ガチから「ネタ」に!? 秋元康が「AKB恋愛禁止」撤回に動いた事情

akimotoakb0225.jpg※画像:AKBメンバーと秋元康氏(AKS)

 AKB48のプロデューサー・秋元康氏が、23日、TBSラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』に登場した。1月に「週刊文春」(文藝春秋)がスクープした峯岸みなみの熱愛・柏木由紀の合コン騒動以降、沈黙を続けていた「恋愛禁止ルール」について語るということで、放送前からAKBファンの間では注目されていた。そして秋元氏がポロリとこぼした「万策尽き果てた」という言葉をあげつらい、ネット上では「秋元はAKBを放り出すようだ」とか「AKB終了のお知らせ」とかいった話題が駆け巡っている。

 しかし「放り出す」という表現はうがち過ぎだ。この言葉は、恋愛禁止条例をめぐって顕在化してきた様々な矛盾についての話の中で出てきたものである。秋元氏は「私は恋愛するなとは言ってない。“恋愛禁止”というのはいわばネタであり、ペナルティというのは、どうしたらファンに許してもらえるのか、彼女たちが考えること」と、まず恋愛禁止条例の存在を否定。「だからファンからはペナルティの差に納得できないという声も上がるが、本来規則がないんだから罰則もないから仕方ない。何をやっても狙っているように思われ、万策尽きたかもしれない…」と苦悩を明かした。

 いつもならば、AKBがリニューアルしたアイドル文化をあらゆるものにたとえ、質問者を煙に巻いてしまう軽妙トークが得意な秋元氏だが、この日は非常に歯切れが悪く、何度も言い淀むシーンがあり、声に張りもなかったことから、その苦悩は視聴者にも伝わってきた。

「今さら『ネタでした』にはファンもズッコケますよね(苦笑)。だって昨年6月の指原莉乃の熱愛スキャンダルの際には、わざわざラジオ番組に登場して峯岸に『お前は(恋愛)ないよな?』と確認し、前田敦子の卒業時には『(卒業直後の)0時00分になったら恋愛していいよ』と話したりしていたのも、すべてジョークだったのにファンが本気にしていただけ、という意味になりますよ。バラエティでメンバーが『恋愛禁止の誓約書があって、サインしました』と発言したのも全部がジョークだったということですもんね。雑誌インタビューでもたびたび恋愛禁止について振られて、『本当に禁止なんです』と強調していたメンバーは何だったのか。やたらに“ガチ”を売り物にしてきたAKBが、恋愛に関しては“ネタでした”って、ファンは納得できないと思います」(AKBファン)

 普通の女性は、年頃になれば恋愛をしてもおかしくない。しかしアイドルである以上、「普通の女性とは違う」ことが商品の特性であり、ただ歌って踊ってパフォーマンスする以上の特別な存在であることが彼女たちには求められていたのではないだろうか。特別な存在であるがゆえに、恋愛はしない。それが彼女たちとAKBを取り巻く大人たちが築き上げてきたAKBの特殊性だ。

 AKBは「ファンとの距離の近さを大切にしたい」というコンセプトを持ち、80年代アイドルのように完全管理をしてしまったほうが大人にとっても本人にとっても楽であるが、Google+など運営や大人のチェックを必要としない「アイドルとファンとのコミュニケーションツール」たるメディアを導入してきた。身近に感じられるものの、決して手の届かない存在としての「アイドル」像を確立したのである。

 一方で握手会などのふれあいイベントは「キャバクラ商法」などと揶揄されるが、決してコストパフォーマンスの高いイベントではないという。

「握手券封入によってCDをミリオンセールスに結びつけていることは確かですが、大会場を貸し切り、何百名のスタッフとメンバーを拘束し、セットやステージを用意する費用を考えれば、他に効率のよい金儲けの方法はいくらでもある。握手会は、メンバーも、スタッフも、そしてファンも疲弊する。では、なぜAKBは効率の悪いイベントを続けているのか? ひとつには、もう後戻りはできないところまで来てしまったということ。秋葉原の劇場公演をメインに、サブカルチャーの末端で握手イベントを定期的に開催しているだけならばここまでしんどくはなかったが、あまりに規模が拡大しすぎてしまったということです。もうひとつ、ファンの増大とともにアンチも増え、AKBの仕掛けるあらゆるサプライズに過剰反応を示されてしまうということも、運営側を悩ませていると思います」(芸能記者)

