一時代を築いた監督がなぜ今!

「僕らみたいな種類の人が淘汰されるのは当然」あの有名監督たちがAV難民に!?(後編)

左から、バクシーシ山下監督、平野勝之監督、ゴールドマン監督

(前編はこちら、中編はこちら

──皆さんの立場から見て、今のセルビデオはどう思われますか?

平野 観てないでしょ?

山下 観てない(笑)。平野君も何が売れてるとか分かんないでしょ?

平野 分かんない(笑)。

ゴールドマン 僕は一応チェックはしてて、イラマチオものとか好きなジャンルはあるんですよ。まぁでも買うお金がないから、ジャケットを見て内容をイメージして、家に帰ってオナニーしてる。

──一応流行りはチェックしてると。

ゴールドマン そうですね。ザーメンとかイラマチオが最近結構来てるとか、そういうのは分かるし、お客さんにとってはすごいいいことだと思うんですよね。自分がAV始めた頃って、選ぶほどジャンルもなかったし、「女子高生」って書いてあるけど中を観たらオバチャンだったり、騙しみたいな世界だったから……。今はホント女のコも色んなことできるコが増えたし、ジャンルもちゃんと分かれてるし、ユーザー的にはいい時代が来てると思うんですよね。だから僕らみたいな種類の人が淘汰されるのは当然っていうか。

山下 そこに落ち着くんだ(笑)。

ゴールドマン ただ、淘汰まではされなくてもいいとは思うんですよ。はじっこの方に置いてもらえればいいかなっていうか。劇画誌の最後に4コママンガとかついてたりするじゃないですか。ああいうポジションのものだと思うんですよね、僕らって。だからそういう位置にいられればいいなと思うんですけど。

平野 別にメインになるつもりはまったくないんだけど、端っこの方に何かよくわけ分かんないものがあるっていう、それぐらいのゆとりはあって欲しいなって思うよね。

──そういう雑多な場所があってもいいんじゃないかと。

ゴールドマン だから「AV難民」っていうのにもっと大手メーカーが資本を入れてくれればいいな、と思うんですけどね。

──2010年からレンタルも始める、という話ですが。

ゴールドマン それも罠だと思うんですよね。大原社長が言うオイシイ話は今のところ全部罠だからね。ホントかどうか疑わしいよ。(※注・ちゃんと1月24日からレンタル開始されます)

──山下さんは、最近のAVをどう思いますか?

山下 観てないんですけど、自分が必要とされてないんだろうなっていう確信はありますね(笑)。カンパニー松尾は必要かもしんないけど、俺は別に撮んなくていいじゃんっていう。「俺が死んでも世の中変わんない」って自殺する人みたいな心境ですね。まぁ、実際のところAVって監督じゃなくて女のコ、女優だと思いますよ。監督は必要かもしれないけど表に出る必要はなくて、女のコ次第だと思うんで。ただ、売れてる女のコで何かやるっていうのは僕らの求めてるものとは違うんで、そのあたりをどうやるかっていうのが僕らの生きる道なんじゃないかなと思いますね。

バクシーシ山下監督

──そういうものを求めてる人もいるかもしれないですしね。

山下 言葉にはしないけど、今のAVを「ちょっと違うな」って思ってる人も少しはいるんじゃないかなっていうのは、実感として感じますね。

──AVを観始めた時から今のセルAVのパターンを観ている人にとっては「AV難民」の作品というのはすごく新鮮というか「なんだろう?」「こんなの観たことない」と感じるんじゃないかと思います。

ゴールドマン 僕らが20代の頃やってたことはもっと爆発力があったと思うんですけど、今は体力的にも精神的にも途中で「もう帰りたい」みたいな感じになってるからね。そこまで現場にすべてを注ぎ込む力は残ってないと思うんです。でも観てる人は貪欲になっていって「せんずり命」「ヌケなきゃ殺す」みたいな感じだからねぇ。どうなんだろうね。

──AVって確かに女優さんがメインのものですけど、そういう当たり前のセルビデオでは出てこない女優さんの一面が「AV難民」の作品の中では出てきているので、女優さんのファンの方が観ても面白いんじゃないかと思うんですが。

山下 いや、あれでもまだ消化不良なんですよね。もっと出したいところもあったんだけど、出せない部分もあって。

──平野さんの作品でも、二人きりになってるからこそ出てくる女優さんの顔がありますよね。

平野 昔からそういう撮り方は変わってないんですよね。僕は女好きなんです。カンパニー松尾君とかはセックス好きだけど、僕は女好き。女が好きだからそうなっちゃうのかもしれないね。

山下 でも松尾君は自分で衣装用意して着せたりするじゃん? あれが俺分かんないんだよね。分かんないでしょ?

