フィリピーナのつぶやき 第10回

フィリピン、郷に入っては郷に従え…なかった「頑固」なおやじ

quarrel0626fla.jpg※イメージ画像 photo by Lawyersdotcom from flickr

「マテガス・ナン(ナ)・ウロ・モ」

 マテガスは固い、ウロは頭、モはあなた、ナン(ナ)は助詞みたいなもんだ。あなたの頭は固い。つまり(頑固)ということ。

 人の忠告を聞かなかったり、スタイルを変えなかったりすると、言われてしまう。日本人的には、そんなに頑固ではないようなことでも、頑固になってしまう。

 自分が一番、自分が正しいと思い込んでいるピーナには、自分の言うことを聞かなかったら、その相手は頑固になってしまうのだ。

 3才やそこらの子供に対して、母親が「マテガス・ナン・ウロ・モ!」と叱っている光景を見ると、この母親は頑固だな、なんて思ってしまう。

「マテガス・ナン・ウロ・コ(私)」と言って、自分の一物付近に目を移動させると、ピーナの喜ぶ下半身ジョークになる。

 とんでもない勘違いおやじがいた。いまは日本に帰っているが、帰りたくなくても、帰らざるを得なかったのだろう。ここは日本ではない。ところがこのおやじにとっては、日本でもどこでも同じだったようだ。同居していた彼女に、いつも「マテガス・ナン・ウロ・モ」と言われていた。

 日本で退職後に離婚。日本へ出稼ぎに行っていたピーナを求めてやってきた。最初のうちは、仲良く暮らしていたが、3カ月程度で雲行きが怪しくなり始めた。

 まずはスタイル。スラックスに開襟シャツ。胸に金の首輪をみせびらかし、腕にはに金の時計と金の腕輪。ブランドのセカンドバッグを、胸に抱えるようにして、大事そうに持って出歩く。(私は金持ちの日本人で、バッグの中には大事なものがたくさん入ってますよ)と、言いながら歩いているようだ。こういう人に限って、たいした金持ちはいない。

 そして誰彼かまわず微笑を振りまき、ガードマンにチップ、デパートの売り子にもレストランのウェイトレス、警察官にまでチップをあげる。最初案内したときに注意したのだが、ニコニコ笑っていうことを聞かない。食べ物は、日本雑貨店まで行き高い食材を買う。フィリピンのローカルマーケットへは絶対に行かない。肉や野菜はデパートやモールのスーパーマーケットだ。

 朝、買い物に行けば、絶対にローカルマーケットの方が新鮮で安い。問屋や仲介業者を通し、数日かけて店頭に並ぶスーパーマーケットは、見た目こそきれいでも鮮度にかけるのだ。それにフィリピンでは、廃棄処分というシステムも言葉もないのではないかと思うような、色変わりしたものまでラップされて並べられている。それでも、絶対にローカルへは足を運ばない。

 フィリピン料理は食べず、お米は日本米。外食は日本料理店、または焼肉店。ローカルなパンもお菓子も、食べない。タガログ語を覚えようとせず、英語はグッドモーニングとイクスキューズミー。しかも、強い日本訛りで通じない。それでも出かければ、すれ違う人みんなに笑顔を振りまく。国全部が、フィリピンパブにでもなったように思ってるみたいだ。

 さすがに彼女も切れた。

 「マテガス・ナン・ウロ・モ」の連発。

 言葉を覚えないおやじに、頭が固い。料理を食べない日本おやじに、頭が固い。襲ってくださいといわんばかりのスタイルに、頭が固い。夜のスタイルにも頭が固い。

 えっ?…そう、このおやじセックススタイルも、頑として変えなかったそうだ。それも亭主関白で、やりたいときにやって、自分だけ満足して終わっちゃうのだそうだ。ピーナは、ぼやきだらけ。ものすごい頑固、だと。

 日本にいるときはお店だけだし、たまにデートしても優しかったし、日本にいたからよかったんだ。だけどここは日本じゃない。フィリピンだ。フィリピンに慣れようとしない、馬鹿おやじ。頑固おやじだ。

 おちんちんだって、そんなに固くならないのに、いつもフェラチオさせて、あたしのあそこは舐めてくれない。自分だけ終わって、あたしは終わってない。20分もないんだよ。

 彼女は、これが一番頭にきていたのかな。舐めてよと要求しても、あたしが上になると言っても受けつけずに、自分だけが満足するスタイルを通したおやじの頑固さに。

 決して(マテガス)ではない頭を持っている彼女は、セックスが満足できずに、他のことに対してもイライラし始まったようようでもある。

 彼女の容姿は普通であるが、弾力のありそうな肌は、男をそそるものがある。それなのに、センズリの代わりに使用しているようでは…。ピーナとセックスするなら、本当に楽しまなければダメだ。そして楽しませなければ。

 このおやじは、日本で通いつめたフィリピンパブの印象を、そのまま持ってきて生活しようとしたのだ。あの雰囲気を楽しもうとして。

 一歩、足を脚を踏み入れれば、みんなが歓迎してくれて接待してくれて、日本の食べ物で日本語で…と。

 大きな勘違い。

 日本で数回の性交渉をしたからといって、生活の延長線上にあるセックスライフが、同じようにいくと思っているのか?

 日本人であれば、誰でもが歓迎してくれるのか?

 日本の封建的亭主関白が、海外で通じるのか?

 自分だけの常識で、海外で生活を楽しめるのか?

 冗談じゃないよ、頭が固すぎる。と、彼女はおやじとの同居を止めてしまった。金を貰っても、やってられないと。うんっ。心身ともに健全なピーナだ。

 一人残されたおやじは、何も出来なくなってしまった。

 彼女の通訳と案内がなければ、出かけられなかったおやじ。

 衣・食・住の衣・食に困ってしまった。

 「つきあってよ」と、泣きべそをかいていたおやじに付き合った。

 ドライブをして温泉に入り、夜はカラオケパブへ行った。若くて可愛い子が、それぞれエロや色を振りまく。歌って踊って、ジョークで笑って楽しいひと時を過ごしたが、おやじには楽しくなかった。

 「やっぱりフィリピンパブは、日本のほうがいいな」だって。
 
 冗談じゃないよ、おやじさん。そもそもが違うものなんだよ。

 田舎から出てきた貧しくて若くて可愛い子、というのは同じかもしれないが、日本とフィリピンでしょ。日本に行き、言葉も常識も違う中で頑張っても、寂しくて悲しくてやりきれなくなるピーナと、自国でカモの男を待ち受けるピーナがかもし出す雰囲気そのものが、違うのだから。

 その一週間後、おやじは帰った。

 帰るときに、彼女と俺で面倒を見てやった。

「マテガス・ナン・ウロは、いらないよ」と彼女はつぶやいていた。

 マテガス・ナン・ウロのピーナにそう言われては、おしまいだ。
(文=ことぶき太郎)

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