一時代を築いた監督がなぜ今!

AVは権利が監督にないからヤバいよね! 「AV難民」監督陣、吼える!(中編)

左から、バクシーシ山下監督、平野勝之監督、ゴールドマン監督

前編『豪華監督陣がAV難民!? 謎のレーベル「AV難民」誕生のきっかけは』こちら

──皆さんしばらくあまり仕事がない時期があったそうですが、その時期はどうして過ごされてたんですか?

平野 自分でもどうやって生活してたのかわかんないよね。ハマジムにちょっとお世話になったりはしてたんだけど……。俺営業が苦手だからさ、せっかくアポ取れてもすっぽかしたりして、重要な仕事は全部ハズしちゃってる。

──一時期、ドリームチケットで人妻モノを撮られてた時期もありましたよね?

平野 そうそう、なんとかなりそうだなっていう時期もあるんだよ。でもなぜか2作目撮った後はどこからも仕事が来なくなるんだよね。

山下 めんどくさいからだよ(笑)。

平野 いや、ちゃんと注文通りに撮ってるんだって!

──ゴールドマンさんは?

ゴールドマン 僕はハメ撮りの仕事はあったんで、オムニバスものの1コーナーとかだけ呼ばれて撮ったりっていうのがここ4~5年ですね。バイトみたいなもんですよ。年寄りになってきたんでみんな優しくしてくれるし、まぁいいかなって。最近はカメラもハイビジョンになってきてるんで、カメラも向こうが用意してくれて、全部セッティングしてるところに僕がパンツだけ持って行くっていうような感じ。

山下 大先生じゃないですか。篠山紀信の撮影みたい(笑)。

ゴールドマン まぁ、録画ボタンは自分で押しますけどね。そんな感じで一応今日まではやってきました。来年からは……島忠ホームセンターのバイトの面接に行こうかと。

島忠のバイトはかなりハードっぽい

山下 なんで島忠?

ゴールドマン ウチの近所にできたんですよ。

山下 あそこは働きがいありそうだよね~。

──山下さんはどうだったんですか?

山下 僕はね、全然仕事してなかったんですよ、鬱病で。年に1本か2本しか撮ってないっていう時期が2年ぐらいあって。その時はヤフオクで車のパーツとか売ってました。

平野 それだ! 俺もヤフオクで色々売ってたわ。

──「AV難民」というレーベル名については、初めて聞いた時どう思われました?

ゴールドマン 愚かだなぁ、と。

平野 俺が冗談で「俺らAV難民なんだよ」って言っちゃったら、プロデューサーがそれに決めちゃったんだよね。

ゴールドマン そう。もっと売れそうな名前にしとけば良かったのに。まぁ、確かに難民だからしょうがないけど、売れないメーカーがさらに売れない要素作ってどうすんの? っていう。

山下 「まさか!?」と思ったよね、こんな名前。

ゴールドマン それでやっぱり結局売れてないからさぁ、ギャラも値切られて。

山下 問題の根本はそこですよね。

ゴールドマン そうそう。

平野 そもそものギャラが安いのに、そこからさらに値切ってくる。

──そもそも、現場にかかる費用がものすごく安いと聞きましたが。

ゴールドマン 平野組は安いだろうね。自宅で撮ってるし。

山下 2千円ぐらい?

平野 実質それぐらいかもしれない時もある。フィルムが一番高い。

ゴールドマン おにぎりとかも買ってこないで、自分ちにあった餅焼いたりしてるもんね。飲み物もなんか、水とか……。

山下 水道水(笑)。

平野 僕が一番現場費は使ってないだろうね。

ゴールドマン 後で怒られたんでしょ? 餅の件で。

平野 いや、怒られたっていうかさぁ。その場では別に何にも言ってなかったし、俺も昼メシ食うお金ぐらいはあるから「外に何か食べに行ってもいいよ?」って聞いたんだよ。でも後でまた同じ女優さんを撮ろうとしたらNGで、理由聞いたら「現場で餅だけとは思わなかった」みたいな感じでさぁ。

山下 平野君、餅何個食ったの?

平野 2~3個かな?