平野 いや、そんなことないよ。あれはやっぱりマニアの特質ですよ。パーツマニアの。

山下 だって自分が持ってきたもんでしょ? 自分が持ってきたものを着せても、もともと着てきてくれたもんじゃないから俺は別にうれしくないんだよね。そこで興奮できるっていうのは確かにちょっと羨ましいかもね。

平野 衣装でスイッチ入る女のコっていうのもいるからさ、そういう効果もあるかもしれないよね。「今日はこんな衣装着れるんだ~」って、それも撮影の楽しみのうちみたいなコもいるじゃん。

山下 俺、そういう撮影を楽しみにするような女がダメ。

ゴールドマン プロっぽいコ?

山下 そうそう。「撮影、できればやりたくない」っていうような女のコの方がいい。「今からでもやめたい」「間違ってました」みたいなコの方が正直な感じがしていいかな。

──本音を見せてほしいっていうことなんですかね。

山下 AVに出たいっていうのも本音かもしれないけど、それって一時的なものだと思うんですよね。

ゴールドマン そんなの、そんなヤツばっかりじゃん(笑)。逆に考えると僕らがAVやる理由もその日暮らしの現金が欲しいためなんだから、AV出たい女のコとまったく同じじゃん!

山下 そうだね、同じなんだよね(笑)。まぁ、そういう仕事してメシ食ってますんで、あんまり強くそういうこと言えないんですけど。

──ゴールドマンさんは言葉の魔術で女性をノセていくところがありますが、そういうのでスイッチを入れてる感じはありますか?

ゴールドマン 自分では一生懸命やってるだけなんで、スイッチを入れられてるかどうかは分かんないんですけど、僕プライベートでも女がしゃべってないとセックスできないんですよ。会話がないまま「あーん、あーん」って言われてると「ああ……」ってテンション下がってきちゃう。やっぱり淫語が入ってて、なおかつ気持ちでは言うのはイヤなんだけど身体が感じちゃってるみたいなのじゃないとダメなんですよね。すみません、エロ本の読みすぎでこんな人間になってしまって……。僕もカンパニー松尾チックなルックスへのフェチっていうのはあって、網タイツだったりヒールだったりするとちょっとテンション上がるんですけど、もう20年ぐらいやってるんでねぇ……。本当は地方の投稿マニアが投稿してるような、ああいう情熱でやっていけるような感じが一番いいと思うんですよね。仕事じゃなくて趣味でやればいいって思うんですよ。

ゴールドマン監督

──ちょっと今どういう結論なのかよくわからなくなってきたんですけど。

ゴールドマン だから島忠ホームセンターで働いて、それを本職にして趣味で撮ったヤツを「AV難民」に納品するっていうのが本当はいいと思うんですよね。自分がヤリたい女を探して、好きな服着せてヤって。仕事でずっとやってる時点でもうダメなのかもしれないですけど、自分が素人になった方がいいんだろうなって気はしますね。女のコが「女優です」ってお仕事感覚で来るのもつまんないし、自分が「監督です」って仕事で出ていくのもつまんないし、エッチじゃないから、お互い素人同士で撮れれば一番いいのかな、それが「AV難民」なのかな、って気がします。

──皆さんはこれから「こういうのを撮りたい」っていうのはありますか?

平野 別にそんなんないですよ。

ゴールドマン とりあえず「ギャラよこせ」と。

山下 夢語った方がいいんじゃないの?

平野 夢? 夢かぁ……。

──こういう風になったらいいなっていうような状況はあります?

平野 ……仕事しないで生活していけたらいいなぁ……。

山下 今まさにその状況じゃん! 10月から編集もしないでずーっと暮らしてんだから!

平野 10月に引っ越してからパソコン繋いでないから編集できないんだよ(笑)。

ゴールドマン まだパソコンあるからいいじゃん。うちパソコンないからさぁ。

平野 まぁ、「AV難民」が売れてくれればいいよね。可能性としては限りなくゼロに近いけど。

山下 もうちょっと開き直る必要はあると思いますよ。まだちょっと半端に「売れよう」としてるところがあるから、それよりは振り切っちゃったものを作った方がいいと思う。

ゴールドマン 小さいレーベルは何かパンチがないとダメだよね。

山下 DVDを手に取ってくれる人にケンカを売るような感じにした方がいいと思うんだよ。中身は別に変えようがないからねぇ。

平野 変えようがないっつってもさぁ、もうちょっといろいろナマやれるとかザーメンぐちゅぐちゅやれるとかいうコを呼んで来てベチョベチョのセックスを撮るとか、そういうのがあればねぇ、まだちったぁ売れると思うんだよね。

