フィリピーナのつぶやき 第6回

フィリピーナはしつこいけれど、しつこくされるのは嫌い

※イメージ画像 photo by gen_genxx from flickr

 ピーナはしつこいけれど、しつこくされるのは嫌いだ。

「マクリッ(ト)」というのが、(しつこい)という意味だ。「マクリットゥ・モ」は、(あんた、しつこいよ)となる。

 デパートで、セールスレディが後を付いてきたり、誰かが何度も同じ話をしたり、携帯でメッセージを送ってきたりと、しつこい状況はたくさんある。

 だから、結構頻繁に使う言葉である。だが、ピーナに顔をそむかれてつぶやかれると…嫌われ始まる第一歩だと考えたほうがいい。

 そして、だれかれ問わずにおしゃべりを始めたら、第二歩目を踏み出している。

「マクリットゥ・ナ・シャ」(あの人、しつこいのよ)となるのだ。

 こういう告げ口、おしゃべりは結構耳にすることが多い。結婚している人には少ないが、同棲中のカップルや雇われメイド。あるいは、カップルの兄弟や親がおしゃべりをする。

 半日もかけて近所を廻れば、どこの誰が頑固者で誰がしつこくって、誰が女好きかなんて、すぐにわかる。誰が風邪を引いてるとか、芸能人の誰と誰がくっついたなんてことまで判るのだ。

 ピーナは下の濡れた唇と同じように、口がよく動いておしゃべりをする。それが、ストレスを発散することにもなるのだから、濡れた下半身の唇と同じだ。おしゃべりする口の動きを見ていると、ついつい淫らな想像をしてしまう。

「マクリッ…」と人に対して言うが、それ以上に本人がしつこいのには、気づいていないかもしれない。

 ある若い日本人が、フィリピンへ赴任してきた。独り者でゴルフもあまりやらず、食事も外食。慣れてくると一人で呑みに行ったりし始めた。

 若いだけに、ちょっとしたピーナを見つけるのに、さほど時間は必要ではなかった。見つけたというよりも、見つけられたといったほうが正解かもしれないが、本人してみれば、期待していたピーナを捕まえたのだから文句はない。

 彼女もショッピングセンターに勤めていて、週の半分は彼のアパートへ転がり込む生活が始まった。半同棲といったところだ。飲み屋街やレストランで見かける頻度が減った。彼女が料理・洗濯をし、上手くやっているのだろう…と思っていた。

 2カ月ほどして久しぶりに会った彼は、極端に痩せていた。フィリピンの暑さにまいったかと、こけた頬を見ていると、何か悩みを抱えているようにも見える。

「どうしたの? 暑さと仕事でまいちゃったかな…」と話しかけると、気のない返事。

 ぼつぼつと、恥ずかしそうに話し始めた内容にはちょっと驚いた。彼女がしつこいというのだ。ベッドの上で。よく笑い話にするけど、実際にやりすぎでこんなに痩せこけるのは、見たことがない。

 話し始めると、止まらなかった。

 一発やった後に再度せがまれるくらいなら、まだいいんだけど…、熟睡してるときにふっと気が付くと、おちんちんにむしゃぶりついている。放出した後のおちんちんを咥え込んで離さず、嘗め回す。そそり起ってしまったおちんちんを収めるには、挿入して放出するしかない。そうして、何度も挑まれ勃起させられ入れて放出していると、朝が来て出勤。一晩で5回も6回もやった後に、寝不足で仕事はつらいとうなだれている。

 料理もして洗濯もしてくれて、可愛くて明るくていい女なんだけど、セックスだけは、しつこくてついていけないとこぼしていた。

 気持ちいい悩みだけど…大変だろうなと思った。そのときになったら、「マクリッ!」とは言えないだろう。言ったら怒り出すし、手放すのには惜しい。

 その一月足らず後に、彼女が一人で飲み屋街を歩いているのに、バッタリと出会った。

「きょうは、一人?」と訊いてみると、
「わかれた」と言う。

 日本人の彼が「マクリッ」(しつこい)というのだ。

(はっ?)

 彼から話を聞いていた俺は、首を傾げてしまった。その後、彼女から出てきた言葉は妙にあっけらかんとして面白かった。

 要するに、セックスをしようとすると、疲れてるとか後でとか拒否して、それがしつこいというのだ。ピーナは、この手の話は恥ずかしげもなく平然と話をする。現在付き合っていないのだから、平気なのだ。

 気持ちよくしてあげてるのに。おちんちん固くなってるのに。あたしは、びしょびしょなのに。と、魅惑的な唇からぽんぽんと飛び出してくる。

 小さめの、引き締まった身体をしている彼女は、童顔できれいな肌をしている。その口から、きわどくストレートな言葉が飛び出してくると、ちょっと不思議な感じがする。

 しかし、時折見つめてくる濡れた瞳の奥には、性に対する欲望が渦巻いているのだ。自分の性に対するしつこさは当然で、しつこく拒否して嫌々やるのは、悪なのだと語っている。おそらく性的に満たされるまで…いや満たされてからも、しつこさは変わらないだろう。

 あの肌に触れて、あの唇に咥えられて、長めの髪を振り乱しながらの騎上位…などと考えていたら、

「いま誰もいないの。デートしようか?」

 と、潤んだ眼で見つめられてしまった。

「そのうちね。」

 と答えたが、話を聞いていた俺は、想像だけでご馳走様だった。

 現在、彼は新しいピーナを見つけて付き合っている。すべてがほどほどで、ちょうどいいと言っている。会う頻度も、セックスの回数も、そして料理もまずまずだと。

 向上心や向学心には、ある程度のしつこさが必要である。しかし、欲望に対してのしつこさには辟易するところがある。

「マクリッ!」

 何に対して言われているのか…ほどほどにして過ごそう。
(文=ことぶき太郎)

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