セックス体験談|女と男の駆け引き#3

「寂しかったです」

 

 気づけば僕はそう言っていた。そう、僕は都さんが急にいなくなって寂しかったのだ。さっきまでキスをするくらい距離が縮まっていたのに、急に突き放されてしまって寂しかったのだ。寂しいから不安になって色々考えてしまっていたということを、僕は都さんを見て気がついた。

 暗闇の中に現れた微かな光はコンドームではなかった。その光は今やっと現れた。このまばゆい光に照らされた都さんの元へ僕は進んでいるのだ。まるで吸い込まれるように。

 

「友達と電話してただけだよ。仕事で悩んでいるらしくて聞いていただけ」

 

 都さん。都さん。あなたは僕を拒絶していたわけではないのですね。

 

「それより、どうしたのよ。正座して」

「あ、その、都さんが怒ったのかなと思って」

 

 怒ってないわよ、と都さんは爽やかに笑った。そして「もう遅いから寝るわよ」と電気を消し、ベッドの中へと入った。

 都さんが怒ってないということには安心したが、やっぱり一緒に寝てくれないのか、と悲しくなる。これは状況が元通りになっただけだった。僕はソファで、都さんはベッド。この距離感は都さんが帰って来たとて変わらない。

 このまま諦めて寝てしまおうか、と考える。だが、僕はゴミ箱の中にあったコンドームを思い出した。

 僕は都さんのベッドに近づく。都さんには決して触れない。僕はゆっくりとベッド脇にしゃがんで、囁く。

 

「都さん。一緒に寝たいです」

 

 都さんは無言のままだった。「怒ってない」と言った都さんの言葉を信じ、続ける。

 

「都さんがいなくなって、寂しかったです」

 

 変にカッコつけるのはもうやめよう。都さんをコントロールしようとするのもやめよう。都さんを自分の思い通りに動かそうとするのではなくて、恥ずかしくても、情けなくても、今の気持ちをちゃんと伝えるべきだ。

 

「だから、少しでもいいのでそばにいてほしいです」

 

 なぜなら都さんの前で、駆け引きは通用しないから。

 

「ちょっとだけ、一緒に寝ませんか?」

 

 ソファで一人で寝るのは悲しかった。ならせめて、体を寄せ合って寝たい。都さんの温もりを感じながら、寝たい。セックスできるかなんてどうでもいい。

 

 僕の言葉を聞いた都さんは何も言わずにベッドから起き上がった。そして僕の手を引き、畳まれていた毛布を手に取った。

 

「ベッドはダメだけど、床ならいいよ」

 

 床で寝ると体が痛くなってしまうのではないか、と一瞬思ったが、都さんと寝ることができるのであれば、そんなことどうでもよかった。

 

「はい。大丈夫です」

 

 床で一緒に寝て、その上に毛布をかけた。床はひんやりと冷たかったが、だからこそ都さんの体温をより身近に感じた。

 

「都さん」

 

 僕は横を向いて都さんを見る。

 

「ありがとうございます」

 

 こちらを見た都さんの顔はお世辞にも美人とは言えない。だが、その醸し出す雰囲気は今まで会ったどの女性よりも妖艶で、僕を狂わせる。

 

「キスしたいです」

 

 気づけば口からそう漏れていた。自分の意志で言ったのか、都さんに言わされたのかはわからない。

 都さんのぽってりとした唇がそっと重なる。寂しくて不安だった辛い状況の後の優しいご褒美に、僕は心から幸せを感じた。都さん、キスしてくれてありがとう。セックスできなかったけど、僕はこれでもう満足だった。

 唇が離れ、都さんが寝返り反対側を向いた。少し寂しさを覚えるが、唇に残る都さんの唇の感触があれば大丈夫だと思った。僕はそっと都さんの背中に手を添える。

 

「都さん、キスしてくれてありがとうございます」

 

 都さんとセックスをしたいと思ってここにきた。掴み所のない都さんを頑張ってセックスに誘導した。でも、ダメだった。駆け引きでは都さんの方が何枚も上手だった。セックスしたいと来たはずなのに、キスだけでもう感謝できてしまう。僕は負けたのだ。都さんの勝ちだ。

 

…負けた? 勝ち?

 

 僕は何を戦っていたのだろうか。都さんとの関係に勝ち負けなんて、ないはずなのに。

 そう思った瞬間、ふっと体が楽になった。僕は都さんと戦いに来たわけではない。触れたかった。それだけだ。セックスはできなかったけど、キスはできた、それでいい。それだけで満足だった。

 

「おやすみなさい」

 

 都さんの後頭部にそう告げて、僕は寝るために目を瞑った。今日はとても長い1日だった。

 

もう寝よう。

 

 そう思った瞬間、

 

「いいわよ」

 

 と都さんが唐突に言った。僕は反射的に目を開けて横を見る。都さんはこちらを向いていない。

 

「胸、触っていいわよ。触りたいでしょ?」

 

 ああ、もうダメだ。

 

「…はい。触りたいです」

 

 都さんからは逃れられない。

 

「ありがとうございます。失礼します」

 

 まるで仕事相手の取引先にするような丁寧な返事をして、僕は手を伸ばす。そして後ろから、都さんの胸を揉んだ。

 都さんはノーブラだった。ダイレクトに胸の柔らかさが手に広がってくる。手に収まらないほど大きな胸で、揉むと指が埋まってしまいそうだった。こんなに柔らかな胸を触るのは初めてだった。僕はただ都さんの胸の感触を忘れまいと、揉み続けた。

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