【テリー・天野のメンズ的映画評 第11回】

ゾンビ映画新時代!! 噂の”泣ける”ゾンビ物が遂に日本上陸!!

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 いま、ゾンビ映画が熱い!!

 ……と勢いにまかせて言ってしまいましたが、かってジョージ・A・ロメロが『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(68年)や『ゾンビ』(78年)などでジャンルを確立した、いわゆる”リビングデッド”物は、ホラー映画の流れを一変させる衝撃的な事件でした。

 それまでのホラー映画においてゾンビは、単なる「添え物」でしかありませんでした。しかし、ロメロは彼らに「人間を襲い、その肉を食う」「襲われた者もゾンビになる」という設計を与えることで、今のようなメインストリームのモンスターへと大変身させたのです。そして、そんなゾンビによって人類が存亡の危機に晒される終末イメージは、ベトナム戦争の敗戦によって虚無感の漂うアメリカを中心に、瞬く間に世界中を席巻することになりました。こうしたゾンビ映画は80年代に数多くのフォロワーを生み、その中から『死霊のはらわた』(81年)のサム・ライミや『ブレインデッド』(92年)のピーター・ジャクソンといった、のちのハリウッドを背負って立つ人材をも産み出す一大ムーブメントを形成するのです。

 そんなゾンビホラー映画の流れも、90年代に入るとやや沈滞化していきます。理由は『スクリーム』(96年)のようなメタ系ホラーや『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(99年)のような低予算フェイク・ドキュメンタリー系ホラーの台頭。そして社会情勢の変化により、映画のレイティングがいっそう厳しくなったことが挙げられるでしょう。

 しかし、その流れが再び大きく変わり、ゾンビがまたホラーの舞台で脚光を浴びることにことになります。それは『トレインスポッティング』(06年)で世界中を熱狂させ、『スラムドッグ$ミリオネア』(08年)でオスカーの栄冠に輝いたダニー・ボイル監督の『28日後…』(02年)の大ヒットでした。

 同作では正式にゾンビと明言されてはないものの、明らかにロメロ版ゾンビの影響を強く受けたと思える設定が散見されます。病原菌感染者が蔓延し、荒廃した近未来のロンドンを描いた本作は熱狂的な支持を得て、再びゾンビに耳目を向けさせます。

 さらに02年には、日本のカプコンの大ヒットゲームを原作とした『バイオハザード』が公開。こちらの方はゲーム原作ということもあり、アクション的要素を全面に出した結果、4作目まで製作される程の大ヒットを記録しました。

 こうしてゾンビ映画が復権の動きを見せる中、04年には決定的な出来事が起こります。『300』(07年)や『ウォッチメン』(09年)、そして日本でも最新作『エンジェル ウォーズ』が公開間近のザック・スナイダーが、名作『ゾンビ』のリメイク『ドーン・オブ・ザ・デッド』(04年)を引っさげて監督デビューしたのです。

『ドーン…』の大ヒットは、ゾンビ映画復権をアピールするのに十分な存在でした。そして、この流れに乗るかの如く、ロメロも長い沈黙を破り、メジャースタジオの資本のもとで『ランド・オブ・ザ・デッド』(05年)を撮って健在ぶりをアピールします。その後もホームグラウンドであるピッツバーグを拠点に『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』(07年)、『サバイバル・オブ・ザ・デッド』(09年)と新作を発表し、ゾンビマニアを歓喜させました。

 こうした流れは留まるところを知らず、スペインではゾンビ+『ブレアウィッチ』系フェイクドキュメンタリーとも言える『REC/レック』(07年)が製作され、本作も好評を博して続編が製作されるなど、2000年代に入ってからは「ゾンビ映画の第二次黄金期」とも言える盛況を見せているのです。

 前置きが長くなりましたが、そんなゾンビムーブメントにあって、イギリスで製作された一本のゾンビ映画が話題を呼んでいます。それが今回の『コリン LOVE OF THE DEAD』です。

