現代はストレス社会である、と言っても過言ではない。毎日、激混みの満員電車に乗り、安い給料でやりたくもない仕事に従事し、職場での人間関係に頭を悩ませ、残業続きでアフター5を楽しむゆとりもない。いや、ゆとりがあったとしても、カノジョもおらず、これといった趣味もないので、どうせヒマを持て余すだけ……という人が少なくないのではないだろうか。そして、そのやりきれない思いを、ネットにぶつける人のなんと多いことか。と、言っても”ネット依存”という意味合いではない。ここでは、”ネット発散”について追及してみようと思う。
ネット上に展開されているさまざまな掲示板やSNSなどは、ほとんどの場合、匿名で利用することが出来る。匿名ということは、つまり自分の発言に対して、本名の自分は責任を取る必要がないということになる。ご存じのとおり、匿名性にはメリットとデメリットがあって、ストレートな本音を発言できるという点は評価できるが、その一方であまりにも品位や礼節を欠いた発言が目立つようになってきた。これは、匿名性のもたらした現象と言えるだろう。
例えばtwitter。プロフィール欄に「裏垢です」と記している人が多く見受けられる。裏垢とは、サブアカウント(メインで取得しているアカウントとは別の、第二のアカウント)という意味。たいていの場合は、「表ではつぶやけないことをつぶやきたいと思います」などと追記されている。しかし、アカウント名を本名にしているわけでもないのだから、わざわざ「裏垢です」などと記さなくてもいいのでは? と疑問に思う人もいるであろう。おそらくこれは、「本当の自分は、愚痴やエッチな内容を呟くような人間ではなく、まっとうな人間なんですよ」とフォロアーにアピールしたいという心理の表れなのだろう。もしくは、自分自身にも言い聞かせたいのかもしれない。
そして、その裏垢で、日ごろのストレス発散が行なわれているのだ。性別が女性と思しきフォロアーに、片っ端からエッチなリプライやDMを送りつけるのはまだマシな方。発散型の人は、自分の投げかけた誘いに対して返信が無かったり断られたりすると、「ブス!」だの「1人でマンズリしてろ!」だの、罵詈雑言を浴びせるのである。しかし、そういった人々も、日常ではおそらくビシッとしたビジネススーツに身を包み、バリバリ仕事をこなしているのであろう。そこで抱えたストレスを、匿名の場で発散していると思うと、嘆かわしいというよりも、悲しくなってくる。おそらく本人にしてみれば、「twitterをストレス発散目的に利用しているつもりは微塵もない」かもしれないが、傍から見れば、これは明らかにストレス発散以外の何物でもない。匿名とはいえ、みっともない発言は慎むべきであろう。
いや、みっともない発言が悪いのではない。他者に不快な思いをさせない限りは、何を発言したっていいと思う。例えば、「会社の新人OLをオカズに、オナニーなう」などのエッチなツイートも、”会社の新人OL”の個人情報を暴露しているわけではないのだから、ノープロブレムである。「営業先の担当者めっちゃムカつく!」などの愚痴も、その人が特定されない限りは許容範囲といえるだろう。しかし、前述の「ブス!」だの「1人でマンズリしてろ!」は、先方も匿名とはいえ、相手が不快な思いを抱くことは間違いない。
では、どこでストレスを発散したら良いのか、という問題に行き着く。これに関しては、面白い方法でtwitterを利用している人がいるので、ご紹介させて頂きたい。埼玉県に住むAさん(38歳・男性)は、twitter上では”会社経営をしている青年実業家”としてアカウントを取得している。しかし、実際の職業は派遣社員。給与も20万そこそこだが、twitter上ではゼロを1つ加えて、セレブなツイートをつぶやいているというのだ。「銀座の○○で寿司なう」「BMWで首都高をドライブなう」だの、すべて真っ赤なうそであるが、特定の誰かに不快な思いをさせているわけではない。稀に、女性フォロアーからデートに誘われることもあるが、丁重にお断りしているとのこと。直接会ってしまっては正体がバレてしまうからだ。Aさん流ストレス発散法を「虚しくなるだけ」と思う人もいるかもしれないが、他者に罵詈雑言を浴びせるよりは、よっぽど健全であるといえるだろう。
(文=菊池 美佳子)