ラッシャーみよしの「エロ業界栄枯盛衰物語」第6回:1983年

ビニ本、裏本、裏ビデオの女王、田口ゆかり! 初期裏ビデオ・ブームの到来

往年のAV女優・田口ゆかり。別名”裏本の女王”とも呼ばれていた。

 あの頃、ビデオデッキは高かった! というわけで、ぼくの場合は大学院の研究生活において、もっとも金になりそうだった「露語版ゲルツェン全集全30巻」を古書店に18万円で叩き売り、厚さ15センチほどもあるシャープ製のVHS方式ビデオデッキを1台購入したのでありました。

田口は90年半ばまで一線で活躍していたが、薬物使用で逮捕、引退。近年の熟女ブームで見事復活を果たした。

 
 あ~あ。19世紀の革命家も、自分の本が裏ビデオを見るために二束三文で叩き売られたなんて、夢にも思わなかったでしょうね(笑)。というのはともかく、世間は前年の1982年に登場した裏ビデオ『洗濯屋ケンちゃん』の話題で持ちきり。一説には10万本売れた……と言われていますからね。家電メーカーは認めたがらないけれど、このビデオを見たくてデッキを買ったという人の数は相当なものだったと言います。かく言うぼくだって、エッチなもの見たさに「魂」まで売ってしまったわけですが、実際に見た『洗濯屋ケンちゃん』はダビングに次ぐダビングで、なんだかよくわからないものでした。クッキリ見えるはずのアソコだってぼんやりしていて、ボカシが入っているようなありさま。

『黒い菊』より。田口演じる未亡人が実に妖艶。エロいです。

 そうなんです。当時は今のようにDVDではないから、VHS、あるいはベータ・テープのダビング物だったわけです。歌舞伎町の怪しい裏ビデオ屋で高価な金を払って購入したものでも、すでに数回ダビングした代物。まして安物などは無際限のダビングの産物で、ぼくらが見たのはそれをさらに友人間でダビングしたものだから、もうアソコの様子はボケボケのボケマンだったわけですね。

 

 見えないのじゃ、意味がねえじゃん!

『黒い菊』より。この撮影のすぐあとから彼女の転落の人生が始まってゆく。

 でも、それでもみんな一生懸命になって裏ビデオを見ていました。『洗濯屋ケンちゃん』に続いて『IN SHOOT 恐怖の人間狩り』という作品が話題になりました。こちらは某テレビ・ドラマのスタッフが作ったという触れ込みで、マスコミでも「犯人探し」。ぼくが個人所蔵していたのはこちらの方ですが、やはりボケマンでした(笑)。

 ところが、大人の好事家たちの中には「本物の」ファーストもの(1回しかダビングしていないもの)を持っている人もいて、そういう人の家で見せてもらった裏ビデオは、まさにクッキリとアソコが映っていたのでした。

 おおっ! と上がる歓声。時は1983年。初期裏ビデオ・ブームの到来です。

『忘れな草』より。女体盛りを世間に広く啓蒙した作品でもある。

 1983年のラインナップとして記憶されるべきは、かの有名な田口ゆかり(※1)の主演作品である『雪国』『ザ・キモノ』『将軍 家光』。田口ゆかりといえば、それ以前はビニ本の女王であり、裏本の女王だったわけですから、裏ビデオの女王の称号を得て、まさに三冠王となったわけです。どの作品も本格的なドラマ物で、海外で見られることを前提にした着物姿。いやあ、裏なのに金と時間がかかっています。この頃の裏ビデオ制作者はたいてい、映画畑、TV畑の人たちでしたから、作品が本格っぽい。ハメてばかりの最近のAVを見ていると昔の作品が懐かしく思えるのは、「ドラマ仕立て」ということが一因なのかもしれません。

※1 1978年にビニ本でデビュー後、裏本や裏ビデオなどあらゆる作品に出演しポルノシーンを確立。当時はまだ珍しかった顔射や精飲、膣内射精などで積極的に男性の精液を受け入れる姿勢は、後年の裏本に大きな影響を与えたと言われている。

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