 「アンチは人気のバロメーター」というのは真理であるが、アンチの面倒くささはさすがに想定外だったのではないか、ということだ。AKBに限らずだが、現代アイドルのアンチというのは怖いもので、アイドル本人の前では「応援してます」と媚びながらも、ネット上では悪戯に彼女たちを貶める発言を繰り返す。

「自分の推しメンを誉める言葉を知らず、そのメンバーのライバルやセンターポジションのメンバーを“ゴリ推し”だと決めつけ、罵詈雑言で責め立てる。さらに恋愛などの行為が発覚すると、鬼の首を取ったように一斉に攻撃します。その言葉を本人が目にすればどんな思いに駆られるかは想像も及ばないのでしょうか。 匿名の影に隠れて言いたい放題のアンチに監視されながらアイドルを続けるには、図太い精神力が必要とされますし、それはスタッフにとっても言えること。さらに握手会などの場面で直接メンバーに嫌がらせのような暴言を投げかける者もいる。頻発するスキャンダルを見るに、恋愛禁止ルールがAKB内部で形骸化しているであろうことはもはや明らかですが、それゆえに今後、何が発覚しても『恋愛禁止はネタだから』で押し通せるよう、秋元さんは予防線を張ったんじゃないでしょうか」(前同)

 そもそも恋愛禁止条例があったとしても、それは本来内部規約であって、外部の人間であるファン・アンチが裁く権利はない。だが、そういう道理も「俺たちは騙されて金を貢がされた」と騒ぎたてられれば通用しない。しかし、この状況を導いたのは、あえて「恋愛なんてしていませんよ」と喧伝してきたAKB側にも間違いなく責任がある。「会いに行けるアイドル」としてファンとの距離の近さをウリにしてきたがゆえに、この期に及んでまだ「どうしたらファンに許してもらえるのか」などと媚びた発言をしている秋元氏自身、AKBという偶像が矛盾をはらんでいることに気付いていないのではないだろうか。

 さらにもう一点、AKBが抱える問題点として、急速にグループ規模が拡大したことによる人手不足もあげられる。AKBが発足して約6年半になるが、立ち上げ当時「メンバーも運営も素人なので、手作りで成長していきます」と言っていた彼ら。初期メンバーは売れっ子タレントに成長したが、スタッフはどうかと言うと、先日放映されたドキュメンタリー『密着!秋元康2160時間~エンターテインメントは眠らない』(NHK・BSプレミアム)で秋元氏が彼らを叱責する様子が映し出されていた。年に4回のシングルリリースに握手会、テレビ出演、総選挙などのイベント、コンサート…めまぐるしく展開していく仕事に追われ、時間がないと嘆く。これがプロの現場だ、と言い切ってしまうこともできなくはないが、いわゆる「やっつけ仕事」にしか見えないという意見もあるだろう。

「秋葉原の地下アイドル」という典型的なサブカルチャーとして企画・運営されてきたAKBが、結成数年で“国民的アイドルグループ”になった。このスピードについていけないスタッフやメンバーが出るのは当然だ。だが人材を育成する余裕が今のAKBにはない。勢いのあるうちに売れるだけ売り切る戦法で、AKBは戦っているように見える。その一方で「学校化したい」「ジャニーズや宝塚のように連綿と続く文化にしたい」と、これまた矛盾した展望も運営側からは語られる。ここにも大きな矛盾があるのだ。

 健全で確実なグループ運営を望むのであれば、スケジュールに追われて破綻をきたす前に立ち止まり、計画的縮小も視野に入れるべきではないだろうか。
(文=潜水亭沈没)

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