女は、単に可愛らしいだけでなく知的な美しさで、さらなる輝きを増しつつある。

 今秋に発売されるニューアルバムには、彼女が加入後初のナンバーワンヒットであり、最も思い入れの強い歌であると公言している「歩いてる」(ZETIMA)のソロで歌われるニューバージョンの収録が決定している。

 年齢的にも遠くない彼女の卒業は遠い未来の事ではない。卒業ライブで歌われるに違いない「歩いてる」を想像しただけで、涙腺が潤んでしまうファンも多いだろう。今後も数多のアイドルたちが登場しようとも、彼女を超える存在が現れるかはクエスチョンマークがつく。「結局道重」なのだ。
(文=ピーピング・トム・ソーヤ)

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