目指せニセ業界人?

隠語を知ってちょっとだけ楽しい社会生活を!

61D3QM2K7XL._SS500_.jpg*イメージ画像:『隠語大辞典』 皓星社

 私は以前、大阪の回転寿司店でアルバイトをしていたことがあった。その店には店員同士だけで使う「隠語」があった。それは「○○さん」という日本人の名前(苗字)である。具体的な名前を書いてしまうと営業妨害になってしまうのでここではふせるが、「○○さん」とはゴキブリのことである。ゴキブリが出た時は「○○さんお願いします」と他の店員に声をかけて殺虫スプレーなどで駆除する。「ゴキブリ出たので退治します」とか言ったら、よほどタフガイな客以外は帰ってしまうし、もう二度と店には来てくれなくなるだろう。そのために生まれた隠語である。ちなみに「○○さん」は鈴木さんや佐藤さんのような多い苗字ではなく、綾小路さんや伊集院さんのような珍しすぎる苗字でもない。ヒントはジャイアンツのスタメンの選手である。

 このような隠語はさまざまな職種・職場に存在する。中には昼間からどうどうと「ポルノ!」「おいらん!」と色っぽい言葉を叫んでいる会社もある。証券会社である。証券会社はたくさんの会社の株を取引している。会社名の中には「日本精工」と「日本製鋼所」のような、間違えやすい企業がたくさん存在する。それらをまぎれずにはっきり伝えるため、「日本精工」は「精」の字の部首「米へん」から「コメコウ」、「日本製鋼所」は北海道炭礦汽船株式會社、アームストロング・ウイットウォース會社、ビッカース会社が共同出資して設立した会社なので、アームストロング社から取って「アーム」と呼ばれるようになった。そこから、次第にユーモアを含んだ会社名を表す隠語が作られていった。トランプや花札も作っている「任天堂」は「トランプ」、「日本軽金属」は「軽」の字から「オカル」など、証券業界の人にしか通じない隠語がたくさん作られた。他にも、インスタントラーメンの生みの親「日清食品」は「ラーメン」、「不二家」は商品名から「ミルキー」と呼ばれている。

 最初に紹介した「ポルノ」は、かつて「ロマンポルノ」が一世を風靡した映画会社の「日活」のことを指す。また、「おいらん」は江戸時代の遊郭街「吉原」から「吉原製油」のことを表す。ちなみに現在「吉原」は日本一のソープランド街である。現在は取引はインターネット経由で行われることが多いが、ベテラン証券マンはこれらの隠語を使っている。また、インターネット取引から生まれた隠語もある。代表的なのが「みかか」という言葉である。これは「NTT」を指す。パソコンのキーボードでは、ひらがなの「み」とアルファベットの「N」が同じキーに配置されている。また、「か」は「T」と同じキー。「NTT」とキーを打つと、ひらがなでは「みかか」と打っていることになり、そこから「NTT」のことを「みかか」と呼ぶようになった。

 また、私たちが身近に接している世界にも隠語はたくさんある。全国にチェーン展開しているスーパーマーケットの広報担当者によると、

「接客業には隠語は絶対にありますね。お客様を不快にさせないためにはどうしても必要なんです。例えば、『4番行ってきます』なんていうのは、『トイレに行ってきます』という意味で使っている店は多いですよ。スーパーマーケットは食べ物を売る店ですから、お刺身を切っている店員がトイレに行くとイメージが悪いですからね。あとは店内放送ですね。よくテレビで万引きGメンの番組をやっていますが、スーパーマーケットにとって万引きは本当に深刻な問題なんです。なので万引き常習者が来店したら、『○○市からお越しの○○様、サービスカウンターまでお越しください』といった店内アナウンスをします。○○市や○○様などは地域によって違いますが、店員は入社時にそれを教えられます。店員しか入らない事務所などにもポスターにしてそれらの店内放送の意味を貼っています」

 スーパーマーケットで毎日同じ名前が呼び出されていたら、万引き常習者がいると思って間違いないようだ。

「あと、これは隠語ではないのですが、伊勢丹や新宿の京王百貨店などでは、雨が降りだすとミュージカル映画の『雨に唄えば』の曲を流します。デパートって窓はほとんど無いし、雨が降りだしても店員は気付かないんです。そこで、BGMを変えることで雨が降りだしたことを知らせ、傘を倉庫から持ちだして陳列したり、ビニールの傘袋を入口に持っていったりします」

 BGMに気をつけていれば、デパートの中でも雨が降りだしたことが分かるのである。

 また、タクシー業界の隠語も知っていると楽しい。高速道路のことを「上(うえ)」一般道のことを「下(した)」と呼んだり、初乗り料金の範囲内のことを「ワンメーター」と呼んだりすることは有名だが、メーターが1万円を超えることを「万収(まんしゅう)」と呼ぶことはあまり知られていない。また、タクシーに乗ると無線室(センター)からの無線が入ってくるのが聞こえるが、ここにも隠語がある。例えば「工事」。これは警察の取り締まりや検問のことを指す。「○丁目交差点、工事ですのでお気をつけください」というように使う。ちなみに本当の道路工事は「本工事(ほんこうじ)」と言う。「感度7」は乗客とのトラブルを指す。運転手からセンターにトラブルを知らせる時も「酔っ払いが暴れてます」などと言えば火に油をそそぐことになるので「○丁目交差点、感度7です」と報告する。センターも無線で各タクシーに「感度7」を知らせ、空車の仲間が現場に集結ということになる。「感度9」は事故のこと。使い方は「感度7」と同じだ。

 さまざまな業界の隠語を知っていると、業界人同士の会話の意味がわかり、なにげなく耳に入った他人の会話がおもしろい情報になるかもしれない。
(文=近添真琴/POP UP

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隠語はエンターテイメントやね

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