フィリピーナのつぶやき

「ヒンディ」エロいフェロモンをまとうフィリピーナの言い訳

sexypinappp0723fla.jpg※イメージ画像 photo by aruysuy2012 from flickr

「ヒンディ」

 よく使う言葉である。意味は(違う)。

「ヒンディ・アコ」(私じゃない)、「ヒンディ・ジャン」(そこと違う)「ヒンディ・カシ…」(違うよ…だから)などなど。

「アヤオ」(やだ)、「アヨ・コ」(私は嫌だ)という否定の言葉があるが、「ヒンディ」は、理由の伴った否定と考えればいいかな。

 ピーナに限らず、フィリピン人はよく使う言葉だ。自分を正当化するため。相手よりも物知りだと示すため。相手を言い負かせて満足するため。図星を指されて否定するためなど、この言葉が出てきたら、その話題と状況を一緒にして考えないと、相手の思惑にはまってしまう。

 ピーナには、プラスチックが多い。プラスチックとは、物を覆うセロハン紙のような物。中に何が入っているか判らないが、きれいなプラスチックで覆われていれば判らないし、美しく見える。

「あいつはプラスチックだから」

 というような使い方をする。

 俺がホテルに勤務しているとき、結構な美女ピーナがいた。開業前で、俺より一週間ほど早く勤務についていた。アシスタントマネージャーのような立場で、日本語が少し話せる俺のサポート的な立場でもあった。

 これが「ヒンディ」をよく使う、プラスチックだった。当時の俺は、まだフィリピン人というものを女房以外、遊んだピーナ以外は熟知していなかった。特に仕事に対しては。だから、このPという名のプラスチックピーナには、危うく信じ込ませられるところであった。

 結局は二カ月ほどで、開業前に辞めていった。俺も引きとめはしなかったし、内心よかったと思っている。ホテルのためにも彼女のためにも。

 152~3cmで40kgぐらい。顔は細面で唇がきゅっと締まり、睫毛が長く薄化粧。鎖骨の作るへこみがセクシーで、ウエストからヒップのカーブが、固くなだらかに滑っていて、足首が細い。髪の毛は自然におろしても、アップでもポニーテールでも似合った。それはそれは、俺好みのピーナであった。

 二人っきりで打ち合わせをしても、開業前営業に出かけても、単身赴任の俺は、楽しくって仕方なかった。そのときは、スタッフハウスに一緒に住んでいたので余計だ。

 仕事もてきぱきとこなしている様に見え、はきはきとした物言いは、見ていても気持ちがいいほどで、俺が6時頃に引き上げても、10時過ぎまで仕事をして帰ってくることもしばしば。

 ところが…プラスチックのカバーは、剥がれてくるものだ。ある日の夜。俺たちは早めに引き上げ、俺は与えられていたスタッフハウスの一室で、本を読んでいた。突然ドアの外が騒がしくなり、Pがノックも無しに俺の部屋に入ってきてドアに鍵をかけ、床にしゃがみこんでしまった。ドアの外では、他のスタッフが何か言っている。

 俺はしゃがみこんで泣き出したPを抱え上げ、どうしたのかと聞いた。Pは、フォルダーを差し出しながら、「誰もあたしの言うことをきいてくれない!」という。

 差し出されたフォルダーには、各部署のスケジュール予定表と作成中のマニュアルがはさんである。

(えっ…これまだ終わってなかったのか?)

 と、俺はその予定表とマニュアルを見たが、とりあえずは、彼女に平均的な慰めの言葉をかけて、ドアの鍵を開けた。

 ドアの外では、ハウスキーピングとフロントのマネジャー予定者のピーナが、腰に手を当てて怒った顔をしている。

 翌日はPを休みにさせて、その場を収めた。だが、まだタガログ語もフィリピン人も、半分程度しか理解してなかった俺は、Pがプラスチックを纏っていることに気づいていなかった。

 その日、マネージャー予定者から話を聞き、外でPと待ち合わせをして事情を聞いた。Pは、「ヒンディ」を使いながら、自分の主張を激しく通したその後、俺を誘ってきた。好きだ。一緒にいたいと。

 その日は辞退したが、数日後俺はPとやった。俺好みのピーナだったのと、単身赴任と仕事で女の肌も恋しくなっていた俺は、欲望に負けたのだ。
 
 Pは、激しく髪を振り乱しながら、俺のおちんちんにかぶりつく。上になって肌を熱くさせながら、腰を振る。バックになってキュートな尻を押し付けてくる。下になって、声を上げてのた打ち回る。

 俺も負けじと応戦した。久しぶりの放出は、痛みを伴うほどだったのを覚えている。

 よかったのは匂いだ。ピーナに体臭を感じたことはあまりない。だが、Pはフェロモン臭というか、エロ臭というか…甘酸っぱい匂いを、熱くなった身体から発散させていたのだ。頭の中に、Pに対する疑問が無かったら、虜になっていたかもしれない。

 数日後からPに対して抱いていた疑問が、ひとつひとつと明らかになってきた。まず履歴書だ。カレッジ卒業で日本語教室に通い、日本の千葉にあるホテルでフロント業務のトレーニングを受ける。と書かれているが、実は高卒じゃぱゆきさんで、日本の千葉のパブに3回行っていたのだ。

 事実を突きつけると「ヒンディ」の連発。自分の主張を通して曲げない。その後は、お手上げ状態の俺にお誘い。こいつをまともにしなければという思いと、あの匂いの欲望で、数回お誘いに乗った。激しいセックスをしながらも、こいつを仕事上で仕えるようにするのは難しいかなと思い始めた頃、マニュアル作成の遅延、スタッフ募集の不手際、銀行との交渉問題など、次々とぼろが出てきた。

 それだけのスキルが無いのに、見栄を着飾ってオーナーに取り入って雇われ、できないといえず、現場で少しでも権力を持っている俺に、身体を与えて取り込もうとしたわけである。

 呼び出して、ミスと問題を突きつけて黙っていたら、「ヒンディ」は出てこなかった。お誘いはあったが、首を振った。

 頑張り屋で頭は悪くなかったので、プラスチックを着込んで、「ヒンディ」と言い訳を理由にした否定を多用しなければ、よかったのにと残念である。

 もっとも、俺にとっては短い時間の間で、フィリピン人を理解するのに役立ったし、激しく気持ちいい思いをさせてもらったので…何とも言えないが。

 あのとき、ドアの外で怒っていたハウスキーピングのマネジャー予定者は、俺の退職後に退職し、職を変えた。そして、今でも俺と付き合っている。普通の顔立ちだが、セクシーな身体でPと五分五分の、激しいセックスをする。

「やりたいんでしょ?」

「ヒンディ~」

 と、甘えるようにしか「ヒンディ」は使わない。

 「ヒンディ」という言葉は、嫌いだ。
(文=ことぶき太郎)

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