山下 女優さんは?

平野 2個ぐらい。

ゴールドマン 平野君の方がいっぱい食ったから怒ったんじゃない?(笑)

AV女優の怒りの沸点は良く分からない?

平野 餅の他にちゃんとご飯が用意されてると思ってたみたいなんだよね。それがなかったから怒っちゃったっていうか。まぁ、最初現れた時からイヤな予感はしたんだよ。ヒョウ柄の服にサングラスかけててさ。

山下 スター気取りだね。

ゴールドマン セレブVS.難民だとそりゃ相容れないよね。まぁ、制作費がゼロに近いっていうのはちょっとないよね。ウチの大原社長(プロデューサー兼社長)ケチだからさ。

──「AV難民」の作品を拝見して、皆さん基本的な作風は変わってないんですが、なんだかフレッシュな感じがしまして。

平野 アッハッハッハ(笑)。

山下 フレッシュ(笑)。「新しい」だよ? ホントにしてる?

──してますしてます。肩の力が抜けてるというか、いい感じに風通しがいいというか。

山下 まぁ、割り切ってるからね。

──「AV難民」でコンスタントにリリースされるようになってから……。

山下 コンスタントじゃないんだよ、全然!

ゴールドマン 騙されたよね。「コンスタントにやるから待っててね」って言われてもう4カ月ぐらい経ってる。4カ月仕事ないんだよ、また。

平野 俺、こないだそれ大原社長に言ったら逆ギレされてさぁ。なんで俺が怒られなくちゃいけないの?

ゴールドマン 「AV難民被害者の会」みたいなレーベルになってるわけですよ。

──久しぶりにわりと自由に撮れる場所ができたことで、こういう作品が生まれたのかなと思ったんですが。

ゴールドマン まぁ、そこまで余裕ないですよ。

山下 とりあえず明日のご飯が食べられるかどうかってとこですからね。

ゴールドマン とりあえずギャラを本当にくれるかどうか、っていう不安が80%。

山下 それが撮影以上に大問題だからね。

平野 最重要課題だよ。内容とかそんなの関係ねーよ! ギャラくれるかどうかだよ。いかにラクに終わらせて、自分を納得させて、それで金もらうかしか考えてないッスよ。
──もしソフト・オン・デマンドさんとか大手メーカーから「撮って下さい」っていう話が来たら、みなさん行きます?

平野 行く行く。全然行きます。

山下 行きますっていうか、行くどころかねぇ。

ゴールドマン 行くっていうか、150%ぐらいそんな話は絶対ないからねぇ。

山下 そんな酔狂な人いないよ。

ゴールドマン まぁ、大手はフォーマットが決まってて、その通り撮れるかどうかっていう部分もあると思うんだけど、平野氏は「撮れます撮れます」って言って全然違うもの撮ってくるんだよね。

平野 そんなことしないですよ。

山下 女子社員と餅食ったりとかね。

平野 なんかさぁ、まともにやってるのもあるのに、俺はそういうとこばっかり目立っちゃうから損なんだよね。

ゴールドマン 人妻のヤツとかは真面目にやってるもんねぇ。

平野 そうそう。ハマジムのやつとかも言われた通りにちゃんとやってるんだよ。それなのに「めんどくさい」って言われたらたまったもんじゃないよね。

ゴールドマン でも、俺が前にラブホでたまたまテレビつけたら、女優さんが端っこの方に映ってて、平野が真ん中にいてさ。「これ平野が主役なのかなぁ」みたいな。

平野 いや、そんなことないッスよ。

ゴールドマン 印象が強いんだろうね、本人の。

平野 そうみたいね。だからちょっとしか出てなくてもそういう記憶になっちゃうみたい。

──平野さんは自転車雑誌でコラムを書いたり、山下さんも本を出されたりしてますが、皆さん映像以外の道っていうのは考えたことはないんですか?

