世界のアダルトパーソン列伝

【世界のアダルトパーソン列伝】「処女膜無用論」を展開した細菌学者

※イメージ画像:『近代医学の建設者』岩波書店

 「処女」または「処女膜」というものについては、古くからいろいろと論じられてきた。しかし、そのほとんどは処女性という価値観によるものであった。ところが、近代に入ってから処女を生理学的に分析し、その意味、いや価値について否定した研究者が登場した。

 その、科学的手法によって処女膜不必要論を主張したのは、ロシア出身の細菌学者、イリヤ・イリイッチ・メチニコフ(1845~1916)である。

 メチニコフはその著書『Etudes sur la nature humaine』(人間の性質について)の第1部第5章で人間の生殖器官について考察を試み、このなかでおもに処女膜に関して検証している。そのなかでメチニコフは先人たちの研究成果に自らの調査と考察を加え、処女膜が倫理的観点からは大きな意味を持つものありながら、生理学的には何の意味もない、役に立つ機能がない可能性がきわめて高いことを指摘した。

 また、彼は処女性についてはヤダヤ教やキリスト教などのように倫理的価値観から尊重されるケースがある一方、処女膜を「邪魔なもの」「不必要なもの」として幼少期に除去する風習を持つ民族や地域についてもいくつもの実例を引用している。

 さらに、その成立については不明であるとし、同時に「膣への雑菌等の侵入を防ぐ器官の名残ではないか」と推測した上で、処女膜は今日ではそうした衛生保守的な機能を失ってしまっていること、実際のセックスにおいても、ペニスのスムーズな侵入を阻害する可能性や、性感の度合いに処女膜の有無がほとんど関係ないことなども挙げている。

 こうしたメチニコフの指摘から考えれば、処女および処女膜とは、生理学的、動物学的にはなんの価値もないものであり、その価値があるとすれば「処女性」という精神論的なものでしかないということになるのである。こうした考え方に、キリスト教的な道徳観で凝り固まったヨーロッパの人々は、さぞ驚いたのではなかろうか。

 さて、メチニコフ先生は細菌学や動物学でさまざまな研究成果を残している。今日でいうアンチエイジの研究にも熱心で、「ヨーグルトを日常的に摂ると長生きできる」という健康法も、メチニコフが始めたとされている。1895年には細菌学では世界的な権威のあるフランスのパスツール研究所の所長に就任。1908年にはノーベル生理学・医学賞を受賞している。

 ちなみに、日本では明治時代以前には、処女性とか処女の純潔とか、そういったものに対して価値あるものという認識はまったくなかった。処女だから清潔だとか、非処女だから傷モノだとかいうような価値観を示すようなものは一つもなく、むしろ処女とか童貞は「未熟な子供」「訓練を受けていない者」として、半人前とみられていた。

 こうした考え方は明治維新以降も受け継がれた。そして、未成年者にセックスを訓練するためのシステムとして、「童貞開き」「十三サラワリ」「夜這い」といった実地研修が全国各地で盛んに行われたことは、数々の資料によって今日まで伝えられている。
(文=橋本玉泉)

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