公共交通24時間化を“アダルト方面”から考える

※イメージ画像 photo by Marcelle Bradbeer from flickr

 4月中旬、「都内の地下鉄が24時間化されるのではないか?」という話題がインターネット上を騒がせた。騒ぎの発端となったのは、すでに地下鉄24時間運行の街・ニューヨークを視察した東京都知事の、「都内の公共交通も24時間化を検討したい」という発言。その数日後に総理官邸で催された産業競争力会議にて、さっそく都バス24時間運行の話題があがった。年末には、六本木~渋谷間での試験運行も始まるとか。

 ここまでは、地下鉄の「ち」の字も出ていない。しかし、これまでの日本には、欧米諸国の文化を積極的に取り入れてきた歴史があるため、近い将来ニューヨークに倣って、地下鉄も24時間化になるのではないかと、大衆は危惧しているのだろう。

 仮に公共交通が24時間化になると、大打撃を受けるのは、タクシー会社やインターネットカフェだけではない。我々一般人のセックスにも、少なからず影響はあるはずだ。「終電」は、男と女いとっては、実に都合のいい言い訳となる。男にとっては、女性をホテルに連れ込む恰好の口説き文句。また、性欲旺盛な本性をひた隠し、簡単には股を開かないことを美徳している女性たちも、「終電を逃してしまったので仕方なく」という大義名分のもと、お泊り・セックスに応じることができるのだ。公共交通が24時間化してしまうと、終電を逃させるためのテクニックとして磨いてきたこれまでのハウツーが無駄になるし、誘われることを期待している女性たちも大義名分を失い、股を濡らしつつも自宅に帰っていくことになるだろう。

 そう考えると、公共交通24時間化に伴って美味しい思いをするのはアダルトグッズ業界ということになる。男性も女性も、終電解散になることで、熱くなりかけた股間は己で鎮めるしかなくなってしまう。オナホールやバイブレーターの使用率が上がると、買い替え回数もおのずと増えるだろう。また、オカズアイテムとしてエロ本やAVの購買欲もアップする可能性もある。女性向けのレディースコミックや官能小説も同様。アダルトグッズ業界やオカズ業界は、公共交通24時間化に期待を寄せているかもしれない。

 話を戻そう。公共交通24時間化に伴うセックスへの影響は、ただでさえセックス離れが著しい現代人を、ますますセックスから遠ざけてしまうのではないのだろうか?

 一部のお盛んな人を除き、現代人のセックス離れは加速の一途を辿っている。理由は、インターネットの発達によってコミュニケーション能力が劣化したことが大きいだろう。セックスに興味はあっても、どのように持ち込んだらいいのかわからない現代人が増えているのだ。やり方がわからないと、人間は投げやりになってしまう。「もういいや、面倒くさくなってきた」と、セックスへの関心が薄れていくのだ。むろん、ほかにも理由はある。二次元のエロ描写に慣れてしまったことで、実際の性的行為に対して嫌悪感を抱くようになった人も少なくない。もっと単純に、「仕事で疲れてセックスどころではない」という切実な人も存在する。そう、公共交通が24時間化してしまうと、残業が増え、社畜と呼ばれている人々は逃げ場を失うことにもなるのだ。疲労困憊状態で帰宅し、その後疲れた身体に鞭打って古女房や同棲しているカノジョを抱く気分にはなれないだろう。

 以上を踏まえ、公共交通24時間化は、現代人のセックスにとって百害あって一利なし! と断言したくなるが、一般女性たちから、目からウロコの意見が挙がってきた。公共交通24時間化は、現代男性の草食化を食い止める効果が期待できるというのだ。これまで、女性を酒に酔わせてなんとなくの雰囲気で「終電なくなっちゃったね」とホテルに連れ込む流れが成立しなくなり、ラテン男性さながら「キミを抱きたい」「キミをセックスしたい」とストレートな表現をするようになる。現代男性たちが肉食動物としての本能を取り戻すというわけだ。そう考えると、公共交通24時間化も悪くない気がしてきた。とはいえ、公共交通24時間化は、現実的にはかなり難しいとされている。それまでは、終電がもたらす恩恵を堪能し続けたいものだ。
(文=菊池 美佳子)

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