【アイドル音楽評~私を生まれ変わらせてくれるアイドルを求めて~ 第12回】

おニャン子クラブの正当な後継者はAKB48ではない――「アイドル戦国時代」の行く末

 うがった見方をすれば、「TOKYO IDOL FESTIVAL 2010」はアイドリング!!!のための壮大なプロモーションだったのかもしれない。そう考えてしまうほど、「TOKYO IDOL FESTIVAL 2010」の2日目、8月8日のメインステージでの最後のライヴである「NIGHT LIVE」でトリを務めたアイドリング!!!のライヴは盛り上がっていた。

 「アイドル戦国時代」という言葉もある種のバズワードのような気がするのだが、たしかにAKB48、Perfume、モーニング娘。がいなくてもこういうイベントが開催されてしまう、というのはエポック・メイキングだ。ダンスの実力を見せつけたさくら学院、ソウル・ファンク路線の楽曲で冒頭から攻めてきた東京女子流、当人たちはゆるく歌い踊っているだけなのにこちらが正気を保てないぐらい盛りあがってしまったTomapai、アイドルとしての王道を突き進むYGA、「アイドル戦国時代」というならその覇者になるであろう圧倒的なステージを見せつけたももいろクローバー。彼女たちのライヴをまとめて見ることができたことには、かなりの満足感があった。

 アイドリング!!!では、フロアのヲタにも火がついた状態で、ヲタがヲタを持ち上げるリフトケチャも発生。ロック・フェスティヴァルとは次元の違うフェス感が濃厚に出ていた。日程が重なった「SUMMER SONIC 2010」には恵比寿マスカッツが出演して話題を呼んだが、アイドリング!!!はまさにアイドル側からのアンサーとなるべき存在だった。

 アイドリング!!!への激しいヲタのコールは、おニャン子クラブ世代の私の胸を打つものがあった。フジテレビでおニャン子クラブ世代のスタッフが手掛けたアイドリング!!!は、現在秋元康がプロデュースしているAKB48よりもおニャン子クラブっぽいのだ。最後の楽曲を聴きながら、私はある種の郷愁すら感じていた。

 アイドリング!!!は、2006年に放送が始まったテレビ番組「アイドリング!!!」などに出演しているグループだ。メンバーの卒業や加入も行われてきた。現在のメンバーには、グラビアで人気が上昇中の森田涼花も在籍している。そして、今回の「TOKYO IDOL FESTIVAL 2010」の総合プロデューサーである門澤清太は、アイドリング!!!のプロデューサーでもある。また、「TOKYO IDOL FESTIVAL 2010」の公式サイトのコンテンツは、フジテレビのドメイン以下に存在している。アイドリング!!!は「TOKYO IDOL FESTIVAL 2010」の主役だった、と見てもいいだろう。

 「プールサイド大作戦」は、アイドリング!!!にとって13枚目のシングル。チャートの最高位にやや振れ幅があるアイドリング!!!だが、今回はオリコンの週間シングルランキングで7位という好成績を記録した。

 タイトル曲「プールサイド大作戦」は、速いスカにエレピ風のキーボードが細かく絡む、練り込まれたサウンドだ。作詞はleonn、作編曲は日比野裕史。日比野裕史はタッキー&翼などのジャニーズ勢や、AAAなどのエイベックス勢への楽曲提供で知られる。「勝負ビキニ」という単語も使いつつ、サビには夏らしい爽快感があり、直球勝負の気持ち良さがある。

 ただ、おニャン子クラブが86年に発売した「お先に失礼」では、「誰かねェ早くレディーにさせて」などというドスケベ感のある歌詞を秋元康が平然と書いていたことや、アイドリング!!!が08年にリリースした「モテ期のうた」の聴けば聴くほど頭が悪くなる感触を思い出すと、ここはもうひとつケレン味が欲しくなる。とはいえ、20人が水着で歌い踊るビデオ・クリップはまさに「束ものアイドル」としての強みを感じさせる映像で、DVDが付属している初回限定盤を買って自分に素直になれば、もう細かい問題はどうでもよくなってしまう。

 同じく日比野裕史が作曲した「GO EAST!!! GO WEST!!!」は、憂いのあるメロディーが往年のアイドル歌謡を連想させる。ミナミトモヤ作曲による「ドキドキが止まらない」は、特に最初と最後のソロがせつない。胸の奥をくすぐるメロディー・ラインの佳曲だ。3曲のパッケージとしてのクオリティは高い。「アイドル戦国時代」を煽る側として、充分な武装ぶりだ。

 「TOKYO IDOL FESTIVAL 2010」は、屋内や野外にいくつものステージが用意されていたが、事務所などのバックの強さが如実に反映されているタイムテーブルでもあった。「アイドル戦国時代」という言葉を解きほぐすポイントは、そうしたビジネス面の力関係だろう……という凡庸な結論になってしまうのだが、それもつまらない話だ。

 そんなわけで、「プールサイド大作戦」のビデオ・クリップをもう一度見ることにしよう。そうすれば、ほら、頭の中にプールの水が流れ込んでくる。

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