平野 今はそっちの方向にシフトしようかなとは思ってるよ。自転車は自転車でマニアックなんだけど。AVはさぁ、権利(著作権)が(監督に)ないのがちょっとヤバいと思っててさぁ。今まで俺20年も真面目にやってて、一本も権利ないんですよ。

──作品が劇場公開されたり、由美香さんのDVDボックスが発売されたりした時も平野さんに収入は……。

平野 ないですね。入ってこないです。全部制作会社に権利があるから、俺には一銭も来ない。

──監督に著作権がないというのは、昔から言われているAVの問題点ですよね。

平野 「AV難民」に関しては、そこは著作権を監督に持たせるみたいなことを言ってるけど、まだ信用なんないよね。

ゴールドマン いざとなったら払わないタイプだよね。大原社長。

──大原さんは、今のうちに皆さんにたくさん撮っていただいて、ケーブルテレビとかで使われる時に印税のような形で皆さんに収入があるようになればいいな、とおっしゃってましたが。

ゴールドマン そんな話は罠なんですよ。

山下 そんなオイシイ話はない。

ゴールドマン それよりもなぜ、今ギャラを値切るのかと。

平野 今ギャラ払えないのにどうして将来ギャラ払えるんだよ。

山下 (笑)。

ゴールドマン そうだよねぇ。

──「AV難民」をやる以前に、動画配信をやるとか、そういう手を考えたことはないんですか?

ゴールドマン そんな知恵があれば難民にはなってないよねぇ。

平野 きっとやる気になれば何かできるんですよ、俺だって。ただ、そのやる気がない。

山下 ホームレスっぽい発言だな(笑)。

──平野さんは「撮る」ということ以外にあまり興味が向かないですか?

平野 興味を持てればハマりこんでやれると思うんだけど、それが商売の方にはあんまり向かないよね。

山下 商売のこととかあんま考えてないよね? 家賃のこととかも考えてないし。

平野 いや、そんなことないよ。家賃は考えるよ。

山下 何カ月滞納したんだっけ?

──9カ月滞納されたと聞きましたが。

平野 それは大げさだよ。そんなに滞納してないよ!

──山下さんは、出版の方は?

ゴールドマン 印税でね、いい感じになるんじゃないの?

山下 いや印税って大したことないですよ。労働時間に換算すると男優より安いですよ。

──「よりみちパン!セ」(理論社)でも出されたのに……。

山下 まったく反響ないですね。

平野 売れてないの?

山下 売れてないですね。増刷されてないですから。

平野 俺もたまに日本映画学校で講師やって2万とかもらったりすることあるけど、それが本職にはなんないからね。

山下 それどんなこと話すの?

平野 いや「AVってステキね」みたいな話。

山下 そういう難民のたわごとを聞いてくれるんだ。学生が。

平野 そうそう。聞いてくれるの。「実践が大事なんだ! こんなとこでこんな授業とかやってる場合じゃない!」ってチ○ポ触らせてカメラ持ったりして……。

ゴールドマン だからやっぱり社会性がないってことなんだよね。自分たちでは普通だと思ってたけど、ハタから見ると「この人たちはちょっと……」ってことになっちゃってるんだよ。

山下 反省会になってますね(笑)。やっぱり、自分は自分を見れないじゃないですか。でもこうやって二人を見てると「あ~、こういうことか」って感じするよね。

平野 なんかヤだなぁ、それ(笑)。

ゴールドマン 今だって一応「監督」って名前で使われてはいるけど、結局僕ハメ撮りだから男優代いらないし、安く作れるでしょ? ってだけのことなんだよね。

平野 監督、監督って言われるけど、監督らしいことなんて全然やったことないよねぇ。「用意、ハイ!」「ハイカットぉ!」なんて言ったことないもん。

ゴールドマン 僕は最初は単体女優でドラマとか撮ってたから、監督らしいことがなかったってこともないんだけど、結局それがつまんなくて一人でカメラ持って自分でやり出したから、監督っていう仕事はしたくないってことだよね、僕は。女優さん自体も大勢のいる前で「用意、ハイ!」でやるよりは二人きりでホテル行った方が発情するじゃないですか。そっちの方が撮りたいな、ってことで、結局難民化してるんですけど。

