アイドルに対する行き過ぎた愛情は罰せられる! 殺害予告するファンたち

 5月31日、声優、平野綾への殺害予告を行ったとして、警視庁は威力業務妨害の疑いで札幌市在住の作業員古市友一容疑者(24)を逮捕した。古市容疑者は今年4月から5月にかけ、掲示板「2ちゃんねる」に「今すぐあなたを殺しますので今すぐあなたを殺しに行きます」「平野綾を殺しました フジテレビピカルの収録スタジオを爆破します」などの書き込みを投稿。さらにTwitterでも、自身のアカウントから「今すぐ あなたを殺しに行きます」「死ぬ 死ぬ 死ぬ」など、リプライの形で平野本人に宛てて投稿を繰り返していた。繰り返される犯行予告に2ちゃんねるでは古市容疑者を監視するスレッドが立てられる事態にも発展していたという。逮捕を受け平野は、Twitter上にて心配の声を寄せたユーザーに対して「ありがとうございます。私は大丈夫です。色々とお騒がせして申し訳ありません」とコメントしている。かたや古市容疑者のほうは「書き込んだことは間違いない」と容疑を認めているという。

 こちらの件はひとまず犯人逮捕に至ったが、殺害予告に悩まされているのは平野綾だけではない。先日、総選挙が行われたばかりのAKB48メンバー、大島優子に対しても10日、掲示板「2ちゃんねる」に殺害予告と思われる書き込みが発見されている。「え~本日、AKB48メンバー大島優子を殺害することをここに決意。時刻は9時過ぎです。血まみれにさせます。(略)ぶっ殺すなどというレベルではない。過剰殺傷だよw目ん玉飛び出すよ」と、きわめて過激かつ悪質な内容である。

 AKB48メンバーへの殺害予告はこれだけではない。先の総選挙で1位に返り咲いた前田敦子に対しても、今年1月、殺害予告がなされていることが分かっている。2ちゃんねるとは異なる小さな掲示板サイトに「前田敦子殺す!!」というタイトルのスレッドが立てられ「握手会で殺します」と書き込まれていた。こちらの件は容疑者逮捕には至っていない。

 これらのような殺害予告は、その内容によって異なるが、脅迫罪、偽計業務妨害罪、威力業務妨害罪などに該当する。例えば今回の平野綾への殺害予告であれば、書き込みによってフジテレビおよび平野本人の業務を妨害したという威力業務妨害罪となる。脅迫罪での逮捕、起訴は滅多になく、業務妨害罪で逮捕されることが一般的だ。これらは刑法の「信用及び業務に対する罪」にあたり、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられる。懲役刑が下された場合、初犯であれば執行猶予となることがほとんどだが、容疑者の名前はニュースで大きく実名報道され、それなりの社会的制裁を受ける。

 殺害予告で有名なものは2008年に発生した秋葉原連続殺傷事件だろう。この事件で逮捕された加藤智大は、掲示板サイトに犯行予告と思われる書き込みを行ったり、犯行直前まで実況を行ったりしていたことが知られている。この事件以降、通り魔自体だけでなく殺害予告も一時的に増加しており、事件から3カ月で66名もの逮捕者が出た。ネットでの予告にとどまらず実際に犯行を犯した人間が現れた事を受け、秋葉原事件直後にはこの手の犯行予告の情報を共有するサイト「予告.in」も公開され、捜査機関も情報提供を呼びかけている。言ってみれば近年、これら3件のような殺害予告は、逮捕される可能性が高いのだ。

 にもかかわらず、昨今でもアイドルへの殺害予告がなくならないのは何故か。その大きな理由としては、ファンとの距離感の変化が挙げられるだろう。AKB48については”会いにいけるアイドル”というコンセプトを掲げており、劇場や握手会で定期的にファンとの交流を持ち続けている。また平野綾は今回の容疑者も利用していたTwitterで、ファンと頻繁に交流している。特にTwitterでは、簡単にアイドル本人につぶやきを送ることができるため、単なるファンであるにも関わらず、それなりにアイドルと仲良しであるように勘違いしやすい。

 このように、”身近さが売りのアイドル”の台頭やSNSの普及でアイドルたちをより身近に感じられることになったことは、ファンが自分の存在を相手に強く認識してもらえていると勘違いさせ、それを加速させる。しかしそのアイドルが自分の中の理想と異なる言動をしたときや、”裏切られた”と感じたとき、愛情は憎悪へと早変わりし、中には殺害予告という衝動に向かうものもいる。特に、彼女らのように頻繁にファンとの交流を持っている場合、”素の部分”がファンの目にも留まりやすく、その結果、本人たちが全く意図しなくてもファンが”裏切られた”と感じてしまう機会が増えてしまうのではないだろうか。アイドルとファンの距離感が近くなったことによるメリットももちろんあるだろうが、このような弊害もあるのだ。

 しかしいずれにしても殺害予告は行き過ぎた行為。アイドルは人間であり自分の理想通りには振る舞わない、という当たり前のことを、今回の容疑者や、未だ逮捕に至ってないAKB48メンバーへの殺害予告犯は、肝に銘じた方がいいだろう。

『秋葉原事件―加藤智大の軌跡』

 
行き過ぎた行為は自重しよう

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