歴史発掘

「わいせつ」の解釈と「修正」の歴史

 法律というものは、条文だけで判断できるものではない。条文がまったく変わらなくとも、その解釈や運用は、世相や社会状況によって激しく変化する。たとえば、代金の支払いができなかったり、借金が返せなくなったりした際には、いわゆる「差し押さえ」になることがある。しかし、「民事執行法」第131条には、「生活に欠くことができない」ものは差し押さえてはならないと定めている。この解釈は時代とともに変化し、以前なら「生きるのには特に必要が無い」と言われたものでも、現在ではエアコンやテレビ、電話なども該当する。

 同様に、「わいせつ」についての解釈も、ここ40年ほどで大きく変わった。「刑法」の第174条以降には、わいせつに関するさまざまな罪状や罰則が並んでいる。しかし、実際にどのようなものが「わいせつ」に該当するのかは、何も決められていない。単に「わいせつは罰する」という趣旨とその罪と罰が並んでいるだけである。

 その「わいせつ」の基準や定義は非常に流動的で、刻々と変化している。現在ではごく当たり前になっている「ヘアヌード」も、1990年代以前には「わいせつ」として処罰の対象だった。当時の男性誌やアダルト雑誌の編集者は、ことのほか陰毛のはみ出し、俗に言う「ハミ毛」に配慮していた。当時のアダルト系編集者たちの間で、「1本まではOK、2本以上だとまずい」という通性があったのは有名だ。

 また、現在は絶対にNGである女性器の陰裂、いわゆる「割れ目」は、90年代以前には完全にノーチェックであった。ゆえに、70年代から80年代にかけて、少女ヌードが全盛となり、都内の大手書店でもごく普通にアート系はもちろん、アダルト系の少女写真集を堂々と購入することができた。

 さらに時代を遡れば、臀部つまり「お尻の割れ目」がわいせつだと判断されていた時期もある。そうした解釈が見られたのは1969年頃のことで、当時の新聞に掲載されたポルノ映画の広告などを見ると、確かにお尻の割れ目にボカシの施されたものが確認できる。ただし、さすがに「ケツにボカシ」はおかしいということになり、この解釈はほどなく解除された。だが、むき出しのお尻はOKということになっても、陰毛、つまりむきだしのヘアがわいせつと判断されなくなるのは、それから20年近くも待たなくてはならなかった。
(文=橋本玉泉)

『Santa Fe 宮沢りえ』撮影:篠山紀信

 
思い出したように見たくなる、歴史的な一冊!

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