──AVを知らない人からすれば、なんでそれだけのことで仕事がなくなるの? って思うことだと思うんですよ。女優さんを発情させようという、良い効果を狙ってやってることなのに、なんでそれで仕事がなくなってくの? っていう。

ゴールドマン それで一日に3回も4回もセックスしたり、すっごい潮を吹かせたり、すっごいピストンだったり、すっごい量の精子が出たりすればいいんでしょうけど、今のAVでは普通にラブホ行ってセックスするだけじゃ作品のウリがないってことになっちゃうんですよ。派手さがないし、今はもうそれぐらいやるのが当たり前になってるから、それがない時点でダメだよね。で、僕も年齢とともにショボくなっていくし、水墨画のような枯れた表現になっていくし……。今のAVの求める方向とはやっぱ違うんですよ。

──山下さんは「AV難民」で、ギャル女優の彩花ゆめちゃんの自宅に行って撮影されてましたが、あれは面白いですよね。

山下 面白いっていうか、お金がないんでねぇ。

──お金がないから苦肉の策だった、と。

山下 そうそう。平野君と違ってウチは猫もいるし子供もいるから使えないしね。自分ちが使えないなら女のコの家で、っていう。

──セックスの面でも、以前はもっと淡々とハメ撮りされてる印象があったんですが、2回も結構しっかりセックスされてて、何かパワーアップしている感じがしました。

話し方は淡々としてます

山下 してますか? ありがとうございます。

ゴールドマン でも、2回セックスして疲れちゃうと、作品としては面白いんだかどうだかっていう感じになっちゃうことない?

山下 どういうこと?

ゴールドマン いや、セックスしちゃうと発射して「あー、ちょっともう眠いから帰って」って気分になっちゃうっていうか。作品がどうとかよりも体力がもうもたなくてさぁ……。

山下 作品よりも自分が大切だ、みたいなね(笑)。次の日朝起きて「あー、もうちょっとああいうの撮っとけば良かったな」みたいなのはありますね。

ゴールドマン もうギャラと体力との戦いだよね。普通の工場で働くのもそうだと思うけど。

──いかに効率よくショートケーキに苺をのせていくか、みたいなことですよね。

平野 (笑)そうそうそう。

後編に続く
(取材・文=雨宮まみ)

AV難民公式サイト

※1月13日(水)に新宿Naked Loftでこの三監督が出演する「AV難民」のイベントが行われます。
スケジュール、詳細はこちら

●平野勝之(ひらの・かつゆき)
AV監督、映画監督、文筆家、写真家、冒険家。
1964年、静岡県浜松市に生まれる。少年時代は漫画家を目指すが、高校で映画に出会う。ぴあフィルムフェスティバル(PFF)に3年連続して入賞を果たし、映像の世界へ。1990年からはアダルトビデオ作品を数多く監督する。その活動の幅は広く、林由美香と共に自転車で北海道縦断旅行をしたAV作品を「由美香」と題して一般映画として公開したのを皮切りに自転車3部作を完成させる。

●ゴールドマン(ごーるどまん)
昭和38年3月9日生まれ。血液型O型。
87年アートビデオ、アルファーレーベルより「電撃バイブマン」でAVデビュー。89年アートビデオよりリリース した60分ワンカットの8mmビデオ作品「なま」から本格的にゴールドマンワールドを構築。以降、一対一の プライベート感覚を武器に、ハメ撮りビデオを300本以上制作。

●バクシーシ山下(ばくしーし・やました)
1967年1月27日生まれ,岡山県邑久郡(現:瀬戸内市)出身。
衝撃的レイプ作品「女犯」でデビュー。あまりにリアルな作風から、後にフェミニズム団体から抗議を受ける等、物議を醸すこととなった。その一方で社会諷刺を題材としたAV作品を手掛るなど、「社会派AV監督」の異名を持つ。V&Rプランニング退社後はフリーで活躍、ハマジムやナチュラルハイなどで作品作りをしているが、編集の遅さと失踪癖により、コンスタントに活動はしていない模様。代表作には「女犯」シリーズ、「ボディコン労働者階級」、「激犯」など。著書には『セックス障害者たち』、『私も女優にしてください』(共に太田出版)等がある。

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