平野勝之監督

山下 撮ればいいじゃん。

平野 俺は撮りたいって言ってんだよ。できればいいんだけど。

ゴールドマン ギャラいくらってことだけ決めて、もう素人のコでも何でもいいから撮っていいっていうのが一番いいんだよね、多分。面白いのできると思う。

平野 そうそう。AV女優だとやっぱゴムしなきゃダメだとか、仕事感覚で来ちゃうからさぁ。撮れないんだよね、そういうのが。

ゴールドマン 山下芸能(バクシーシ山下監督の経営しているモデルプロダクション)の女使えばいいじゃん。一万円で本番できるコとかいるんでしょ?

山下 今、6千円で本番できるコいるよ。

平野 それお店より安いじゃん! どんな人なの?

山下 「……実写?」みたいな人。なんかCGみたいな。ちょっと怖い。最初5千円で本番だったんだけど、やる気あるから20%アップして6千円になったんだよ。

ゴールドマン 「AV難民」としてはそういう人を撮っていくと、難民っぽいイメージだと思うんだけど、大原社長はやっぱり顔とか胸とかがこういい感じの女を撮って欲しいみたいなんだよね。普通の考え方なんですよね。だから中途半端なんだよなー。

山下 もうちょっと振り切った方がいいよね。

平野 俺もそう思う。

ゴールドマン まずギャラを一週間前に全部現金で渡してくれれば、もうちょっとモチベーション上がるんですよ。

山下 不安だもんね(笑)。

ゴールドマン そう。納品して本当にギャラが貰えるのか不安。

平野 まずその不安を取り払ってくれないとね。

ゴールドマン なんか労働組合みたいになってるよね。

──今、AV女優もすごく増えてるから、仕事がなくて食べていけない「難民女優」もいると思うんですよ。

平野 あー、そこに目つけるのはいいかもしれない。

ゴールドマン そういうところにすごいエグいセックスするコとか、面白いコがいると思うんだよね。

平野 そもそも「監督が難民」って、お客さんには何の関係もないじゃん。「AV難民」とか言われてもさぁ。

ゴールドマン 貧乏な監督がすごいセレブな女とセックスするとかだったらまだコンセプトとしては分かるんだけど。

平野 そうそう、それならわかりやすい。いきなり「AV難民」とか言われても分かんないよね。

──じゃあ今後はもうちょっと振り切った方向に行ければいいかな、と。

山下 そうですね。そう思います。
(取材・文=雨宮まみ)

AV難民公式サイト

※1月13日(水)に新宿Naked Loftでこの三監督が出演する「AV難民」のイベントが行われます。
スケジュール、詳細はこちら

●平野勝之(ひらの・かつゆき)
AV監督、映画監督、文筆家、写真家、冒険家。
1964年、静岡県浜松市に生まれる。少年時代は漫画家を目指すが、高校で映画に出会う。ぴあフィルムフェスティバル(PFF)に3年連続して入賞を果たし、映像の世界へ。1990年からはアダルトビデオ作品を数多く監督する。その活動の幅は広く、林由美香と共に自転車で北海道縦断旅行をしたAV作品を「由美香」と題して一般映画として公開したのを皮切りに自転車3部作を完成させる。

●ゴールドマン(ごーるどまん)
昭和38年3月9日生まれ。血液型O型。
87年アートビデオ、アルファーレーベルより「電撃バイブマン」でAVデビュー。89年アートビデオよりリリース した60分ワンカットの8mmビデオ作品「なま」から本格的にゴールドマンワールドを構築。以降、一対一の プライベート感覚を武器に、ハメ撮りビデオを300本以上制作。

●バクシーシ山下(ばくしーし・やました)
1967年1月27日生まれ,岡山県邑久郡(現:瀬戸内市)出身。
衝撃的レイプ作品「女犯」でデビュー。あまりにリアルな作風から、後にフェミニズム団体から抗議を受ける等、物議を醸すこととなった。その一方で社会諷刺を題材としたAV作品を手掛るなど、「社会派AV監督」の異名を持つ。V&Rプランニング退社後はフリーで活躍、ハマジムやナチュラルハイなどで作品作りをしているが、編集の遅さと失踪癖により、コンスタントに活動はしていない模様。代表作には「女犯」シリーズ、「ボディコン労働者階級」、「激犯」など。著書には『セックス障害者たち』、『私も女優にしてください』(共に太田出版)等がある。

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