レズビアンの若干憂鬱な日常 第3回

カミングアウトが難しい!! レズビアンは引越しがしたい!

※イメージ画像 photo by radish.spirit from flickr

 この町に引っ越してきて、2年と少しがたとうとしている。よく行くコンビニ、行きつけの美容院や洋服屋、好きな書店に図書館、おいしいレストランや落ち着くカフェ、そういったものがいくつもある。なかには、「こんにちは」とか「お久しぶり」だとか、親しく話し掛けてくれる店員さんもいる。そんな時、私は嬉しくなるのと同時に、たまらなく逃げ出したくなるのだ。

 今すぐ荷物をまとめて、恋人と猫とともに、慣れ親しんだこの町から引っ越したくなる。

 どうしてか?

 それは、私がカミングアウトしていないレズビアンだからである。

 カミングアウト、という言葉は、どれくらい知られているものだろうか? 一応、この場を借りて説明させていただくと……。カミングアウトはカムアウトとも言い、広い意味では「告白」と同義語。そういったニュアンスで使っている人も多いだろう。では、狭い意味での「カミングアウト」とはどういうものなのかというと、自分のセクシャリティ(=性行動の対象の選択、つまりセックスの相手や、性に関連する行動・傾向全般のこと)を誰かに打ち明ける行為のことを指す。つまり、私の場合は、「私はレズビアンです」と人に伝える行為がカミングアウトとなるのである。

 同性愛者の中には、「初対面の人には誰にでもカミングアウトする」という主義の人もいる。私の友人のゲイの男性も、そのひとりだ。

 理由として彼が語ってくれたのは、「どうせすぐに分かってしまうことだし、それならさっさと知ってもらった方が気が楽。それで離れていく人は、そこまでだったと思えばいいし。あとは、隠れゲイの人との出会いも増える!」という、非常にポジティブなもの。

 確かに、彼の言うことはとても正しい。自分のセクシャリティに対して偏見のない人とだけ付き合いたい、と思うとき、カミングアウトはとても正確な試金石となってくれるだろう。私も、何人かの親しい友人や、弟妹にはカミングアウトしている(弟妹以外の肉親には言っていない)。理解してくれる人が周囲には多く、とても恵まれていると思う。

 しかし、美容院のお兄さんや、洋服屋のお姉さんにいきなりカミングアウトするのには、どうしても抵抗がある。言うなれば、向こうもこちらも、うわべだけしか見せない相手だ。そんな相手に、いきなりセクシャリティなんかアピールされても、向こうだって困ってしまうだろう。

 そういうわけで、美容院や服屋などの日常会話で「彼氏とかいるんですか?」と尋ねられても、つい、「ああ、いますよ~。同棲してます!」と答えてしまう。彼女を彼氏に置き換えて、ヘテロセクシャル(=異性愛者)を装ってしまうのだ。

 いや、初めのうちはそれでも別にいいかもしれない。しかし、相手と親しくなればなるほど、どんどんボロが出てくるのだ。

「彼氏と付き合い長いんでしょ? 結婚しないの?」と聞かれると、「いや~、まだいいかなって思って」とかわし、「彼氏とデートするとき、うちに寄ってよ!」と言われると、「あはは、そうですね~、でも彼氏最近忙しくて、当分無理かも」なんてはぐらかす。そして、そんな細かい嘘をつき続けている自分に、だんだん嫌気がさしてくるのだ。

 いや、これでもかなりましになったかもしれない。以前、販売員として働いていた時は、職場に女性しかいなかったこともあり、話すことといえば恋愛トークばかりだった。同僚から「彼氏の写メ見せて!」と言われた時の恐怖といったら! 「いやあ、彼、写メとか苦手で、プリクラも一緒に撮ってくれなくて……」などとごまかしていたが(実際は彼女の写メフォルダまであるほど撮りためている。隠し撮りの寝顔なんかもある)、あれはあまりにも苦しかったなと今でも思う。

 現役の販売員である私の彼女も、同様の悩みを抱えているようだ。

「職場の人に、初めは友達と同居してて彼氏とは遠距離、って言ってたんだけど。彼氏とどれくらいのペースで会ってるの、とか聞かれたりして、だんだん嘘つくのが面倒になってきて……もう、彼氏と同棲始めた、っていうことにした。でも、それはそれでめんどくさいよねえ、うちに来たいって言われたらどうしよう……」

と、先日、ため息交じりに語っていた。

 そんなふうに、さまざまな人に対してついた、小さな嘘が重なってくるほどに、私たちは思うのだった。

「ああっ、知らない町に引っ越して、何もかもリセットしたい!」と。

 もちろん、リセットしたからといって、また嘘を重ねなければならないことに変わりはないのだけれど。カミングアウトをしない限りは……。

(文=嶋陶子/レズビアンライターの普通な日々

嶋 陶子(しま・とうこ)
某文系大学卒業後、婦人服の販売員として働いていたが、全く向いていないことを悟って辞職。ライターの道に入る。レズビアンであり、女性パートナーと同棲中。

【レズビアンの若干憂鬱な日常バックナンバー】
第1回 レズビアンの同棲にロマンはない!?
第2回AVから感じる違和感!? レズビアンのセックスは意外とシンプル

『官能劇場 レズビアン生活 その四』

 
彼女たちは引越しどうしてるの?


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