フィリピーナのつぶやき 第8回

フィリピンで計画的に性を楽しむ、賢い怠け者とは

namakemono0613.jpg※イメージ画像 photo by Raphael Olivier from flickr

「タマッドゥ」(怠け者)
「タマッドゥ・モ」(あんたは怠け者だ!)

 よくピーナ(女)から聞く言葉だ。ピノイ(男)からは、あまり聞かない。女のほうが働き者だからだ。専業主婦も少ないんじゃないかな。何かしら仕事をして収入を得ているピーナが多い。それでも暇な時間というか、時間が余ったときには、男女ともに(タマッドゥ)なのが、フィリピン人であるが。

 「タマッドゥ」と言われている日本人X氏がいる。小さなレストランを経営して、ピーナである奥さんも一緒に働いている。60才過ぎで、奥さんも60才近い。子供は独立して別に所帯を構えている。レストランも従業員が6人いて、ぼちぼち繁盛している。もう20年以上もフィリピン暮らしで、別に怠け者ではないのであるが、奥さんからも近所の住人からも(タマドゥ)な日本人で通っている。

 日本の調理師免状を持っているX氏は、プロの料理人である。レストランをオープンしたときはまだ若く、それなりに苦労をしたはずだ。二人の子供を育て独立させ、従業員を5人も雇って個人経営しているのだから、いたって働き者のはずである。

 X氏言うところによると、(タマッドゥ)にしていたほうが便利なんだとのこと。それを聞いた頃は、俺はまだフィリピン在住2年目ぐらいの駆け出しで、そんなものかな…程度に思っていた。

 親しくなって数年後、X氏の休みの日に誘われて車で出かけた。二軒ほど、知り合いの日本人宅によって、お茶を飲み雑談をした帰り際に、もう一軒付き合えという。夕方になっていたが、たまには日本人と情報交換もいいかなと、そのまま同行した。

 ところが行き着いた先は、あまり日本人が寄り付きそうにない、ローカルな町並みに建つアパートの一室。「誰ですか?」と聞いても、X氏はニヤニヤしているだけ。決してボロではなく立派でもない、ごく普通のアパートのドアを開けた中に立っていたのは、30才前後のすらりとした美形のピーナ。X氏は、

「俺のこれっ…」

 と、右手小指を立ててニヤッとした。なんと、妾というか愛人というか、X氏お囲いのピーナだった。

 その頃は、もう怠け者で通っていたので、少なからず驚いた。仕事では調理人に厳しく言いつけ、従業員を指導し、奥さんに任せて家に帰って寝てるか、友人と麻雀。朝の仕入れと夜の清算だけを、自分でやっていただけだ。

 だが、まぁレストランも順調で楽になり、愛人の一人ぐらいいてもいいだろうなと、男の立場として単純に考えた。だがX氏の考えは、それほど単純ではなかった。怠け者にしているのは、この愛人のためだったのだ。計画的怠け者。性を楽しむ、賢い怠け者だったのである。

 この愛人、もともとX氏の経営するレストランのウエイトレスだったらしい。というか、現在も書類上は従業員になっていて、給料を支払っている。経理を奥さんにも会計士にも任せずに、自分でやっているのは、その為である。

「俺に何かあったら、こいつのこと頼むわ」

 と言われても…経理のことはこの会計士に頼んでくれと名刺を渡されても…。

 まいった。怠け者の演技の裏で、周到な計画。60才を過ぎて、海外でもしものことがあったらと考えたらしいが…。信じられて託されたのは、うれしいような…怖いような…。日本だったら何とかなるが…フィリピンではなぁ…というが、どこでも同じだろう。

 愛人を囲って、気を使って家族を守り、自分の尊厳をも守ろうとする。どこにいても疲れる。その時々で未練を持たずに、家族にばれずに遊ぶ方法を考えたほうがいいと思うが…。

 毎日毎日(タマッドゥ)を装い、家族や仕事に気を使い、愛人を喜ばせなければならない。これは…大変だ。

 俺がそう思っていることを察知したのか、

「いいんだよ。」と言う。

「何がですか?」

「はははっ、おまんこだよ。」

 60才過ぎて開花したか。いるんだけどね、そういう日本人。俺もそうならないとは限らない。

「女房とは違うんだよな。」

 当たり前だ。毎日顔を合わせている顔と合わせない顔では新鮮さが違う。それは分かるが、よくボロを出さないものだ。いや、ボロを出さないことに気を使って演技し、上手く収めることに喜びを見出してるのかもしれない。

「やっぱり、若いのはいいな。」

 帰りの車の中で、X氏はニヤニヤしながら話し出した。

 愛人のピーナは、X氏の身体の扱いが上手いんだという。必ず一緒にシャワーをし、頭から足先まで洗ってくれる。愛人の裸身を眺めながら、身を任せていると、若い時のように、ムクムクと下半身の一物が起き上がってくるんだ、と笑う。

「フェラチオが上手いんだ。ゆっくりとやってくれて、自分ではあれこれ要求してこないんだなぁ。あそこも、狭くて固いような気がするな。女房に飽きたわけではないが、歳だしなぁ。あまり、その気になってこないから助かってるが。まあ、俺も歳のせいにして、夜のほうも怠けてるけど」…だって。

 そりゃぁ奥さんより若いし一味違うであろうが、よく10年近くもこんな生活をしていたものだ。(タマッドゥ)を装い、愛人に架空の給料を渡して(タマッドゥ)な生活をさせ、せっせとその愛人宅に通って励む。

 小さな子供が、母親にわからないように拾った子猫に餌を与えて、物置の裏で飼っているみたいだ。ドキドキ・ワクワクしながら、緊張した(タマッドゥ)を楽しんでいる。怠け者は、心からリラックスしてるものだが…。
(文=ことぶき太郎)

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