 制作費わずか45ポンド(日本円で6千円弱)という、『ブレアウィッチ~』もかくやという極超低予算で製作された作品ながら、この『コリン』はゾンビ映画史上屈指の傑作とうたわれ、世界中のゾンビ好きを感動の嵐に巻き込んでいます。

 低予算をアイデアでカバーするのは、優れた映画の常套とも言えるものですが、『コリン』もそうした映画として、面白い試みで作品が撮られています。それは「ゾンビ目線で語られるゾンビパニック」という着目点です。

 主人公の青年コリンは冒頭からゾンビに襲われ、自らもゾンビ化するところから物語が始まります。舞台は近未来のロンドン。突然謎のウィルスによって蘇った人間が、生きた人間を喰らおうと襲いかかり、また運良く逃げ延びた人たちも、ゾンビに噛まれていた場合は、ウィルスによって例外なくゾンビ化していきます。

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 もちろんゾンビだけに、それまであった感情とか知性とかはすべて失われ、本能のままに生きた人間を襲い、その肉を喰らおうとしますが、その一方で、かつて人間だったときの微かな記憶が脳内に残っており、無意識下で生前の行動を取ろうとするのです。

 このあたりのゾンビ設定はロメロ版ゾンビの定番であり、『ゾンビ』ではかつての生活圏内であったショッピングセンターに大量のゾンビがやってきたり、また『死霊のえじき』(85年)に登場する元軍人のゾンビ・バブは、過去の記憶に基づいて銃器を扱ったり敬礼のポーズを取ったりするなど、かって人間であった片鱗を見せつけます。それが「人の成れの果ての怪物」を演出する上での重要なアクセントとなっているのです。

 『コリン』はそれをじつにうまく活かして物語を展開させます。過去の微かな記憶を元に、自宅を飛び出してある場所へと向かおうとするコリン。その道中で彼は、いろんな出来事や人物に出会います。ゾンビとなった彼を、それでも家族として扱おうとする姉や、もはやかつての家族ではなく、あくまでゾンビとして忌避する家族。さらには無秩序となった街で、略奪を繰り返す暴徒たちや、生き延びるため、ゾンビを狩り、破壊していくゾンビハンターの一団……。

 通常のゾンビ映画であれば、彼らはその活躍を華々しく、時に絶望的に描かれる主役として登場したことでしょう。

 しかし、本作の主役はあくまで”ゾンビの”コリンなのです。彼の目を通して描かれるそれらの人物の行動は、逆にゾンビである彼にとっての驚異なのです。生き延びるためとはいえ、ゾンビたちを狩り、二度と蘇らないように徹底的に破壊し、ウィルスに感染した仲間たちは、ゾンビ化する前に虐殺してしまいます。その姿を見ていると、果たして恐ろしいのは本当にゾンビだけなのだろうか……という気持ちにさせられてしまうのです。

 そうしながらも、人間のいろんなエゴを見ながらとあるマンションに辿り着くコリン。果たしてそのマンションには何があるのか? そして、そこで起きた恐ろしくも悲しく、美しい出来事とは……。

 全編で低予算を逆手に取ったような、手持ちカメラの荒い画質で展開する本作ですが、安価な印象はそこには微塵も感じられません。それ以上に、クライマックスのゾンビ映画らしからぬ感動的なテイストは、ホラーに抵抗のある人も胸に詰まるものがあると思います。

 視点を変えたことによって、ゾンビが背負っている悲劇性を余すところなく描いた本作。感動の定義の多様さを知るうえでも、『コリン』はゾンビ映画ファンのみならず、多くの人に観てもらいたい作品です。

◆『コリン LOVE OF THE DEAD』http://www.colinmovie.jp/
製作・監督・脚本・撮影・編集:マーク・プライス
出演:アラステア・カートン/デイジー・エイトキンズ/リアンヌ・ペイメン
製作年:2008年
劇場:ヒューマントラストシネマ渋谷ほか
公開日:3月5日(土)
上映時間:97分
配給:エデン

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